第49話 顔合わせ

 けっこん……ケッコン……血痕……結婚??



「いやいやいや、突然何!?」

「あ、ごめんなさい。結婚というよりは、お見合いね。昔の知り合いから急に連絡が来たの」

「変わらないが!?」



 何で急にそんな話が!? 結婚!? お見合い!? 俺が!?

 


「混乱するのも無理はないわね。私だって突然のことで、飲み込むのに時間が掛かったから」

「……もしかして、ずっと連絡が来てたのってその件について?」

「そうよ。なのにあんた、スマホの電源が切れているんだもの」



 あぁー……また怪我とか気絶したとか言ったら心配かけるから、言わないようにしてたんだ。申し開きのしようがない。

 何回か呼吸をして気持ちを落ち着かせる。いや、落ち着きなんてしないけど……まさか俺に、そんな話が舞い込むなんて思いもしなかった。



「さっきも言ったけど、この事は断ってもいいわ。おそらく向こうも、断られたらまた別の家に話をすると思うから」

「ふぅむ……ん?」



 待てよ。さっき母さんは、魔法少女に関係するって言ってたな。つまり昔の知り合い……魔法少女時代の知り合いってことか。

 それに……なんだろう。お見合い? はて、どこかで聞いたような。

 …………。

 ………………。

 ……………………あ。



「龍安……?」

「……知っていたの? お見合い先のこと」



 …………。



「母さん、その話──」



   ◆◆◆



「……話には聞いていたけど……でっけぇ御屋敷だこと」



 タクシーを降りて左右を見渡せば、端が見えないくらいの長い塀。目の前には巨大で荘厳な門。表札には達筆な文字で『龍安』と書かれていた。

 ここが、ビリュウさんの生まれ育った家……歴代の日本最強が、この家から生まれたのか。

 珍しく和装を着た母さんが、インターホンを押して中の人とやり取りをする。

 しばらく待つと、門がゆっくりと開かれる。奥から2人の和服を着た女性が現れ、俺たちに深々と挨拶をした。



「「ようこそおいでくださいました、神楽井様」」

「こちらこそ、本日はよろしくお願い致します」



 母さんがお辞儀をし、俺も慌てて頭を下げる。

 こういうお堅い空気、苦手なんだよ……。

 2人の女性に連れられて門を潜り、御屋敷に入る。丁寧に整えられた庭園と、奥に見える竹林。古民家のような木造建築が、『ザ・金持ち』感を漂わせていた。



「継武、しゃんとしなさい」

「あ、ああ……それより母さん。俺、制服でよかったのか? 俺も和服とか来た方がよかったんじゃ……?」

「学生は制服が正装だから、問題ないわよ」



 だとしても違和感の方が強いんだけど。

 前を歩く女中さんについて行き、母さんと俺が続く。

 先程見た庭園を左手に長い廊下を進むと、とある部屋の前で2人が膝をついた。



「当主様。神楽井様がお見えです」

「……どうぞ」



 ッ……重い。言葉に質量があるみたいに、肩に重くのしかかる。背中に冷や汗が流れ、思わず唾液を飲み込んだ。

 女中の2人が、同時に襖を開ける。同時に、隔たれていた部屋からいぐさの匂いと、花の香りが漂ってきた。

 中にいるのは2人の女性。1人は少しシワが目立つも、しゃんとした気品のある女性。多分、母さんと同い歳くらい。

 そしてもう1人は……誰でもない。龍安美月──ビリュウさんだった。

 まさか俺が来るとは思ってもいなかったのか、目を見開き、唖然としている。



「あ、あなた、なんでここに……?」

「さあ?」



 この驚きよう、本当にお見合いの相手が俺だって知らなかったみたいだ。多分、自分には拒否権がないから、相手のことをよく聞いていなかったんだろう。

 俺とビリュウさんのやり取りに、母さんが驚いた顔をする。



「え、2人とも知り合い?」

「クラスメイトなんだよ、俺たち」

「あらまあ……世間って狭いわね」



 いや、違うぞ母さん。こいつがツグミの正体を暴きたくて、無理に編入してきたんだ。

 俺がビリュウさんの前に。母さんは、ビリュウ母の前に座る。

 俺たちの前にお茶を置かれ、2人の女中さんは部屋の隅に待機した。



「久しぶりね、龍安さん。突然連絡を頂いた時は驚いたわ」

「申し訳ありません、ハニプリさん。お見合いとなった時、初めにあなたに連絡すると決めていたので」

「ぐっ。魔法少女の名前で呼ぶんじゃないわよ……!」



 珍しく、母さんが恥ずかしそうな顔をしている。

 ハニプリって……もしかして『ハニープリズン』? 蜂をモチーフにしたセクシー系魔法少女で、当時日本で五本の指に入る強さを誇っていた、あの?

 マジかよ……俺、めちゃめちゃ当時の映像漁ってたんだけど。それが実の母親とか複雑すぎる。



「さて、皆さんお揃いですし、お食事にしましょうか。積もる話は、食事をしながらでも」



 ビリュウ母が手を叩き、続々と料理が運ばれてくる。

 その間もビリュウさんは、気まずそうに顔を伏せているばかりだった。

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