第4話 塗り絵について
本屋さんで、『大人のぬりえ』という本を手に取ったのは、まだ入院する前のこと。
いいなあ。やってみたいなあ。と思っていましたが、病気で家の中のことさえできてなかった頃です。そんな余分なことができるわけがありませんでした。
でも、入院してからは、状況が変わります。とにかく体と心を休めるための3ヶ月なので、ある程度動けるようになると、恐ろしく暇になります。
そんな時、思い出したのが、『大人のぬりえ』でした。その本と、24色の色鉛筆、その他の筆記用具。それらを夫に持ってきてもらいました。
最初の頃は、幾何学模様の物を塗っていたのです。でも、同じようなのばかりでつまらない。次に買ってきてもらったのは、
(インスタグラムhttps://www.instagram.com/yohseimura/)
の塗り絵集と、フルーツの塗り絵集。これはとっても気に入って塗っていました。
塗り絵をする時の、私の手法は、まず、そのもののかたちを捉えます。線の上を軽くふちどったら、そのままの力で、小さい円を描いていくように同じ色になるように塗ります。そこから、そのものの形状に合わせて、影をつけていきます。塗る力を強めたり、くり返し塗ったり、1番暗い色は黒い色と混ぜたり。この時、
葉っぱなどは、緑ではなく、茶色系の色を必ず含んでいるので、最初に茶色で薄く塗ってから、緑や黄緑、黄色などを塗ります。光が一番当たっている白い部分は、消しゴムで消します。(色鉛筆は消えにくいので、本当に真っ白くしたいところは、塗りません)
塗り絵の技術的なことは、オリジナルです。ちゃんとした塗り方もあるのかなあ? 勉強してみたいですね。
入院中、私が塗り絵をしているのは、食堂にもなる広いホールでした。いつも同じ席に座って、塗り塗りしておりました。
そうしていると、誰か彼かが見に来ます。こちらは色を塗っているだけなので、話をするのは難しいことではありませんでした。
色んな人が話をしに来ました。私はその人の話を聞きながら、時々相槌を打ったり、その人の話の確認みたいなことを言うだけ。そう、それだけなのに、皆さん、元気になっていくんですね。
思うのですが、精神科病棟に入院されている人って、「聞いてもらいたい」んじゃないのかな、と。自分が一生懸命だったこと、こんな風に病気になった理由、今、こんなことで辛いんだっていうこと。
先生は勿論のこと、カウンセリングでも、そんなに長い時間は聞いてもらえませんものね。患者の方は、果てしなく暇があるように思えるほどなのに。
別に、何のアドバイスをしたとか、意見をしたとかではなく、私は塗り絵をしながら、その人の話を聞いていただけ。それが、私のところに来る人にとっては心地よかったみたいです。
何人かの人たちは、塗り絵を教えて欲しいと言ってきました。ある人に教えてあげると、自分も塗り絵の本を買ったのだと、見せに来ました。 最初から上手な人だったのですが、コツをつかむと、本当にメキメキ上達して! 私が絶賛しているうちに、私より先に退院していきました。あれ?(笑)
一緒に塗り絵をしたいと、若い子たちが、それぞれの本を持ってやってきます。その時は、皆、ディズニーのを持っていました。一人の子は、『ふしぎの国のアリス』を、もう一人の子は『子鹿のバンビ』を、私は『くまのプーさん』を持っていました。
『ふしぎの国のアリス』を塗っていた子は、服飾関係の方、デザインとかそっち中心でやっていたことがある子で、手本は見ずに、全くのオリジナルで色を塗っていきます。これは凄かったですよ。彼女は安々とやってのけていたけれど、出来上がりはとっても綺麗。私も永田萠さんのイラストで一つやってみたけど、凄く難しかったです。
もう一人の子は、とても優しく優しくソフトに色を乗せる子。これはこれでまた綺麗なのです。バンビ、柔らか〜い世界にいる感じ。
三人三様でしたね。時々本を取り替えっこして、アリスとかバンビとかも塗ってみたりしてました。楽しい時間でした。
そして、アリスを塗っていた子も、私より先に退院。
バンビちゃんと私は、「闇」がちょっと深かったんでしょうね(笑)。
どんな環境下にあっても、「楽しい」「好き」と思えるものを持っている人は、強いと思います。「自分らしさ」を大切にし、「自分自身」を否定することが少なくなるからかもしれませんね。
私も、強く、しなやかに生きていければなあと思っています。
※近況ノートに写真があります。
https://kakuyomu.jp/users/hiyuki0714/news/16818093077111878318
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