第2話 幼少期Ⅱ

 レインさんに引き取られてからの生活は、とても充実したものと言えるだろう。


 僕は兄妹を守れるくらい強くなる為に、彼女に指導を求めた。剣術でも、魔術でもなんでも良い。僕は兄妹を守る術が欲しかった。


 結果的に、彼女は僕に剣術を教えてくれることとなった。


 どうやら、彼女は王家直属組織『覇王十二使徒』の「賢者」の肩書を持っていながら、剣の腕が優れているらしい。


 僕は彼女を師匠と呼び、修行の日々が始まった。


「剣に魔力を込めると、より強力な一撃が放てる。敵によっては魔力無しでは傷を付けられないこともあるんだ。よく覚えておいて」


「はいっ!!」


 この世界は魔力で満ちている。


 人々はこれらを力に、生活の一部に変換して生活を送っている。僕らの世界にとって欠けてはならない存在だ。


 今教わっている行為は、剣に魔力を流し込むと言う基本的なもの。大多数の人が出来て当然。


 五歳の僕だって、これくらいはできるはず────


「────あれ……?」


 魔力が流れない。体に魔力が満ちている感覚はあるのに、外へ放出することが出来ないのだ。


「どうしたの……?」


 戸惑う僕に師匠は聞く。


「魔力がどうやっても外に出ないんです。感じることはできても、それ止まりで」


 僕は現状を伝えた。すると、師匠は苦い顔をして多分、、、と僕に答えを返す。


「グランには、魔力器官がないんだと思う」


「魔力器官…?」


 僕は首を傾げた。


「魔力器官は人々に備わっている基本的な器官。これが体内に宿る魔力を外に放出できるようにしているの」


「僕にはそれが無いから、魔力が外へ出さない、、、」


「そうなるね」


 ええ、、、と僕は困惑した。


 僕はだいぶ不遇な存在らしい。


 明らかに気を落とす僕に対し、師匠はぽんぽんと肩を叩き励ましてくれる。


「まぁ最悪魔力無しでも、単純な技量で圧倒することさえ出来る。今は基礎を積み上げよう」


「はいっ!!」


 僕は心機一転し、師匠と修行を繰り返した。


 来る日も来る日も修行を続け、修行期間が一年を過ぎた頃には、一人で魔物の狩りが出来るようになるまでに成長した。


 自主練も欠かさず行った。その間の兄妹たちの世話は師匠がしっかりと務めてくれていた。


 なので僕は安心して修行に打ち込める。


 魔力が使えない分、技量で他を圧倒しなくてはならない。だから、何年も、何年も、力をつける為に時間を当て続ける。


 二年目を終えた頃から、僕は魔物が大量発生すると言われている山に籠るようになった。これも、修行の一貫として師匠からやるように言われたことである。


 魔物の種類や強さの振れ幅は大きく、雑魚が密集している時もあれば、大物が現れる時もある。


 狩っても狩っても沸き続けるので、良い修行にはなる。だが、気を抜けば命を落とすので、僕は背筋の凍るような日々を過ごしている。


 剣に加えて、僕は自己流の格闘術を確立させていくようになった。


 山に籠っている以上、限られた資源の中で生活することになる。それは剣も例外ではなく、破損すれば修行は続けられない。


 なので剣を使わなくても魔物を狩れるように、剣と交互に修行を行った。


 一年ほどそれを続けていると、体が自然と動くようになり、僕は剣と格闘術を組み合わせた戦闘を行えるようになった。


 最初こそぎこちなかったけれど、今ではすんなりと技が決まる。魔力無しでも魔物の頭を蹴り飛ばすことも可能だ。


 僕は着実に成長している。


 山籠り二年目の終わり、僕は山から魔力が無くなったように感じられた。確かにここ数日の間、魔物は一匹も発生していない。


 この授業も終わりを迎えたようだ。


 山で蓄えた二年分の財産を抱え、僕は師匠と兄妹たちが待つ家へ帰った。


「おかえりなさい。二年も帰ってこないものですから、心配しましたよ」


 家に入るなり、師匠が玄関に飛んできて僕の体を強く抱きしめた。この感じ、何処か懐かしい。


「すみませんでした。でもこの通り、無事に帰宅しました」


 僕は笑顔をみせる。安心して貰えるだろうか。


「なら良いですけど、これからは少しは顔を見せてくださいね」


「はい」


 どうやら安心して貰えたようである。


 帰ったのが夜だったこともあり、兄妹たちは既に眠りについてしまっていた。話したかったので、少し残念である。


 僕と四、五歳違うので、弟は五歳。妹は四歳になる。昔と違って体も大きくなっており、僕は安心した。と同時に、嬉しかった。


「ごめんな。兄さん、また修行してくるよ」


 僕は手短に用意を済ませ、また家を出ることにした。こんな技術で留めてはいけない。


 誰も勝てなくなるまで、僕は修行を終わらせない。


「じゃあ、行ってきます」


「次は、近くの洞窟で魔物狩りをしてきてください。もう必要ない気もしますが……」


 師匠は少し寂しそうに僕へ指示する。


 でも僕はやらなければならない。


「いや、僕はもっと強くなります。師匠よりも強くなって、兄妹たちを守りたいんです」


「そう、、、じゃあ、気をつけてね。」


 僕は家を飛び出した。

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