第65話 異世界の魔法
リーファを連れ、超高速で青木ヶ原樹海に向かう。
景色が前から後ろに流れていく中、リーファは目を閉じて首に強く抱き着いてきた。
「怖いか?」
「だ、だいじょぶ、ますっ。ぷぎゅ……! した、かんだ、まひゅ」
「あ、すまん」
超スピードで移動してるんだ。そりゃ舌くらい噛むか。
なるべす揺らさず。でも速く上空を跳躍し続ける。
途中、何人かの魔法少女を追い抜き、恐らく俺たちが一番最初に樹海へと到着した。
リーファを下ろし、周囲を見渡す。夕方過ぎだからか、森の中が異様に暗く見える。そこら中から獣の気配はもちろん、なんだか嫌な気配も感じた。
「これだけ深い森だと、どこに魔物がいるのかわからないな……」
それっぽい気配はあるけど、探知する前に消えちまう。まるで森と同化してる感じだ。
リーファを隠したいから、MTuberが来る前に終わらせたいんだが……。
ぐるりと周囲を見渡し、それらしい痕跡を探す。
と、その時。リーファが俺の服の裾をつまみ、何度か引っ張ってきた。
「ツグミ、ツグミ」
「どうした? 今ちょっと忙しいんだけど」
「あっち。いる、ます」
「え?」
リーファの指さしている方を見る。が……何もいない。ただ薄暗く、鬱蒼とした森が広がっているだけだ。
「どこだ……?」
「ツグミ、見えない、です? 目が悪い、ます?」
「これでも自称視力10くらいのつもりだ」
魔法少女形態は、身体能力が極端に上がる。特に俺の場合は、他の魔法少女に比べて身体能力の伸び幅がでかい。だから普通の魔法少女より見えるはずだが……。
じっと目を凝らしていると、リーファが手の平を見えない何かに向ける。
手の平に翡翠色の光が灯り、高速で幾何学模様の何かが形成された。
「なっ……!?」
「【
直後、嵐のような風圧が轟音を伴って周囲の全てを押し流した。
蔦や茂みも。木々も。地面すら抉り、数十メートルもの大地が根こそぎ無くなった。
俺、愕然。なんだ、これは。もしかして異世界の魔法? これが向こうの世界の普通なのか……?
「ツグミ、どうした、ます?」
「いや……どうしたもこうしたも、今の見せられたらビックリするだろ……」
「? リーファ、変なことした、です?」
うん、ある意味変なことをした。こんな威力の魔法をあんな一瞬で使えるなんて、普通じゃない。
「──むっ。逃げた、です。ツグミ、上、ます」
「ッ!」
リーファの言葉に、上に目を向ける。
いたっ。あの黒い影か……!
膝を屈め、超高速で頭上に向かって跳躍する。
近くで見ると、なんとも妙な形状の樹木だった。両腕両脚があり、顔っぽい溝もある。
なるほど、確かにこりゃ初見じゃ見つけられねーわ……!
それらがうねうねと動き、細かな網状の枝に分散した。
こいつ、俺を捕らえて地面に叩き付けるつもりか。
「あめーよ」
「!?」
樹木人間の両腕を掴み、力任せに捩じ切った。
体自体は木でできているからか、特に血が噴き出すこともなかったが、まだ腕が動いていやがる。こいつ、痛覚もなければ分裂しても動けるくらいにはしぶといらしい。
なら、燃やすのが一番手っ取り早いか。
え? 火種がない?
ないなら作ればいいじゃない。
「そうらッ!!」
「!?」
両手に持っていた樹の腕を、胴体に叩き付け……。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッッッ!!!!」
思い切り、擦り付けた。
ここで問題。木と木を擦り付けると、何が発生する?
答え……摩擦熱。
馬鹿力+持久力+摩擦熱によって発火点まで達した樹木人間の体は、瞬く間に焦げ臭くなり、着火。余程燃えやすいらしく、一瞬で全体まで燃え広がった。
すぐさま地面に降り立ち、地面でのたうち回る樹木人間を見る。
このまま燃え尽きるまで待っていたいが……MTuberにリーファの姿がバレる方がまずい。
「リーファ、あいつも倒し終わったし、帰ろうか」
「うい、ます」
それに、魔法についてもいろいろ聞きたいことがあるし。
彼女をお姫様抱っこすると、リーファは樹木人間の方を見て首を傾げた。
「ツグミ、火属性の魔法、使えた、です?」
「いや、あれは魔法じゃなくて、摩擦っていう物理学の一種で……」
「????」
まあ、うん。この説明じゃ何言ってるのかわからないよな。大丈夫、俺もよくわかってないから。
とりあえず苦笑いで誤魔化し、超高速でその場を後にする。
後日、抉られた大地と燃え尽きた樹木人間の残骸がMTuberに見つかり、『魔力の痕跡を残さない謎の火属性系魔法少女、現る』と話題になったのは、また別のお話。
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