第2話 陶芸について

 31歳。まだ鬱状態が治り切っていなかった頃、母の勧めで陶芸教室に行くことになりました。薬を飲んでいるので運転が無理だと断ったのですが、母の店(ブティックをしております)の常連さんが、自分も通っているから、一緒に行こう。と、誘ってくれて。


 教えてくれるのは、老夫婦先生でした。


「私が練った粘土を使ってもええし、練るとこからやってもええけど、どうしたい?」

 おじいちゃん先生に尋ねられます。私は迷わず答えました。

「練るところから教えて下さい」

 先生は、満足そうに頷きました。


 練るのは大変な作業でした。力仕事です。それでも、練るにつれて、粘土の塊が段々と滑らかになっていきます。

 1時間も練ったでしょうか。滑らかで艷やかな粘土のできあがりです。


 私が人生最初に作ったのは銘々皿。

 先生が手本を見せてくれます。薄く丸く伸ばした粘土を、紙皿の上に置いていきます。

「なるほど。それでお皿のくぼみができるんですね」

「上からもう1枚紙皿を重ねたらな、よりお皿っぽくなるんや」

 先生にはそう言われましたが、私は先生のようには真ん丸くはせず、わざといびつな形にして、紙皿の上に乗せ、上から紙皿は乗せず、自然に粘土の重さで凹んでいくのに任せることにしました。

 先生が笑います。

「なんや筋のええ子が来たなあ」


 花瓶や大皿は「たたら作り」(板作り)で作ります。

 底に粘土を置き、平たく切った粘土を缶などに巻いて型を取り、縦に作ってくっつけ、底をつけると花瓶ができます。

 大角皿は、長方形に切り、波の形を刻みました。


 「とにかく、よう練るこっちゃ。表面だけ綺麗でもな、よう練れてない粘土で作った器は、焼きの段階で割れてしまう。その時点で割れんでも、壊れやすいんや」

 老先生は、笑って言います。

「よう錬るこっちゃ。土もな、人生もな」

 年齢を重ねてきた先生の言葉は、私の心に響きました。


 ろくろで初めて作ったのは、ぐい呑みでした。

 最初はなかなか上手くいきません。なんとか形になったな〜、と、次の過程、高台こうだい(裏の薄い台になっているところ)を作る時に、削り過ぎたり、穴が空いてしまったり……。難しかったです!!

 でも、なんとか完成しました。このぐい呑みは出来が良かったので、友達やお世話になった方にプレゼントしました。今、父にあげたのが、実家に残っているかどうか……。

 

 せっかく気に入って通っていた教室だったのですが、店のお客さんの都合で、ぐい呑みまでで終わってしまいました。



 再婚し、北海道に移住したのが39歳の時でした。その頃には、陶芸のことなど、すっかり忘れておりました。

 が、精神状態が最悪になり、3ヶ月の入院をしなければならなかった中、少し調子が戻って来た頃に、作業療法を勧められます。


 その最初が陶芸だったのです。


 作業療法では、主に、紐作ひもづくりといって、粘土を紐状にしてグルグルと巻き上げていって作る技法でした。巻き上げて指でなじませてくっつけ、そこから削って(手回しのろくろなどを使って、)薄くしていきます。

 最初に作った灰皿は、夫にプレゼント。もっとも、夫は私の喘息を気遣って、禁煙してくれたので、要らなくなってしまったのですが(笑)。マグカップを沢山、モーニングプレート、カフェオレカップ(義母にプレゼントしたら、「抹茶茶碗だねえ、ありがとう」と言われてしまいましたが・笑)。花瓶や植木鉢は以前のお教室で習った、たたら作りで作りました。

 沢山作ったのですが、私はことごとく人にプレゼントしてしまう性格のようで、家にはあまり残っていません。



 作業療法では、他にも、編み物だとか裁縫だとか、革工芸とか、絵手紙とか、いろんなことを教わることができます。

 裁縫は信じられないくらい下手くそなので、他のものを数点習いました。


 こういう作業を通して、私は、いつも心の傷を癒やしていったのです。



 今は道具も窯もありませんから、陶芸はできませんが、これは、私の第二の人生を支えてくれた物の一つだったと思います。


 また、機会があればやりたいですね。

 あっ、入院はしない方向で(笑)。



 ※近況ノートに作品の写真があります。

 https://kakuyomu.jp/users/hiyuki0714/news/16818093076949308608

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