第82話 異様な存在

   ◆◆◆



 結局、放課後になるまで凛々夏は戻ってこなかった。あいつの実力ならすぐ帰ってくると思ったんだが……大丈夫か?

 念の為、今配信しているMTuberの映像を確認すると……あった、桜木町駅前での戦いだ。

 一般人の避難は完了しているのか、リリーカさんを含めた6人で魔物と戦っている。



「継武、何見てんの? おっ、リリーカ様戦ってんじゃん」

「ああ……」



 優里の言う通り、戦っている。……そう、戦っているのだ。配信時間的に、恐らく朝から。そんなに強敵なのか……?

 ここからじゃ見えにくいが、黒い何かと戦っている。モヤのようなオーラのような何かが、形を変えて魔法少女たちに襲いかかっていた。



「今回の敵、めっちゃ強いじゃん。リリーカ様、大丈夫か?」

「……どうだろう」



 黒いオーラが、魔法少女たちの絶え間ない攻撃を寄せ付けない。あのリリーカさんの剛剣でさえ防いでいた。こいつ、かなり防御力が高そうだ。

 駆け付けたいけど……俺、これからリーファの所に行かないといけないんだよな。さすがにこれ以上待たせるた、また駄々をこねそうだ。



「悪い優里、俺行かなきゃいけない所があるから、帰るな」

「おー。病み上がりなんだし、無茶すんなよ」



 優里と別れ、下駄箱に向かう……振りをして屋上に駆け上り、ツグミの姿に変身した。



「ツグミ」

「ん? あ、ビリュウさん」



 俺より先に来ていた龍安が、ビリュウさんの姿で待っていた。



「私、これからリリーカの所に行くわ。苦戦しているみたいだし、朝から戦って疲れているようだから」

「すみません。俺も、後で行けたら向かいます」



 リリーカさんはバハムートの上に飛び乗り、超高速で桜木町まで飛んでいく。

 バハムートのパワーや攻撃力は、国内随一だ。だから大丈夫だろうけど……一先ず、リーファの所に向かうか。






「ツグミ!!」

「もべっ」



 協会本部喫茶店についた瞬間、たわわなおっぱいに襲われた。



「ツグミ、会いたかった、ます。リーファ、いい子してた、ですっ」

「そ、そうか。偉いぞリーファ」



 でもいきなり飛び付いてくるんじゃありません、危ないでしょう。

 未だに頭に抱きついているリーファを宥めていると、やつれた顔のゆ〜ゆ〜さんが近付いてきた。



「あ、すみません。リーファのこと、ありがとうございます」

「ふ、ふふ……いえ、大丈夫よ……」



 とてもそうは見えないのは俺だけだろうか。というか、この人学校は大丈夫なの?



「あ、あなたに心配される筋合いはないわ。それより、リーファちゃんとってもいい子だったわよ。この村も、とても気に入ってくれたみたい」



 うん、見ればわかる。相当楽しかったのか、全身からふわふわな幸せオーラを発してるし。

 あれだ、子供が今日あったことを全身全霊で伝えてくる感じ。高身長巨乳美女の女児ムーブって、グッとくるものがあるな。



「ところで、ツグミ。リリーカ様とビリュウ様だけど……」

「はい、知ってます。苦戦してるみたいで……」



 さっきちらりと見た時は、ビリュウさんも合流していた。それでもあの防御力を突破できないのか、まだ倒しきれていない。あんなに堅い敵は、今まで初めてだ。



「? リリーカと妻、戦ってる、です? 大変、ます?」

「うん……でも2人なら大丈夫。リーファはここで、2人の帰りを待ってようね」

「ますっ」



 落ち着いたリーファが俺から離れて、テーブル席に向かう。どうやら絵を描いてるみたいだ。



「何を描いてるんだ?」

「わからん、ます。テキトーに、です」

「そうか、適当か」



 思わず苦笑い。適当にどんなものを描いてるんだろうか。

 リーファの前に座り、散らばっている絵を見る。

 これは、俺か? こっちは多分、リリーカさん。これはビリュウさんで、これはミケにゃんとゆ〜ゆ〜さん。みんな特徴を捉えていて、意外と上手い。

 けど……この絵には、驚きを隠せなかった。



「リーファ、これは……?」

「んぇ? ……わからん、ます。イマジネーション 的な、です?」



 いや、俺が聞きたいんだけど。

 真っ白な紙に乱雑に描かれた黒い何か。

 その中心には……首のない人間と手を繋いでいるリーファが、異様な存在感で描かれていた。



   ◆◆◆



 一方、ビリュウと合流したリリーカだったが、まだ首無しの魔物を倒しきれていなかった。

 余りにも黒いオーラが硬すぎる。形状が定まっていないからか、破壊することもままならない。



「ビリュウさん、どうしましょう」

「どうするも、あの黒いオーラを何とかしないと話にならないわ。と言っても、ここは街中。バハムートが全力で攻撃したら、被害が大きすぎる」



 そう、それだ。リリーカも、それが理由で必殺の攻撃を出せないのだ。

 通常攻撃だけであの防御を貫くには、攻撃もスピードも足りない。



(厄介だな、くそっ)



 疲れと鬱憤が溜まり、心の中で独り言ちる。



「ところでリリーカ、気付いたかしら。……あいつ、一歩も動いていないわ」

「ええ。今朝からこの調子です」



 攻撃を仕掛ければ、オーラが盾となり守る。一定の範囲内に入ると、オーラが刃となり攻撃してくる。

 それ以外、本体はまったくと言っていいほど動かなかった。



「有効半径はわかる?」

「恐らく5メートルです。その範囲に入った瞬間、自動で攻撃してきます」

「……わかったわ。全員、奴から離れなさい!」



 ビリュウの言葉に、攻撃を仕掛けていた魔法少女たちが一斉に離れる。

 全員、有効半径の5メートルから外に出ると、魔物のオーラは揺らぐだけとなり、攻撃を仕掛けて来なくなった。



「……やはり動かないわね。リリーカ、全員休ませなさい。朝から戦い詰めで疲れているでしょう」

「わかりました。ビリュウさんは?」

「ここで奴を警戒しているわ。バハムートもいるし、1人ではないから」

「……助かります。体力が回復したら、すぐ戻ります」



 リリーカが他の魔法少女の元に向かい、ビリュウとバハムートが魔物を睨みつける。

 今は動かないが、いつ動くかわからない。気を抜いては殺られる。

 緊張感のある監視は、夜が明けるまで続き……その間、魔物は数ミリも動くことはなかった。

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