第83話 きっかけ
◆◆◆
「え、リリーカさんとビリュウさん、まだ帰ってきてないんですか?」
その日は魔法少女の村で寝かせてもらい、夜明けと共に起きたのだが……昨日から、リリーカさんとビリュウさんが戻ってきていないらしい。
因みにリーファはお布団で爆睡。ゆ~ゆ~さんは話し相手をしてくれて、一緒の布団で寝落ちしていた。
「はい。まだ魔物と交戦中というか……とにかく、これを見てください」
喫茶店のカウンターの向こうから、女性が配信中の画面が映ったスマホを差し出してくる。
確かにリアルタイムの映像だけど……戦っている様子はない。不気味なくらい静かだ。桜木町駅前は、見るも無惨に壊されてるけど。
「どういう状況ですか?」
「この魔物、この場から一歩も動かないみたいなんです。今はビリュウ様たちが、いつ奴が動いてもいいよう警戒しているようで……」
なるほど。それで戻って来れないのか。
……ん? この魔物の姿、どこかで……? まだ朝早いから、映像が暗くてよく見えないな。
自分のスマホを取り出して、魔法少女切り抜き動画専門チャンネルをいくつか巡回すると……あった。昨日の戦闘を切り抜いている動画だ。
余計なナレーションや字幕をすっ飛ばし、戦闘シーンから流す。
「相当硬いな、この黒いオーラ……」
昨日チラッと見た時も思った。リリーカさんの剛剣や、バハムートのパワー、多方向から仕掛けてくる魔法少女の攻撃をオートで防ぎきっている。
それだけじゃなく、形状を刃やハンマーに変えて攻撃を仕掛けてくる。中々に厳しそうな戦いだ。
戦闘を見続けること数分。ようやく、魔物の説明に入った。
まだ画像は粗いが、だいぶ姿はわかる。……わかる、のだが……こいつは……?
「……あの、コーヒー貰えますか?」
「あ、はい。すみません、気が利かないで」
嫌な予感。喉が渇き、震える。
今だ。女性がコーヒーの準備をしている内に……。慌ててリーファが昨日描いていた絵を漁り、1枚の紙を引っ張り出した。
「……似てる……?」
リーファと一緒にいて、手を繋いでいる異形の存在。
首が無く、裸で、女性。黒いオーラを全身に纏っている。
まさかこの魔物……リーファと何か関係があるのか……?
「ちゅぐみぃ……? どこぉ……?」
「ッ! り、リーファ?」
リーファが、目に涙を溜めて2階から降りて来た。眠いから……じゃないよな。起きて俺がいなくて、びっくりしちゃったみたいだ。
席から立ちあがってリーファを手招きすると、ようやく俺を見つけて満面の笑みを浮かべた。
「つぐみっ、ツグミっ。見つけた、ますっ……! 起きていないの、怖い、ますっ」
「ああ、ごめんな」
飛びついて来たリーファを、優しく抱き留める。
女性が微笑ましそうに、でもちょっと羨ましそうな顔でコーヒーとサンドイッチを出してくれた。そりゃあ、朝からこんなイチャイチャを見せつけられたら、他人からしたらたまったもんじゃないよな。
リーファを宥めて席に座り、俺はコーヒーを。リーファはサンドイッチにかぶりつく。
「ん~っ」
「美味いか?」
「ぼちぼち、ます」
失礼だな。
女性に会釈で謝罪すると、苦笑いを浮かべて首を振った。本当、リーファがすみません。
っと、そうだ。こいつについて、リーファに聞いてみるか。
「リーファ、ちょっといい? この絵の首のない人のことなんだけど……」
「知らん、ます。リーファの中の芸術が爆発した、です」
「でも、今リリーカさんたちが戦っている魔物……リーファの描いた奴に、そっくりなんだよ」
絵と一緒に、リリーカさんたちの戦闘シーンや、魔物の紹介動画を一緒に見せる。
リーファはじっとそれを見て、動かない。何かを必死に思い出しているのか、それとも思い当たる節があるのか……。
コーヒーを飲みつつ、リーファのことを待っていると……勢いよく立ち上がり、椅子を転がした。
「リーファ?」
リーファの赤い目が大きく見開かれ、口は真一文字に結ばれている。僅かに瞳孔が揺れ、室内なのに空気がざわめくように渦を巻いていた。
異常を感じた女性は、慌てて建物から避難する。それがいい。
「リーファ、落ち着くんだ。大丈夫、大丈夫だから」
「……つ、ぐみ……」
揺れる瞳が俺を見つめ、震える声で、ようやく声を絞り出す。
「リーファ……この人に会いたい、ます……」
「え、でも……」
「お願い、ます。……どうしても、会いたい、です」
……ここまで真摯にお願いされたら、断ることなんてできない……よな。
「わかった。準備して、直ぐ向かおう」
どちらにしろ、学校前の一仕事で、俺も応援に行こうと思っていたからな。手強そうな相手だが、リリーカさんとビリュウさんが頑張っているんだ。俺が何もしないわけには、いかないだろ。
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