第53話 肯定

   ◆◆◆



 ドラゴンたちは威嚇を止めないが、突撃してくることはない。賢明だ。誰だって無闇にダメージは負いたくないからな。

 魔法少女たちも俺を警戒しているが、攻撃を仕掛けてくる気配はなかった。



「これで終わりか? 最強を名乗る龍安にしては、呆気ないんだな。それとも、ビリュウさんにおんぶに抱っこじゃなきゃ満足に戦えないか?」



 …………。俺の挑発にも乗っかって来ないか。ならこのまま、ビリュウさんを解放して欲しいんだが……どうやら、そうは問屋が卸さないらしい。

 部屋の中から出てきたビリュウ母が、にこやかな顔で俺を見つめる。



「なるほど、なるほど。その力、噂に違わぬものらしいですね」

「お気に召したか?」

「ええ、とても」



 その時、ビリュウ母が周囲にいた魔法少女たちを見渡し、またいい顔で微笑んだ。



「【纏い】を解禁します」

「「「はっ! 当主様!」」」



 まとい……? なんだ、それは? また俺の知らない魔法少女の力か何かか?

 魔法少女たちは右手の中指にあるフェアリーリングを空に掲げる。直後、指輪が七色に輝き出し、呼応してドラゴンたちも七色の光りを灯した。

 でかいのも小さいのも関係なく、光ったドラゴンは手の平サイズの球体となり……それぞれの契約者である魔法少女に、取り込まれた。

 


「ガッ……グッ……!」

「オッ……グガッ……!!」

「ガアアアアッ! ルルルルルルアァァァァッ!!」



 メキメキッ、ミシミシッ、という音と共に、体に変化が訪れる。

 全員色や形など細かいところは違うが、総じて同じなのは、頭には角。背中には翼。腰には尻尾が生え、肌の所々にはドラゴンの鱗が現れる。

 中には、牙が巨大化した奴。瞳孔が縦長に切れた奴。手足までドラゴンのものに変わっている奴までいる。

 ッ。なんだ……? なんなんだ、これは。全員から感じる圧が、今までの比じゃないぞ……!

 困惑している俺に、ビリュウ母が近付いてきた。



「これが龍安の誇る最強の力、【纏い】。召喚したドラゴンを吸収し、魔法少女の力と掛け合わせることで、莫大な力を得られます」



 そういうことか。だから全員、さっきとは比べられないほどの力と圧を感じるのか。こりゃあ、骨が折れそうだ。

 ……いや、待て。この力があるなら、どうしてビリュウさんは決闘の時に使わなかったんだ? 母親の許可がいるからとか、そんな単純な理由じゃない気が……。

 横目でビリュウさんを見る。俺と目が合うと、彼女は悲しそうな顔で目を伏せてしまった。

 まさか……?



「気付いたようですね」



 俺の反応に、ビリュウ母が口を開く。



「この力は、召喚系魔法少女であれば訓練をすれば誰でも習得可能。龍安の者なら、誰もが習得必須の能力です。……ですが美月は、いくら訓練を積んでもこの力を習得できなかった。だから、失敗作なのですよ」



 ビリュウ母の言葉に、ビリュウさんは更に顔を伏せる。着物にしわができるくらい強く拳を握り、肩を震わせている。

 俺を囲っている魔法少女の何人かも、馬鹿にしたような嘲笑を浮かべていた。

 …………。



「言いたいことは、それだけか?」



 この場の空気が更に張り詰める。俺から迸る怒気を、誰もが感じたんだろう。

 が、目の前にいるビリュウ母だけは動じていない。変わらない微笑みで、俺を見つめる。



「その程度の能力を使えないからなんだ? 結局バハムートは、ここにいる誰でもない。ビリュウさんを選んでんじゃねーか。この中で誰よりも、最強に相応しい魔法少女として選ばれたのはお前らじゃない。ビリュウさんだ」



 ここにいる誰でもない。ビリュウさんを真っ直ぐ見つめる。

 彼女も、頬に伝う涙を拭わず、俺を目を見つめ返した。



「俺は知ってるぞ、彼女の心の強さを。好きなものに真っ直ぐな所を。自分を厭わない自己犠牲を。誰かのために一生懸命になれる所を。笑顔が可愛い所を。そして誰にも負けない、気高さを持っていることを」



 ビリュウさんから、再び母親に向き直る。



「全員、あいつを否定するなら……俺があいつを肯定する」



 俺の言葉に、ビリュウ母は目を少し見開き……また、微笑んだ。



「……ここまで想ってくれる殿方がいるなんて……幸せ者ですね、あの子は」

「やめろ、そういうの。俺はお前らと敵対してんだから」

「ふふ、そうですね。では……」



 ビリュウ母が右手を挙げ……。



「総員、攻撃」



 降ろした。

 次の瞬間、ドラゴンと同化した魔法少女たちが一斉に襲いかかって来る。

 いいぜ。相手になってやるよ……!!

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