第54話 手の平の上
真っ先に突進してきたのは、【纏い】によって体長が3メートルにもなった魔法少女。
振り下ろされた拳を両手で受けた瞬間、地面が陥没し、四方八方にひびが入った。
なるほど、これは強いなっ。さっきよりも断然重い……!
「シュッ!」
「げはっ!?」
一瞬で懐に入り込み、腹に拳を叩き込む。悪いけど、もう女とか関係な──。
「ガルルルルッ……!!」
「ッ!?」
め、めり込んだ拳を掴んで来た……!? こいつ、俺の拳で膝つかないのかよ!
動揺している内に、別の魔法少女たちが俺に向けて大きく口を開く。口内に超高熱のエネルギーが凝縮されて……って、それここで撃つのか!? この女も道連れに!?
逃れようにも、こいつも腕を離そうとしないし……! くそっ!
「ふんぬッ!!」
「なっ!?」
気合いを入れ、足腰に力を込める。同時に3メートルもの巨躯を担ぎ、直上へジャンプ。
直後、なんの手加減もなしに放たれた高圧縮光線が地面を抉り、数メートルものクレーターを作った。
「っぶねぇ……お前今、あれ食らってたら死んでたぞ……!」
「ふんっ。私たち【纏い】を習得している者は、防御力も桁違いに跳ね上がっている。あの程度じゃ死なんッ」
それ、死なないけど死にかけるって言ってるようなもんじゃん。
あーくそ。ならもう遠慮しねぇよ!
ジャンプによって力が抜けた瞬間に、腕を振り払う。すかさず衣服を掴み、体を捻り……思い切り、叩きつける!
「オルァ!!」
「「「「「キャアアアアアアッ!?」」」」」
突然飛んできた巨大な体に、下にいる魔法少女たちが吹き飛ばされ、押し潰される。
確かにパワーや光線に関しては、魔法少女離れした強さがあるが……言うて、バハムートには遠く及ばない。
余裕を持って地面に降り立ち、周りを見渡す。
「まだ、やるか?」
こっちはまだ謎のキラキラ光線という取っておきを残してるんだ。やるなら徹底的に相手に……。
『あー、ストップストップ。そこ、止まりなさーい』
……あ? この声、モモチ?
俺以外にも全員声が聞こえたのか、全員ザワついて辺りを見渡している。元魔法少女の母さんとビリュウ母も聞こえているみたいで、鋭い目付きで空を見上げていた。
「モモチか? どこだ?」
『ここ、ここだよ』
どこだよ。……お?
その時、俺のポケットがモゾモゾと動き出すと……鍵に付けていた餅のキャラクターのキーホルダーが宙に浮かび、淡い光を纏っていた。
『まったく……君たち、何仲間同士で争ってるんだい? 戦うのは身内じゃなくて魔物だよ』
「わかってるけどさ……こいつら、自分たちの地位を守るために最低なことしてたんだぞ。こちとら、はらわた煮えくり返ってるんだわ」
大暴れしているけど、まだ溜飲が下がらない。こんなにもイラついたのは、人生で初めてだ。
『ふーん……ティア、これは君がけしかけた事?』
モモチがビリュウ母に問いかける。彼女はそっと笑みを浮かべて、頷いた。
「ええ。ここにいる全員で、ツグミさんを攻撃するように」
『おかしな話じゃないか。君、彼女らが束になっても、ツグミには敵わないとわかってるだろう?』
……なんだって?
モモチの言葉に、ビリュウ母を抜いたこの場にいる全員が騒然とする。……いや、母さんも呆れた顔をしてるあたり、何か知ってる感じだ。
『みんなは騙せても、僕は誤魔化せないよ。全員の内に眠っていた魔法少女としての才能と潜在能力は、全部把握してるんだ。当時最強だった君ほどの実力者なら、それも感じているに決まってる』
全員の目が、ビリュウ母に注がれる。
『もしかして君……龍安家を一度、リセットするつもりだったのかい?』
「……り、リセット……?」
とんでもない言葉に、今度は空気が凍った。
文字通りに受け取るなら、リセットとは……龍安家を、なかったことにしようと……?
背中を伝う汗を感じつつ、喉の奥に引っ掛かる唾液を飲み込む。
ビリュウ母は着物の袖を口に当て、小さく笑った。
「リセットだなんて、そんな人聞きの悪いことを言わないでくださいな。私は龍安の現当主。家を潰すような真似は致しません」
口ではそう言ってるけど……目が、笑ってないぞ。
「ただ、そうですね……龍安の仕来りは、クソだと言うだけです」
……クソ……?
ビリュウ母は手を広げ、一歩ずつ前へ足を踏み出す。
「私、昔から龍安の呪われた慣習が大嫌いでした。忌まわしき歴史。暗い仕来り。戦えなくなった私たちを、地位の維持のために物扱いする……腹立たしいとは思いませんか?」
「…………」
母さんから、この人は龍安に染まったと聞いてたけど、違った。彼女もこの慣習が嫌いで、嫌悪して……憎んでいるんだ。
ただ現当主として、この現実を受け入れるしかなかった。
歴史ある龍安の当主としての重圧と、逃げられない責任……余りにも、酷すぎる。
「この中にも、龍安のこの環境に慣れきっている人が少なからずいるはずです。これが当たり前だと。私たちは最強であると。最強であるために、子を産むことが普通だと……心当たりがある方は?」
ビリュウ母の問に、両手で収まらない程の人数が顔を伏せる。
少し悲しそうな顔になったが、直ぐにいつもの優しげな顔で俺に近付いてきた。
「あなたが、今話題のツグミさんだとわかった時、私の胸は高鳴りました。あなた程の実力者なら……今まで私たちが護ってきたものは、一つの強大な暴力で消し飛ぶほど、ちっぽけなものだとわからせてくれる、と」
……それって、つまり……。
「俺、利用された……?」
「そんな、滅相もない。これを思いついたのは、あなたがツグミさんだとわかった時ですよ」
あの一瞬で、ここまで算段してたのかよ、この人。怖い怖い怖い。何考えてんのかホントわかんない……!
ビリュウ母の腹黒さにドン引きしていると、モモチが俺と彼女の間に割って入った。
『それで、その思惑は達成できたのかい?』
「ええ。ここにいる全員はもちろん……安全な隠居部屋にいて、ここを静観しているであろう先代たちも、何も言えないはずですよ」
先代たち……つまり、ビリュウさんの祖母たちってことか。どこまでこの人の手の平の上なんだろうか……。
全員黙りこくり、誰も反論しようともしない。
モモチはそれを見渡すと、より強い光りを放って宙高く浮かび上がった。
『ではこの場は、神の名を以て終結とする。総員、これ以上の一切の争い及び、未来永劫人権を配慮しない行動は慎むこと。……以上!』
「「「「「はっ、はい!!」」」」」
俺、ビリュウさん、母さん、ビリュウ母を除く全員が、モモチに跪いて頭を下げる。
これ……終わった、のか? 終わったんだよな?
「……はぁ〜……」
なんか、一気に肩の力が抜けた。ほんっと〜に疲れた。
その場に座り込み、魔法少女の形態を解く。
と……あれ、おかしいな。疲れからか一気に目眩が……。
世界が回り、バランスを保てない。
地面が起き上がり、空が反転し……ゴンッ。何かに頭をぶつけ、世界は暗転した。ばたんきゅー。
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