第81話 異形

   ◆◆◆



「にしても継武、なんか久々だなぁ。インフルと赤痢とコロナの併発でよく生きてたもんだ」



 久々に登校すると、親友である四ツ谷優里が早すぎる早弁最早朝メシを食いながら話しかけて来た。

 てか俺、そんな重症で休んだことになってたの? 凛々夏と龍安、どんな言い訳してんだよ。



「は、はは……まあな。さすがに死ぬかと思った」

「だろうな。ま、継武が休んでる間のノートは取っといてやったぜ。ジュース5本でいいぞ」

「ぼってんな」



 まあ、それで授業についていけなくなるよりはマシか。

 諦めて1000円突きつけると、優里からノートを受け取った……その時。



『緊急──神奈川県東部、上空に魔物の出現を感知』



 脳裏に、モモチの声が響いた。

 げっ、この辺かよ……せっかく学校に来れたのに、行かなきゃなんねーじゃんっ。



「すまん、便所」

「え、大丈夫かよ。やっぱまだ休んでた方がいいんじゃないか?」

「そういう訳にもいかねーだろ。留年なんかしたら殺される」



 いくら魔法少女の活動に理解のある母さんでも、それを理由に留年でもしたら……考えただけでおそろしい。

 とにかく、即向かって即殺して即帰ってくる。これしかないな。

 仕方なく教室を出たところで、凛々夏が俺の肩に手を添えた。



「待ってください、継武さん。ゎ、私が行きます」

「いいのか?」

「は、はい。そろそろ週間ノルマも達成しないといけないですし、それに、今休んだら大変ですよね?」

「……悪い、助かる」



 俺の方はまだノルマまで期日があるからな。正直、ありがたい。

 走っていく凛々夏──今学年主任に叱られたけど──を見送る。

 凛々夏なら大丈夫だろう、俺の魔法少女の先生でもあるし。

 教室に戻って自分の席に座ると、まだ飯を食ってた優里が目を瞬かせた。



「あれ、便所いいのか?」

「引っ込んだ」

「飯食ってる時にうんこの話しをするんじゃねぇ」

「してねーよ」



   ◆◆◆



 屋上で魔法少女の姿に変身したリリーカは、光の翼を羽ばたかせて空へ飛び立つ。

 変身前までは無かった強さへの自信が、羽ばたく力となって空を翔ける。この瞬間が、リリーカは好きだった。



(全能……とまでは行かないが、やはり魔法少女になると人智を超えた万能感はあるな)



 漲る力と湧き出る自信を携え、魔物の気配がする桜木町付近へやって来た。

 魔物の出現によってか、駅前の広場は阿鼻叫喚と化している。先に現着していた魔法少女が応戦しているようだが、魔物はまだ倒しきれていなかった。



(あれか。……いや、待て……?)



 行く前に、はたと気付く。

 違和感。というより、妙な気配に顔をしかめた。

 異形というには人に近い。が、人と言うには気配が禍々しい。全身から漂うオーラはドス黒く、戦っている魔法少女たちも二の足を踏んでいた。

 魔物が、ドス黒いオーラを変化させる。人一人を簡単に押し潰せるほどの大槌を形作り、それを振るう。

 魔法少女の一人は簡単に避けるが、対象を見失った大槌は地面を深く抉った。



(見ている余裕はない、か)



 光の翼を消し、魔物に向かって急降下。

 同時に、魔物に向かい大剣を振り下ろす……!



「ハッ──!!」

「────」



 ギャリギャリギャリッ……!!

 魔物に衝突する直前、オーラが盾の形に変化し、リリーカの剣撃を防いだ。

 奇襲を防いだことにも驚きだが、また盾が変化して鎌となり、襲いかかって来る。



「チッ……!」



 寸前で回避。バク宙で距離を取り、大剣を構えた。



「君、大丈夫か?」

「り、リリーカ様っ……!? は、はい! 私は何とか……!」

「なら、奴の相手は私がする。君は一般人の避難を頼む」

「わ、わかりました!」



 ステッキを持った魔法少女が、リリーカから離れる。

 その間もリリーカは魔物を注視していたが……正直、驚きを隠せないでいた。

 黒いオーラで局部をかくしているが、見るからに女性の裸。痛々しい生傷や火傷の痕。が、それ以上に目を引くのが……頭の無い首。



「頭部が無くて生きているなんて……なんでもありか、異世界の魔物というのは」



 魔物は、頭部が無いのにリリーカをじっと見つめている。

 当然、目は無い。無いのだが、見られているという感覚はあった。



(それに、あの黒いオーラ……硬いな)



 自身の手が痺れているのを感じる。渾身を込めた一撃を防がれるとは、思ってもいなかった。

 一筋縄では行かない。リリーカの背には冷たいものが走った。

 が、久しく感じる手応えに……自分でも知らず知らず、口角が上がっていた。

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