第60話 ド変態ビリュウ
途方に暮れていると、リリーカさんが「とりあえず」と口を開いた。
「まずは服を新調しなければ。さすがにずっとその格好は、現代日本じゃまずいからな」
改めてリーファの格好を見る。リリーカさんの言う通りだ。これじゃあ、布切れを纏っているのとなんら変わりない。見た感じ下着みたいなのも着けてないし、目のやり場に困るぞ、これ。
気まずさもあり、そっと目を逸らして少しリーファから距離を取ろうとするが、引き戻された。頼む、男心をわかってくれ……って、今の俺女だった。
「下着に関しては、私のものでなんとかなるだろう。問題は服だが……背丈的に、私やビリュウさんの服では合わなそうだな」
確かによく見ると、背が高い。手足も長いし、人とは思えないくらいスタイルがいいな。これが異世界人だからなのか、エルフだからなのか……。
「なら俺の服はどうだ? 男の服なら入るだろう」
「うむ、それが良さそうだな。私はいくつか下着を持ってくる。その間に、ビリュウさんはリーファを風呂に入れておいてください」
突然振られたビリュウさんだったが、「ええ」と二つ返事で返すと、リーファに近付いた。
「リーファ。お風呂に入りましょうか」
「おふろ……ます?」
どうやらリーファの生活していた中には、風呂という概念がないらしい。きょとんとした顔でビリュウさんを見上げていた。
「えっと……なんて言えばいいのかしら。水浴びとか、身を清める、とか?」
「水浴び、です……! したい、ますっ」
お、食いついた。なるほど、リーファは水浴びが好きらしい。なら風呂も、きっと気に入ってくれるだろう。
「なら行きましょう。ツグミ、浴室借りるわよ」
「あ、はい。どうぞ」
貸して減るものでもないし、快諾した。美女二人が俺の部屋の風呂を使うとか、滅多にないシチュエーションだしな。
ビリュウさんがリーファを連れて行こうと立ち上がる。だがリーファは動かない。少し怯えた顔で、ビリュウさんを見上げている。
「リーファ、どうした? 行ってこいよ」
「……妻、怖い、です。殺さない……ます……?」
え? あ……さっき明確な敵意をぶつけられて、ビリュウさんに苦手意識を持ってるのか。
リーファには申し訳ないけど、ビリュウさんの気持ちもよくわかる。あんな登場の仕方をされたら、魔法少女なら誰だって敵意をぶつけるだろう。今だって、人なのか魔物なのか曖昧なんだから。
怯えたリーファを見て、ビリュウさんは仕方ないといった雰囲気で肩を竦めた。
「仕方ないわね。ツグミ、あなたも来なさい」
「え、俺も?」
「リーファが心から気を許しているのはあなただけなんだもの」
そ、それはそうだけど。いくら今の俺は
でも、こうでもしないとリーファは風呂に入れない。だからと言って、俺一人で女性の体を洗うとかはできそうにないし……。
「わ……わかった」
「なら、早速行きましょう」
目を閉じたビリュウさんがその場で一回転すると、着ていた魔法少女の服が淡く光り……全裸になっ……は!?
ここでツグミの反射神経と動体視力が発動。ギリッッッッギリ、際どいところが見える前に首を真横に向けた。
「びびびびビリュウさん、何をして……!?」
「何を驚いているの? これからお風呂に入るのだから、全裸は当たり前でしょう?」
「俺が! いるで! しょうが! なんで俺の前でサラッと全裸になってんの!」
「旦那の前で裸になるのは普通のことよ。私の体で見られて恥ずかしいところは、一つもないし」
自分の体に自信があることは極めて良いことだと思うけど、まだ俺は結婚とか子作りとかそういうのとは無縁でありたいの! 彼女は欲しいけどそこまでの業は背負いたくないんだよ!
「せ、せめて水着! 水着でお願い!」
「……なるほど、わかったわ。私の裸は、夜に二人きりの方がいいものね。ふふ、独占欲が強いんだから。でも、そういうところも好きよ」
全然わかってねぇな!?
再びビリュウさんの体から淡い光りが発し、安堵して息を吐く。
そっちに目を向けると……布面積が際どい水着姿となっていた。うん、まあ水着ならなんでもいいや……。
「なら俺も……」
「待って。私があなたの水着を指定していいかしら?」
「え~……変なものにするなよ?」
「ええ。もちろん」
……心配だ。果てしなく心配だ。
「白スクで。水で透けるタイプの」
「ド変態すぎんだろ!?」
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