第63話 無知っ子エルフ
風呂から上がったリーファは、リリーカに髪を乾かしてもらいようやく真っ当な服に身を包んだ。
通常モードのリリーカの私服だからか、清純そうな白のブラウスに、濃紺のロングスカートを履かされている。
なんとも良く似合うというか、美貌と相まってどこかの令嬢のように見えた。
因みにリリーカがリーファを整えている間、ビリュウは『私はむっつりスケベです』という看板を首に提げて正座させられていた。
「ふむ。素材がいいから、よく似合うな」
リリーカさんも満足そうに頷く。
リーファはどこか恥ずかしそうにしながら、俺の前でくるっと回った。
「ツグミ。どう、です? 可愛い、ます?」
「ああ、可愛いよ」
「♡」
俺からの褒め言葉に、リーファは嬉しそうに笑って抱き着いてきた。
いやぁ、懐かれたなぁ〜。……これ、俺が男に戻った時殺されない? 大丈夫?
ようやく落ち着いたところで、リリーカさんが手を叩く。
「さて、これからどうするかだが……リーファについては、ツグミに一任しようと思う」
「え、俺?」
「ああ。現状、リーファが心から気を許しているのはツグミだけだからな」
だ、だからって、全部任せるとか言われても……!
リーファを見下ろすと、キョトンとした顔でまた擦り寄ってきた。おのれ、人の気も知らないで。
「さ、さすがに俺だけじゃ無理ですって」
「安心しろ。何も全てを任せるわけではない。リーファも女性だからな。私たちがいないと、お前もわからないことだらけだろう。幸い、私もビリュウさんも隣人だ。何かあったら、直ぐにサポートする」
リリーカさんの言葉に、ビリュウさんも頷く。
「それがいいわね。私たち、まだ彼女から怖がられているみたいだから」
「あなたに関しては自業自得では?」
俺たちのジト目に、ビリュウさんは気まずそうに目を逸らした。あなたは反省しなさい。
「でもこの子のこと、キキョウさんくらいには報告した方がいいんじゃないですか?」
「いや、それはやめておいた方がいいだろう」
俺の提案に、リリーカさんが即却下した。
「何でですか? 魔法少女協会の支援があれば、いろいろ楽になると思うんですけど」
「考えてもみろ。あのキキョウさんにリーファの事を知られたら、必ず面白半分で大事にするぞ」
思考中……思考中……思考中……。
「するな」
「するわね」
どうやらビリュウさんも同じ意見らしい。同タイミングで深く頷いた。
「私、副支部長としてキョウ様と一緒にいたけど、こういう面白そうなことには目がないの。絶対に話さない方がいいわ」
「という訳だ。ツグミ、この事は我々のみでなんとかするぞ」
なんとかするって……いったい、どうすりゃいいんだよ。
◆◆◆
その後、一旦この場はお開きとなり、部屋には俺とリーファだけが取り残された。
ようやく恐怖の対象がいなくなったからか、リーファは安堵したような顔で部屋の中を見渡す。そんなに見られると恥ずかしいんだけど。
座布団に腰掛け、家捜ししているリーファを見ながらテーブルに肘をつく。
「さて、これからどうするか……」
ひょんな事から始まった、美少女無知っ子エルフとの同棲生活。何も起きないはずがなく……なんて考えちゃダメだ。今一番心細いのはリーファなんだから。
少しでも彼女の支えになろう。それが、今の俺にできることだ。
「ツグミ、ツグミ」
「ん? どうした?」
早速俺の出番か。どれ、現代日本人の力を見せてやろう。
「おしっこ」
「…………ん?」
「おしっこ出る、ます」
「……………………ん!?」
待て待て待て待て、待ってぇっ!? それ現代日本人(男)の手に余るが!?
「だ、大丈夫だっ。トイレはそこ! そこでしろ!」
「はい、です」
トイレまで連れていき、中に入れて扉を閉める。ふー、これで一安心だ。
「ツグミ、ツグミ。やり方わからん、ます」
「はぁ!?」
そんな訳……ってあーそうかっ、異世界とはトイレ事情が違うのか! てかそもそも、エルフ界隈ってトイレとかあんのか?
急いで扉を開けて、便器の蓋を開ける。
「ここ! ここに座ってするの! パンツは降ろせよ!」
「わかった、ます」
と、今度は俺の目も気にせずパンツを降ろしだした。
せめて! せめて俺が出てからしてくれ!
トイレの外に避難し、扉を閉めて肩を落とす。あぁ、どっと疲れが……。
リビングに戻ってリーファが戻ってくるまで待つ。が……いつまで経っても戻ってこない。どうしたんだろうか?
少し心配になっていると、トイレの扉が開きリーファが顔を覗かせた。
「ツグミ、ツグミ。終わった、ます」
「おー。手は洗えよ……って、そうか、蛇口の使い方も知らないのか」
「ます?」
これ、無事に日常生活が送れるようになるまで、一つずつ教えなきゃならないのか。先は長いな。
案の定流されてなかったトイレを流し、洗面所でリーファの手を洗う。まるで子育てをしてる気分だ。いかん、ため息が漏れる。
「はぁ……」
「ツグミ、ツグミ」
「……今度はなんだ?」
「お腹空いた、ます」
……誰か、助けてくれ。
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