第71話 外の世界
結局リーファは、トイレや風呂以外は食い入るように動画を観ていた。なんなら、凛々夏と龍安が帰ってきても観ていた。
それはそれで俺も楽だからいいけど、いい加減夜も遅い。俺も昼寝したとは言え貫徹したから、かなり眠かった。
「リーファ、そろそろ寝るぞ」
「もうちょっと、ます」
「ダメです。ちゃんと寝ないと、没収しますよ」
「むぅ……わかった、です」
少し頬を膨らませつつも、小さく頷くリーファ。寝間着に着替えて、俺の寝ている布団に潜り込んできた。
「リーファ、どうだった? 面白かったか?」
「興味深い、ます」
「そいつはよかった」
リーファの感想に思わず苦笑い。あれだけ観ていて、それだけの感想なわけがない。見るもの全てが新鮮で、楽しかったんだろうな。
こっちに来てからのリーファは、ほぼ家から出ていない。余計、外の世界のことが気になって仕方ないはずだ。
横目でリーファを見ると、暗闇の中でもわかるくらい爛々と赤い瞳を輝かせていた。
「……リーファ、外に行きたいか?」
「……行ってみたい、ます」
そうか……そうだよな。
「……明日、少し外に出てみるか?」
「! ほんと、ます……!?」
「ああ。ちょっと準備がいるけどな」
「〜〜〜〜!」
喜びをどう表現したらいいのかわからないらしく、手をわちゃわちゃと動かしている。
リーファの頭を撫でて落ち着かせるが、その程度じゃ落ち着かないらしい。俺に抱きつき、頬擦りしてきた。
さて……どうするか。耳は俺の男物のパーカーを被せたら、なんとかなりそう。
だけど問題は、男だ。俺の正体を明かしただけで、あれだけ取り乱したんだ。もし外で男を見たら、暴走するんじゃ……。
ウキウキなリーファの肩を叩き、じっと目を見つめる。
「リーファ、一つ約束してくれ。外の世界にはたくさん男がいる。そいつらを見たら、俺の手を強く握って顔を伏せるんだ。いいな?」
「わ……わかった、ます。がんばる、ます」
リーファの表情に、若干緊張の色が混じる。
全部を遮るのは物理的に無理だ。なら、少しでも男を視界に入れないようにしないといけない。最悪、暴れそうになったらビルの屋上まで運べばいい。
明日は俺も、少しだけ気合を入れて守らないと。
もちろん、市民からリーファを守るんじゃない。リーファから市民を守るんだ。
あんな出力の魔法を街中で撃ったら、死人が出かねないからな。
明日に備えて、俺も寝よう。
◆◆◆
案の定眠れず、2日目の貫徹となった。
因みに今回は緊張で眠れなかった訳ではなく、リーファがずっと話しかけてきたから。
楽しみなのか、ずーーーーっと笑ってるし、ずーーーーつとモゾモゾしてるし、ずーーーーっと話しかけてくる。わかったから落ち着いてほしい。
そうして待ちに待った本日。リーファは夜明けと共に飛び起き、思い切り俺の肩を揺すって来た。
「ツグミ、ツグミ! 朝、です! 起きる、ます!」
「あぁ……はいはい、落ち着きなさい」
ごめん、そんなに揺らさないで。気持ち悪い。吐きそう。
ぐわんぐわん揺すぶられながら、気合いで起きる。こんなに早く起きても、まだ店はどこもやってないんだが……街を見て回るっていう目的なら、人がいなくてむしろ好都合か。
あらかじめ用意していた服を、リーファに着せる。黒の男物のパーカーに、龍安に借りたショートパンツを履かせた。靴のサイズは幸いにも凜々夏と同じで、今はスニーカーを貸してもらっている。
ダークエルフの褐色肌と美しい銀髪も相まって、ストリート系の美女にしか見えない。これ、一人で外を歩かせたら絶対にダメだ。
「いいか、リーファ。頭のフードは絶対に取らないこと。この世界にエルフはいないから、その耳のことがバレたら大変なことになるからな」
「はい、ます」
リーファはきゅっとフードを深く被り、待ちきれないと言った様子で靴を履く。
ご飯を食べさせ、添い寝して、動画を見せて大人しくさせ、朝早くにお散歩に行く。マジで子育てしてる気分になってきた。
俺も俺で、散歩のために服装を変える。そろそろ暑くなってくる時期だから、上はティーシャツ。下はワイドパンツにした。
「おぉ……ツグミのそれ、便利、ます」
「俺も思う」
魔法少女の特権だよな。ネットで見ていいなと思った服は、買わずにイメージだけで変えられるんだから。
「んじゃ、行くか」
「はい、ますっ。わくわく、ドキドキ、です……!」
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