第3話 幼少期Ⅲ
近隣の洞窟で魔物狩りを始めてから数週間が経った。
前に修行をしていた山とさほど距離は離れていないが、発生する魔物の生態系は随分と違っていた。
山に現れたような大型の魔物の出現率は極めて低く、中型の魔物が群を成して攻撃してくることが多い。
小型の魔物は最早いなかった。
かと言ってやる事は変わらない。ひたすら魔物を狩り続け、実践経験を積む。その上で新たな戦術を生み出す。
洞窟の入り口から倒して行って、最深部まで辿り着いたら折り返し。計画通りなら、四年はかからないだろう。
少し気は遠くなるが、僕は強くなりたい。その一心で、僕は洞窟へと潜る。
洞窟での修行開始から一年が過ぎた。
特にやっている事は変わらないが、新たな発見もあった。
それは魔石の存在だ。
師匠からは魔石は換金する為の物と教わってきた。しかし、魔石は特殊な加工を施すことで魔法が使えるようになることが分かった。
まぁ、使えると言っても一回こっきりだ。魔石を相手に投げつけると、魔法は発動する。
発動する魔法は加工者の技量による。元々、魔石に魔力は込められているので、やり方次第では僕でも加工できるのだ。
結論的に、僕は体外に魔力を放出するのができないだけで、魔力操作が行えることに気づいた。
魔石に秘められた魔力を操作し、何個も別種類の攻撃用魔石を生成する。これが、新たな僕の武器である。
魔石の投入によって出来るようになったことと言えば、相手の目眩しや隠密とかであろうか。
魔石で敵を倒すのも可能ではあるが、それでは魔石に頼りきりな戦闘になってしまう。これでは成長の余地がない。
なのでこれくらいに抑えている。
洞窟修行、二年目。この年では、洞窟には階層主がいることがわかった。
洞窟は何層かに分かれて、その層ごとに階層主が最奥にて待ち構えている。彼らは普通の魔物よりも強力で、突破できるかが強さの指標になるだろう。
けれど、この事実を知ったところで変化は大きくなかった。僕が積み上げてきた五年以上の修行は、強大な敵を前にしても崩れなかった。
程よい緊張感はあれど、僕が負ける事は一度たりともなかった。
愚直な基礎の積み重ね。けれど、それを応用したりなんだりすれば、簡単には壊せない。
階層主に手こずる事は今のところなかった。
洞窟に籠って三年目。僕はとうとう、洞窟の最深部に到達した。
長かった。全百五十層から成る洞窟を進む日々は、どれもよい糧になった。
あとは最深部の魔物を倒すのみだ。
「やっとお出ましか」
僕は剣を引き抜き、狼のような魔物に戦闘を仕掛ける。
魔物は僕に攻撃をしてみるも、どれも単調で僕の体には届かない。全て剣で薙ぎ払われる。
数分それを繰り返していると、魔物は攻撃の手を止め、服従の意を示すかのように頭を地面に擦り付けた。
「ごめん、君を生かす気はない」
僕は魔物の首を剣で一閃する。
魔物の体から魔力が、蒸発した水のように抜けていく。水と違うのは、幻想的な光景を生み出すという点だろうか。
さて、これにて洞窟修行は終わりだ。
予想よりも一年早く終えられた。今日中にでも帰って、師匠に無事を伝えることにしよう。
僕は荷物を纏めて洞窟を出て、師匠の家へと帰宅した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま帰りました」
僕が家に帰宅すると、勢いの良い足音が聞こえてきた。
「兄さん、おかえり!!」
「おかえりなさい!」
弟──グレイルと妹──ミレアだった。
見ないうちに凄く大きくなっている。それもそうか。グレイルは八歳、ミレアは七歳になるのだから。
と言うか弟よ、七年もあってないのに、僕が兄だとよく覚えてるな。もしかして、僕と同じなのか……?
僕は考えながらも、二人の頭をわしゃわしゃと撫で回す。うーん、可愛い。
「お帰り、グラン。見ないうちに大きくなったね」
二人の後ろから師匠が現れる。もう大人だからか、全然見た目は変わらない。なんか安心する。
「仕方ないですよ。僕もう十二ですよ」
「成長は、本当に早いね」
師匠が関心してくれているのが、心の底から嬉しい。ああ、この平和な日々が続けば良いのにな。
その後はご飯を食べて、あんまり話したことのない兄妹たちとの親睦を深めた。兄妹仲良くしたいので。
兄妹たちと数時間ともに時間を過ごし、二人を寝かしつけ、師匠の元へ向かう。何か話があるのだとか。
「師匠、話ってなんですか?」
「近くの村で、年に一回大会があってね。村長さんから、お弟子さんを出場させないかーって言われちゃって。それに出てみない?」
村なんてあったんだ。
「グランも強くなったから、良い機会だし対人戦の経験も積んだ方がいいと良いと思うの」
確かに魔物相手なら何度も実戦をしてきたが、対人戦となると経験は皆無だ。良い話なので受けてみようか。
「良いですね。是非、参加させてください」
「わかりました。では、手続きはこちらで済ませておきますね」
「ありがとうございます」
ここで勝てれば自分の力の証明にもなる。全力で戦って、師匠に強くなったところを見せよう。
「あ、大会前だからって無理して変なとこ行かないでね。修行と言っても、結構心配なんだから」
「はい!」
今日は早く寝るようにした。
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