第76話 協力

   ◆◆◆



「なるほど。だからリーファは、男を極端に嫌っているのだな」



 学校終わりに帰ってきたらリリーカさんとビリュウさんに、夢で見たことを話した。

 当然2人とも深刻そうな顔をしている。当たり前だ。あんな事を聞かされたら、誰だってそうなるか。

 因みにリーファは、徹夜だったからか今は俺の膝枕でお昼寝中だ。



「しゅぴぃ……しゅぴぃ……」



 やれやれ。安心した顔で寝てやがるなぁ。

 彼女の頭を撫でていると、神妙な顔で聞いていたビリュウさんが自身の頬に手を添えた。



「ねえ。思ったのだけれど、この子の記憶は取り戻さない方がいいんじゃないかしら?」



 ビリュウさんの提案に、リリーカさんも腕を組んで頷く。



「賛成だ。今の夢の内容が本当だったら、思い出す方が酷だろう」

「……俺も、そう思う」



 途中で目が覚めたが、余りにも悲惨な光景だった。あんなもの、思い出さない方がいい。



「それともう1つ、2人に話しておきたい」



 俺の声で、2人がこっちに目を向ける。



「俺たちの目標は、保護したリーファを向こうの世界に帰らせることだった。だけど、それはやめた方がいいと思う。理由は言わずもがなだ」



 2人は無言で頷く。



「だから本格的に、リーファをこっちに住まわせたい。どうだ?」

「……リーファの為にも、それがいいのかもな」

「賛成よ。無理に帰らせて辛い思いをさせる必要は無いし、ここまで関わってしまった以上、ポイして知らんぷりなんてできないわ」



 ほ……よかった。魔法少女は正義のヒーローだからな。同じ女性として、似たような境遇にあったら見捨てないと思ったよ。



「ありがとう。でもその為には、俺たちだけじゃ人数が足らない」

「……頼るしかないわね、キョウ様に」

「ああ、俺も同じ意見だ」



 ビリュウさんの案に同意する。

 けど……正直、頼みたくはなかった。キキョウさんがどれだけ異世界やエルフという存在に寛容なのかもわからないし、何よりリーファの美貌で良からぬことを考えないか……不安しかないなぁ。

 と、リリーカさんが立ち上がり、俺とビリュウさんを見下ろした。



「私からそれとなく、キキョウさんに聞いてみよう。ツグミが保護した訳アリの女の子を、どうにか匿ってくれないかと」

「ありがとうございます、リリーカさん」

「あまりいい返事は期待できないがな……」



 諦観の眼差しで虚無を見つめるリリーカさん。

 それでも、動かないよりマシだ。期待せずに待つさ。






『キキョウさんから、是非一度会いたいと言われた』



 なんと意外にも好印象だったらしく、そんな連絡が来たのは、つい30分前のこと。

 俺とリーファとビリュウさんはバハムートの背中に乗り、茨城県郊外にある、例の駄菓子屋前に降り立った。リーファはまだ状況が飲み込めないのか、辺りをキョロキョロしている。

 ビリュウさんが駄菓子屋に入り、俺たちも後を追う。中にはおばあちゃんクルミさんが、いつも通り店番をしていた。



「クルミさん、こんにちは」

「……おや、ビームちゃん。こんにちは」

「ビリュウよ。それより、ゲートの方を使わせてもらうわ」

「あ? なんだって?」

「ゲートを使わせてちょうだい」

「……あー、はいはい、ゲイボルグね。それならこっちの棚に……」

「ゲートよ、ゲート」



 このやり取り、毎回やらなきゃダメ?

 2人のコントをぼーっと眺めていると……あれ、リーファがいない? あ。



「ツグミ、ツグミっ。これ食べれる、ます!」

「お、おい、勝手に店のもん食うな……!」



 いつの間に万引き……いや食い逃げしようとしてんだ!

 慌ててリーファを止めるが、クルミさんがカカカッと笑った。



「ほっほっほ。なに、構わないよ。そんなに美味しそうにお菓子を食べてくれる子は、最近では見かけないからねぇ」



 テーブルに手をついて立ち上がり、杖を手にリーファに近づくクルミさん。

 まだしゃがんでモグモグしているリーファの頭を撫でて、温和な笑みを見せた。



「ふふ。美味しいかい?」

「まずまず、ます」

「んだとクソガキャ!」



 あー……賑やかですなぁ。

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