第80話 違えられない約束
その後、リーファの耳はフードで隠したまま、村の住人たちに彼女のことを紹介した。
訳ありな人間はここでは普通なので、みんな何事もなく受け入れてくれた。助かります、本当に。
だがしかし、問題はここからで……。
「いや、ますっ」
「リーファ、そこをなんとか……!」
「やーっ」
そう、リーファの説得だ。
本当はここに来る前に説得したかったけど、それじゃあずーーーーーーっとイヤイヤするからな。可哀想だが、仕方ないだろ。
キキョウさんとゆ〜ゆ〜さんは、席を外してもらっている。というか、ビリュウさんと一緒にリーファの入村に必要な手続きのための書類を集めてもらっている。
急に来たのに受け入れてくれて、本当にありがたい。……まあ、当の本人がイヤイヤしてるんだけど。
「リーファ、ツグミと一緒、ますっ。ツグミと暮らす、ですっ」
「大丈夫、大丈夫だよ。別に離れ離れになるって訳じゃないから。俺が学校に行ってる間、ここにいる人たちがリーファと遊んでくれるからさ」
と言っても、リーファは頬を膨らませてじーっと見てくる。
余りの目力に押され、少し引いてしまう。怖い、怖いって。
その時。リーファは俺の服の裾をつまみ、胸に飛び込んできた。背中に手を回し、顔を胸に押し付けて抱き締めてくる。
「リーファ……? どうした?」
なんか、怯えてる……? 少し肩も震えてるし……本当、どうしたんだろうか?
リーファの背中を撫で、少しでも落ち着かせる。
と……リーファは顔を上げ、俺の顔を至近距離で見つめてきた。
「……ツグミは、リーファと一緒、いや……ます? リーファの前からいなくなっちゃう……です……?」
──ッ……そう、か……リーファは、俺がいなくなっちゃうのを怖がってるんだ。記憶はなくても、過去のトラウマで必要以上に震えているんだろう。
できるだけ柔和で、暖かい笑顔を作り、リーファの背中を軽く叩く。おでこ同士をくっ付け、赤い瞳を覗き込んだ。
「大丈夫だよ。俺は絶対、リーファの前からいなくならないから」
「……絶対、ます?」
「もちろん。約束する」
瞳を見つめて、心からの言葉と温もりを与える。
ようやく落ち着いてきたのか、リーファの体から強ばりは抜け、俺に全身を預けてきた。
「……約束、違えたら怒る、ます」
「そうならないよう、約束は守らないとな」
「……捩じ切る、ます」
「どこを……!?」
一気に物騒になってきた。俺が男っていうこと、思い出してないよね? ナニを捩じ切るつもりじゃないよね……!?
今は付いていない下腹部にヒュッとしたものを感じていると、リーファは俺から離れて上目遣いで見つめてきた。
「がっこ……行かないとだめ、ます……?」
「……ああ。俺にとって、大事なことだ」
主に単位とか。出席日数とか。留年とかの兼ね合いで。
「……ならリーファ、我慢する、ます。リーファ、ツグミの足を引っ張りたくない、です」
「〜〜〜〜っ。リーファ、いい子! いい子だねぇ〜っ」
リーファが潰れないよう、力を加減して抱き締める。
前まではイヤイヤで頑として譲らなかったのに、こんなに成長して……あぁ、なんだかパパ(ママ)になった気分。
「1日1回は、絶対にこっちに来るよ。そしたらたくさん遊ぼうな?」
「……うい。リーファ、ここでいい子にしてる、ます」
不安半分、楽しみ半分といった表情を見せるリーファ。
なんだかんだ、ここの環境はリーファに合っていると思う。囚われていた時は酷だが、それより前はこういう所に住んでいたんだろう。
ここでの生活は、リーファの傷ついた心を癒してくれる……かもしれない。
少しでも、故郷を懐かしんでくれたら嬉しいな。
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