第55話 ご褒美タイム

 ──……っ、ぁ……なんだろう。すごくふわふわする。暖かくて、いい匂いに包まれて……極楽だ。

 体に力が入らない。俺、どうしたんだろう……ダメだ。思考が揺れて……眠気が……。



「ばぐっ」

「おべっ……!?」



 なんっ、えっ、鼻! 鼻が何かにかじられて……!?



「ば、バハムートっ、何をしているの……!」

「がるっ」



 鼻をかじっていた何かが引き剥がされ、勢いで起き上がった。お、俺の鼻、大丈夫だよな? くっ付いてるよな……?

 涙でぼやけた目で、周りを見渡す。

 ここは……龍安家、だよな。めっちゃ和風な空間で、掛け軸とか生け花とか飾られてるし。

 あれ? 俺、なんで寝て……?



「あ……起こしちゃった……?」

「え?」



 声のした方を見ると、なんとそこには制服姿のビリュウさんが。そして腕の中には、何やら小さいドラゴンのぬいぐるみが。



「ぐるるるっ」

「え……ぬいぐるみが喋った……!?」

「え? あぁこの子、バハムートよ。今はエネルギー消費を抑えるために、小さくなっているの」



 へ……へぇ、これがバハムート……随分と可愛くなっちゃってるな。

 っ、うっ。頭いてぇ……!

 頭を手で抑えていると、ビリュウさんが心配そうに傍に近付いてきた。



「神楽井くん、大丈夫? まだ寝ていた方がいいわ。あなたが気絶してから、まだ1時間くらいしか経ってないから」

「い、いや、もう大丈夫ですっ。すみません、布団まで借りちゃって……!」



 急いで立ち上がった、その時。頭痛+目眩+倦怠感で、世界がぐるりと周った。あ、やばっ。倒れる……!



「神楽井くんっ」



 ──ぽすっ。

 倒れる寸前。間一髪の所で、ビリュウさんが受け止めてくれた。あ、危なかった……また頭を打ち付けるところだった。



「落ち着いて、大丈夫だから」

「す、すみません……」



 もう謝るしかない。やだ、恥ずかしすぎる。

 ビリュウさんに支えられて、再び布団に横たわる。

 ほっと一息ついて、改めて周りを見渡すと……なんか、やけに静かだな。大暴れした後とは思えない。



「……あれから、どうなったんですか?」

「もうみんな解散したし、あなたのお母様も先に帰られたわ」



 せめて母さんだけは、俺が起きるまでいてくれよ。薄情だな、ったく。



「これからリリーカが来るわ。多分、あと10分くらいで着くと思う」

「なんでリリーカさんが?」

「……あの子にも色々と迷惑を掛けたからね。事の顛末を説明しないといけないじゃない? 本当は後日説明するつもりだったんだけど、来ると言って聞かなかったのよ」



 あー……確かに、リリーカさんにも心配かけたからなぁ。来るなら、今はここで休んでるのが一番か。

 体から力を抜き、布団に包まれる。疲労感のせいか、まだ眠気が……。






「だから、急げば子供1人くらい作れるわね」






 …………。



「は??」



 子供? 作る? 何言ってんの?

 眠気が吹っ飛び、ビリュウさんを見上げる。と……急に近寄り、俺の顔の横に手をついた。

 おかしい。どことなく、視線に熱を帯びてるような。



「あ、あのぉ、ビリュウさん……?」

「美月と呼んでちょうだい。あなたにはその権利があるわ」



 いやいやいやいやっ、何言ってるのこの人!?



「も、もう龍安から解放されたんじゃないんですか!? 子供とか結婚とか、今のビリュウさんには関係ないんじゃ……!」

「ええ、龍安は関係ないわ。これは私の意思。私の気持ち。私の本能。……今私は、心の底からあなたの子を宿したいと思ってる。とりあえず最低3人くらい欲しいわ。女の子2人と男の子1人。私似と、ツグミ似と、神楽井くん似……ふふ、想像しただけで楽しみね。あ、女の子だとあなたを取り合って喧嘩しちゃいそうだから、みんな男の子がいいかも。でも男の子ばかりだと、今度はあなたが嫉妬しちゃうかしら。悩ましいわね。けど大丈夫。私たちとの子供なら、みんな可愛くていい子になるに決まってるわ。どんな子が生まれようと大切に育てましょうね」



 ひぇっ。ひえっ。ひええええぇぇぇぇっ……!!

 怖い怖い怖い怖い怖い! なんかすごく怖い!? この人、こんな性格じゃなかったよね!? なんでこの半日足らずでこんなにデレデレになってるの!?

 訳分からず硬直していると、ビリュウさんは俺の上に座り、小さく舌なめずりをした。まるで獲物を狙う獣……いやドラゴンだ。



「あなたは寝ているだけでいいわ。私も初めてだけど、次代の龍安を産むために、勉強と練習だけは欠かさなかったから」



 聞きたくない! クラスメイトのそんな話し聞きたくない!

 ビリュウさんが少し腰を浮かせ、スカートをたくし上げた……その時だった。



「継武くんッ、大丈夫か!? ……あ」



 思い切り開いた襖。そこから、魔法少女姿のリリーカさんが現れた。

 今からいたそうとしている俺たちを見つめ、一瞬硬直し……ギュギュギュンッ。瞬間湯沸かし器のように顔を真っ赤にした。



「なっ……なっ……何をしているのだ、貴様らーーーーー!!」



 俺が聞きてぇよおおおおおおおお!!

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