第50話 拒まない
運ばれてくる豪勢な料理の数々。見たこともない、名前も知らない色とりどりの料理と、口いっぱいに広がる芳醇な味わいの料理に、俺たちの会話は弾み……。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
……まあ、うん。わかってたけど、そんなことなかった。
圧倒的沈黙。余りにも気まずすぎる。飯の味なんかわかったもんじゃない。
これ、普通親同士の話が弾むもんじゃないの? なんでこんなに無言なの、うちの親たち。
し、仕方ない。ここは俺が。
「あ、あの」
ひぇっ、一斉にこっち見てきた。そんなに見ないで、余計に緊張しちゃうから……!
「え、えっと……聞きたいんですけど、なんでうちに声をかけたんですか?」
俺の質問に、ビリュウ母が「そのことですか」と自身の口を拭い、襟首を正した。
「単純な話、ハニプリさん……あなたのお母様が、魔法少女として私たちの世代の中で五本の指に入るほどの実力者でした。その中で結婚をし、男の子を産んでいたのが彼女だったのです」
ふむ……? なるほど。つまり俺がツグミだったから声をかけたわけじゃなく、魔法少女だった人が男の子を産んでいたら、実力順に声をかけただけってことか。で、最初が俺だったと……なんつー運命の巡り合わせだよ。
「もし俺がこのお見合いを断ったら?」
「次の方に話を持っていく……それだけです。龍安の情報網があれば、探し出すことは容易いですからね」
はは、さいですか。
ただそうなったら、事情を知らないどっかの男が、ビリュウさんの夫になると。
うーん、参ったな。断ってもいいけど、結果として彼女の人生を壊したのは俺だし……。
少しだけビリュウさんをチラ見すると、膝に手を置いて顔を深く伏せていた。現実を受け入れられないけど、どうしようもない子供のように。
……はぁ、仕方ないなぁ……。
「えっと……一先ず、俺たちだけで話していいですか? さすがに急なことで、俺たちも色々と飲み込めてないですし」
「……わかりました。ハニプリさんもいいですね?」
「もちろん。あと、次そっちの名前で呼んだら鼻の穴に笛突っ込んでピーピー言わせるわよ、
「まんじを口にしないでください奥歯ガタガタ言わせますよ」
静かな怒りをバチバチとぶつけ合いながら、2人揃って部屋を出る。後に残されたのは、まだ気まずさの残る俺とビリュウさんだけだった。
無言を貫くビリュウさんと、どうすればいいかわからない俺。
けどまあ、俺から2人で話したいって言っちゃったわけだし、切り出すのは俺だよな。
「しかし驚いた。お見合いの話が来たと思ったら、まさかの相手が龍安だったなんてさ」
「……私もよ」
お、ようやく反応したな。
ビリュウさんはそっとため息をつき、諦観の目で天井を見上げた。
「誰が相手だとしても一緒。私には拒否権はないわ。……もう、聞いているんでしょう? 私が魔法少女だってことは」
「……まあ、うん」
聞いてると言うより、知ってたんだけど。今はお口チャック。
「あなたが承諾すれば、私は次の龍安を産むだけの女になるだけ。龍安として適正のある女児を産むまで、何人もね」
「……それでいいのか、龍安は?」
俺の疑問に、ビリュウさんは無感情の瞳で俺を射抜いた。
「聞いていなかった? 私には拒否権はないのよ。あなたが猿のように求めれば、私は拒まない。子を宿せば、私は拒まない。子を産む時も、私は拒まない。……それだけのことよ」
自分の人生に諦めた笑みを見せたビリュウさんは、「ぁ」と小さく呟く。
「でも、1つだけラッキーだったのは……相手がまったく知らない男じゃなかった、という点かしら。クラスメイトの男の子だけれど、顔見知りではあるのだし」
ギリィッ……! 思わず、歯軋りしてしまった。
頭が痛い、くらくらする。拳を強く握りすぎて、熱いものが指を伝うのを感じた。
狂ってる。こいつの感覚も。龍安家の仕来りも。
家の名誉がそんなに大事か?
最強の名がそんなに大切か?
自身の尊厳を捨ててまで守るべきことか?
──クソ喰らえだ。
「龍安、2つほど謝らせてほしいことがある。すまん」
「……なんのこと?」
「1つ目は、俺のせいでお前の運命を決定づけてしまったこと。あの時、本当は俺が負けてなきゃいけなかったのに……ごめん」
「……ぇ……?」
ビリュウさんが目を見開き、呆然と俺を見つめる。
ここまで言い切ったら……まあ、なんとなく察するよな。
苦笑いを浮かべてビリュウさんに背を向け、部屋の襖に手を掛ける。
「ま、待って。あなた、どこに……?」
「……あー……まあ、2つ目の謝罪は、先取り謝罪ってことで。すみません」
これ、やったらダメだよなぁ。怒るよなぁ、どうしても。
けど怒ってんのは……こっちも一緒なんだわ。
「今からお前の母ちゃんに怒鳴り込みに行くけど、堪忍な」
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