第79話 計画通り

「えっ……ちょっ、ガチエルフが存在するうううううううもがっ!?」

「ちょ、うるさいですゆ〜ゆ〜さんっ」



 喫茶店の中に連れ込むと、案の定気がついたゆ〜ゆ〜さんが騒ぎ始めた。やっぱり知ってたか、エルフを。

 そりゃそうだ。ファンタジー好きなら普通こういう存在は知ってるに決まってる。むしろ、魔法少女なのにエルフを知らなかったリリーカさんやビリュウさんがおかしいんだ。



「だっ、だだだだだだってエルフよ!? あの! 長命で! 耳が長くて! デフォで超美形しかいないっていう、あの!!」

「全くもってその通りです。なので落ち着きましょう。リーファが怖がってるのでっ。り、リリーカさんっ!」



 リリーカさんにお願いして、なんとか引き剥がしてもらった。まさかここまで大興奮するとは思わなかったわ。

 が、まだ大興奮している人物がもう一人……。



「いやはや、リリーカから聞いた時はまさかって思ったけど、ほんっっっと〜にエルフじゃん! これ付け耳とかじゃないよね? うわっ、本当に根元から生えてる! しかもビジュ良ッ。体つきもエッロ! 顔面偏差値ハーバード!」



 変態オヤジみたいな方向で大興奮してやがる。



「ねえねえ、リーファたそはエロフなの?」

「しまいにゃぶん殴りますよ」

「アッハー! うそうそ、ジョークですやーん!」



 嘘だ。絶対ガチで聞いたに違いない。てかこの人中学生だよな。どこでそんな知識仕入れた。



「キキョウさん。リリーカさんからこの子の過去については聞いたと思います。なので、そういう過度な弄りは今後一切やめてください」

「あ……確かに。ちょっと軽率だったね」



 ごめんなさい、とリーファに頭を下げるキキョウさん。聞き分けのいい子で助かるな。

 リーファはまだ状況が理解できていないのか、キョトンとした顔で首を傾げていた。まあ、気付いていないならいいか。

 みんなを椅子に座らせて、俺が代表して話し出す。



「キキョウさんには事前に説明していると思いますが、ゆ〜ゆ〜さんもいるので、改めて彼女の境遇を説明します」



 つい先日、魔物しか通れないはずの歪みの穴から、リーファがこっちの世界にやってきたこと。

 モモチ曰く、あの穴を通れるリーファは魔物としてこっちの世界に存在しているとのこと。

 しかしリーファ自身は記憶を失くしていて、自分のことも曖昧にしかわかっていないこと。



「そしてここからですが……」



 ビリュウさんに目を向けると、小さく頷いてリーファを連れてカウンター席に移動した。



「これは、まだリーファは知らないことですが……私は彼女の過去を、夢で見ました。今まで、計2回ほど」



 今まで黙って聞いていたゆ〜ゆ〜さんが、手を挙げた。



「はい。その夢が本当のことである根拠は?」

「ありません。ですが私は、あの夢を私の作り出した虚構だとは思えない。それが根拠です」

「……いいわ、続け」



 納得はできていないけど、とりあえず話は聞くというように引き下がってくれた。



「その夢の中では、リーファの母親らしき人がおり……リーファ自身も、男に暴力を受けていました。殴られ、蹴られ、鞭を打たれ……もちろん、アレも」



 俺の言葉に、キキョウさんとゆ〜ゆ〜さんは嫌悪感を示す。リリーカさんも顔をしかめ、腕を組んで顔を伏せた。



「私たちはこれまで、秘密裏に彼女を向こうの世界に帰そうと考えていました。でもこの様な事情がある以上、それはやめた方がいいと思い……こっちの世界で、一から生活させようと考えています」



 事前に話を聞いていたキキョウさんは深く頷き、リーファの方をちらりと横目で見た。



「なるほどねぃ。見る感じ、あの子が懐いているのはツグミ、リリーカ、びりゅーの3人。でもこっちに住まわせるとなると、1人にはさせられない。だからアタシや、この魔法少女の村を利用させて欲しい……そういうことかにゃ?」

「その通りです。自分勝手で、わがままなお願いですが……」

「うん、いいよ!」

「そ、そうですよね、そんな簡単に許されるとは……」



 …………。



「は?」

「いいよいいよ、いつでもいなよ! てか全然住んでいいし! も〜、ツグたそったらみずくさ〜い」



 俺に抱き着き、頬をつんつんしてくるキキョウさん。こんなあっさり許されるとは思わず、呆然としてしまった。



「な、ん……え、いいんですか?」

「おふこーす! てかアタシらの手助けがないと、君たち3人が普通の生活できないじゃん? この村なら外部に情報が漏れることもない。外部からこの子を狙った組織が入り込むこともない。いいことずくめじゃん!」



 そう、そこだ。それを期待してお願いしたんだ。



「あ、ありがとうございます、助かります……!」



 懐が深いなぁ。聡明で察しがいいし、年下とは思えない。

 キキョウさんに感謝していると、ゆ〜ゆ〜さんが小さく手を挙げた。



「事情はわかったわ。支部長が許可するなら、私がとやかくいう権限がないのも理解した。……でもこの大事な話に、なんで私も巻き込んだの?」

「……これは念の為ですが、この村の住人には、リーファがエルフであることは隠すべきだと思っています」



 まさかの言葉に、キキョウさんとゆ〜ゆ〜さんは首を傾げる。



「想像してみてください。この村の人間は全員、元魔法少女。しかも魔法少女を卒業しても、なんらかの形で魔法少女に関わりたい生粋のオタクたちです。もしそんな彼女たちに、エルフの存在がバレたら……」



 容易に想像できたのかキキョウさんは苦笑いを浮かべ、ゆ〜ゆ〜さんは目を逸らした。



「大混乱待った無し、だね〜」

「……否定できないのが悔しい……」



 ですよね。だってあなたたちでも大興奮だったじゃないですか。



「ですが、さすがに私とリリーカさんとビリュウさんだけで、リーファがエルフであることを隠すのは不可能です。事情を知っていて、信用できる人の協力が必要なんです」



 と、ゆ〜ゆ〜さんがピクっと反応した。



「……信用……? ツグミが、私を信用してくれてるの……?」

「はい、ゆ〜ゆ〜さん」



 彼女の手を握り、ぐいっ。少し間違えたらキスしてしまうくらい近づく。超至近距離に、ゆ〜ゆ〜さんの顔面が溶けた。



「お願いします。私たちに協力してくれませんか……?」

「+€÷」=%÷」|♪¥&*€!?!?」



 え? エルフ語?



「……ゎ、ゎ、ゎかり……でゅふ……ゎかっり、ました……ぐひっ」

「ありがとうございます、ゆ〜ゆ〜さん!」



 ふっ。計画通り……!






「ツグミ、顔がゲスいぞ」

「ツグミってそんな顔もするんだねぇ〜。そんな所も可愛いゾ☆」



 喧しい。

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