第62話 髪撫ではえっち

 先に入っている俺の、脚と脚の間に入り込むリーファ。アップに纏められた髪の毛のせいで色っぽいうなじがよく見えて、大変青少年の精神衛生上よろしくない。

 が、それより目を引いたのは……傷痕だ。

 よく見ると背中、腕、肩……恐らく前面にも、傷がある。塞がってはいるが、どれも痛々しいものだった。



「リーファ、この傷はどうしたんだ?」

「ふぇ? ……覚えてない、ます。わからない、です」



 自分の体のことなのに、本当に覚えていないらしい。自分のあちこちを見渡して、頭の上にハテナを浮かべている。

 その拍子に綺麗なお胸様がぷりんと揺れて、がっつり目に飛び込む……前に、全力で目を逸らした。記憶と共に羞恥心まで置いてきたのかよ。



「ツグミ、詰めて欲しい、です。狭い、ます」

「あ、ああ、ごめん」



 もう既に限界だけど、ギリッギリまで体を浴槽にぴったりとくっつける。

 その隙間を縫うように、リーファも肩まで湯船に浸かった。

 二人の体積によって、お湯が外に流れ出る。あぁ、勿体ない……。



「はひぃ〜……」

「気持ちいいか?」

「良き、です」



 お気に召したようでよかった……うおっ。

 リーファはそのまま、俺にしなだれかかってくる。もちろんそんなことをすれば、肩口からリーファの裸体が目に入る訳で……。

 慌てて顔を逸らし、何とか話題を見つける。



「り、リーファ、熱くないか?」

「程よい、ます」



 余程気に入ったのか、湯船に溶けるリーファ。目を閉じてほにゃほにゃの笑顔を浮かべている。

 一人暮らし用の浴槽だけど、女二人だからピッタリめだ。ピッタリすぎて肌と肌が密着してるけど。

 ぐぅ……柔らかい。くっついてる所、全部がトゥルトゥルだ。男だったら間違いなく一線を超えてるレベル。……いやダメだろそれは、人として。

 少しでも離れようと身動ぎするが、残念ながら逃げ場がない。むしろムニムニ感を余計意識してしまう。



「ひゃぅっ。ツグミっ、くすぐったい、です……!」

「す、すまん……!」



 やっぱり、これ以上動くのはよろしくない。もし外の二人が変な勘違いしたら、ド変態のレッテルが貼られてしまう……!

 とにかく気を紛らわせないと。今のうちに聞けることを聞いておこう。



「リーファ、もう一度聞いてもいいか? 本当に、向こうでのことを何も覚えていないのか?」

「……ここと違う世界、ます。でもわからない、です。覚えてない……ます……」



 言葉がしりすぼみになり、肩が震えている。

 そりゃそうだ。記憶もなく、身よりもなく、自分が元いた世界とはまったく別の場所に来てしまった。そんなの、誰だって不安になるに決まってる。

 今にも消えてしまいそうな儚さを感じ……考えるより先に、リーファの頭を撫でていた。



「なに、です?」

「あ、いや。なんか放っておけないというか……嫌だったら、ごめん」



 何考えてるんだ、俺は。いくら異世界人……しかもエルフとは言え、いきなり女の子の頭を撫でるなんて。

 慌てて離そうとした、その時。リーファが俺の手を握り、もう一度頭の上に乗せた。



「リーファ?」

「これ落ち着く、です。わからないけど……安心、ます」

「……そうか。なら、しばらくこうしてるか?」

「ます」



 人の温もりが恋しいのかもな。いったい、異世界でどんな生活を送っていたんだ。

 ……そういや、モモチが言ってたな。ダークエルフは、ハイエルフが闇堕ちした姿だって。

 ならこの子は、向こうで何があってダークエルフに……?

 リーファの過去に思いを馳せつつ、頭を撫で続けていると──バンッ! 突然、ビリュウさんが乱入してきた。



「ぴっ……!?」

「び、ビリュウさん、なんですかいきなり」






「髪撫ではえっち!!」

「えっちじゃないが!?!?」

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