第64話 ついて行く、ます
なんとか冷蔵庫の中にあった食材で炒め物を作り、リーファに食べさせた。
どういう訳かスプーンやフォークの使い方も知らないようで、素手で食おうとしたから、俺があーんさせることになった。まさか異世界には、フォークやスプーンはないのか?
完食したリーファは満足そうにお腹を擦り、そのまま床に寝そべった。
「美味かったか?」
「ぼちぼち、ます」
「失礼な」
と言ったものの、俺も料理は得意じゃないからな。むしろ魔法少女の格好で、よく何も壊さず作りきれたと褒めてほしい。
寝転がっているリーファを横目に、俺も天井を見上げる。
さぁ~て……これからどうするか。
問題は学校だ。俺が学校に行っている間、リーファは一人で家にいなきゃいけない。一人で留守番、できるんだろうか。
……ダメだ。心配すぎる。もし一人にして、物を壊したり怪我をした日には、次の日から学校に行けなさそう。
リリーカさんもビリュウさんもクラスメイトだから、頼れないし……となると、第三者の助けが必要だ。
俺が魔法少女だと知っていて、エルフのことも受け入れてくれそうな人と言えば……やっぱり母さんか。一回電話してみるかな。
母さんに電話を掛けてみると、ワンコールで出てくれた。
『もしもし、継武? どうかした?』
「あ、母さん。今少しいい?」
『……その声、ツグミだね。何か問題でもあった?』
さすが母さん。俺の声で異変を察したらしい。
「ツグミ、ツグミ。何してる、ます?」
「あ、ちょ。リーファ、やめなさい」
俺がしていることに興味を持ったのか、リーファが不可思議なものを見る目でスマホをつついて来た。
もちろん、それを聞き逃す母さんではない。突然の女の子の声に、電話の向こうで母さんが息を飲むのがわかった。
『継武、今の声は? 龍安のところの美月ちゃんじゃないわよね。もしかして女の子の格好で、別の女の子を連れ込んでいるの? お母さん、そういうのは個人の自由だから気にしないけど、学生としてもっと節度ある生活を……』
「違う違う。そうじゃない」
発想がぶっ飛びすぎてるよ、母さん。俺がそんなことをする不良息子(♀)だと思ってるんですか?
「実は……」
軽く、大事にならないようにリーファのことを説明する。
異世界の歪みの穴から、こっちにやって来たこと。記憶を失っていて、日常生活すらままならないこと。母さんの助けが必要なこと。
無言で話を聞いていた母さんは、困ったように息を吐いた。
『確かにそれは困ったね。助けてあげたいのはやまやまだけど、うちにはお父さんと鈴香がいるから……』
「あ……そうか。二人とも、母さんが元魔法少女だってことは知らないのか」
『ええ。だから、エルフをうちで保護するとなると、説明が難しいのよ』
ぐうの音も出ない。まったくもってその通りだ。
『明日は、お母さんがそっちに行くから。もっと別の方法を考えた方がいいわね』
「わかった。ありがとう、母さん」
通話を切り、床に寝転がる。
神楽井家で預かってもらうという考え自体は、悪くないと思ったんだが……エルフのことなんて、鈴香と父さんに説明できないよなぁ。
そもそも、どうして俺がこんなことに巻き込まれているのかから説明しないといけいな。となると、俺が魔法少女・ツグミであることもバレる可能性がある。それだけは絶対にダメだ。
小さくため息をつくと、リーファが不安そうな顔で俺を覗き込んできた。
「ツグミ、元気ない、です? 大丈夫、ます?」
「……ああ、大丈夫だ。リーファは何も気にすることないぞ」
リーファの頭を撫でると、嬉しそうな顔で俺にのしかかって来た。
やれやれ、可愛い子だ。まるで本当に娘ができた気分だぞ。
引っ付いてくるリーファの頭を撫で続ける。……その時だった。
『緊急――富士山、青木ヶ原樹海に魔物の出現を感知』
ッ、魔物……!
慌てて起き上がると、リーファがきょとんとした顔をしていた。そうだ、今はリーファもいるんだった。
仕方ない。一瞬で終わらせて、すぐ帰ってこよう。そろそろ魔物の討伐をしないと、期限の一週間がすぎて魔法少女の力が失われてしまう。
「ごめん、リーファ。ちょっと出掛けてくる。すぐ帰ってくるから、待っててくれるか?」
「すぐってどれくらい、ます?」
「えっと……一時間……いや三十分くらい」
「?? わからん、ます」
そりゃそうですよね。時間の概念とかわかりませんよね。
やばいやばいやばい。このままじゃ魔物の討伐が……!
どう言い訳をしようか迷っていると……リーファが、俺の手を包んだ。
「リーファも行く、ます」
「……え?」
「ついて行く、です」
「はあ!? いや、おま、それは……!」
さすがにそれはまずいだろ! もしかしたら、MTuberが配信してるかもしれないのに!
でもこれ以上悩んでいる時間はないし……ええい、くそっ。なるようになれ……!!
「わかった。でも絶対に、俺から離れるなよ……!」
「はい、ます」
少しでも姿を隠すように、リーファの上から男物のでかいパーカーを着せる。
多少時間を食っちまった。急いで向かわないと。
「リーファ、振り落とされるなよっ」
「わかった、です」
リーファをお姫様抱っこで抱き上げると、青木ヶ原樹海方面に向かって全力で跳び出した。
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