第48話 嫌な予感

 退院してから1週間。ビリュウさんは学校に顔を見せなかった。それどころか、魔法少女の村にさえ来ていないらしい。

 ここまで来たら顔を合わせるのが気まずいとか、そういった話じゃない気がする。多分、龍安家が関わってるんだ。

 家の場所もわからないし、凛々夏やキキョウさんに聞いても教えてくれなかった。

 これ以上首を突っ込む権利は、俺にはない……か。

 モヤモヤするけど、どうしようもできないしな……。

 頭の中でいろんなことを考えながら、電車に揺られる。今日は母さんに呼び出されて、実家に顔を出す日だ。どんな用かはわからないけど、なんだろう。

 最寄りの駅で降りて、駅前のロータリーに出る。えっと、迎えは……あ、いた。



「おーい、継武ー」

「父さん、ありがとう」



 手を振っている父さんに近づき、車に乗り込む。その拍子に、新車独特の匂いが鼻をつく。



「あれ、車買い換えた?」

「この間、魔物の襲来があったろ? 家は魔法少女たちが復元してくれたけど、家具家電や車は対象外らしくてね。でも国が補助金を結構出してくれたから」



 あぁ、そういや俺の住んでるアパートが壊された時も、そんなこと言われたっけ。

 でも……そっか。もうそのままの実家はないんだな……なんとなく、寂寥を感じる。

 無言で窓の外を見つめる。まだ完全に復興していないのか、それとも別のところに移り住んでしまったのか、いくつかの家は壊されたままになっていた。



「……なんか、寂しいな……」

「仕方ないさ。一度魔物が現れた場所は縁起が悪いから」



 そりゃそうだけど、そうじゃないんだよ、父さん。

 体の力を抜き、椅子に体を預けてどことなく綺麗に舗装されている道路を眺める。

 見覚えがある場所なのに、記憶の中にある街並みとは違う……。

 あ、そうか。……だから、どこか寂しさを感じるんだ。



「──継武?」

「ッ。な、何?」

「いや、着いたよ」



 え? あ……ホントだ。ぼーっとしてて気付かなかった。

 車から降りて、家を見上げる。おぉ……すごいな。あれだけ破壊されてたのに、元通りに戻ってる。まあ中身は違うんだろうけど。

 父さんに連れられて敷居を跨ぎ、いざ帰宅。と、リビングの方からドタドタと慌ただしい音が聞こえてきた。



「お兄ちゃん! おかえり!!」

「おー鈴香、ただいま。相変わらず元気……だ、な?」



 おやまあ。鈴香ちゃん、ずいぶんヒラヒラした黒いドレスを着てるじゃない。大きな紫のリボンも可愛らしいし、そのお帽子も………………どこかで見たことあるな、その格好。



「どう、どう? お兄ちゃん、可愛い?」



 見せびらかすように、くるりとその場で一回転する鈴香。うん、すごく似合ってる。さすが俺の妹、可愛い。



「ああ、天使みたいだぞ。……で、どうしたんだ、それ?」

「お父さんに買ってもらった! ツグミンの魔法少女衣装だよ!」



 許可してないんですが!?

 くそっ、多分キキョウさんの独断だな。俺にも売れた分のマージンをよこせっ……!

 ……まあ、鈴香が満足そうにしてるなら、いいか。

 妹の頭を撫でていると、奥から母さんが顔を覗かせた。



「おかえり、継武。待ってたわよ」

「ただいま、母さん。で、用事って何?」

「そんな焦らないの。まずは手を洗ってらっしゃい」



 ……母さんの様子はいつも通りか。うーん……?

 とりあえず手を洗ってリビングに入る。中では母さんしかおらず、父さんと鈴香の姿はなかった。



「あれ、2人は?」

「別室よ。ちょっと2人には聞かれたくないことだから」

「それは……魔法少女に関して?」



 俺の疑問に、母さんは無言で首肯する。

 えぇ、なんだろう。すごく嫌な予感がするなぁ……。

 母さんの前に座り、出された紅茶を飲む。母さんもどう切り出そうか迷っているのか、何度も紅茶をすすった。



「はぁ〜……継武、これは……断ってくれていいことよ。先方にも、私の方から説明するから」

「え。あ、うん……まあ、用件を聞かないことにはなんとも言えないけど」

「…………」



 母さんは手を組み、テーブルに肘をつく。言うかどうか、かなり悩んでいるみたいだけど……本当、何を聞かされるんだ……?

 待つこと数分。意を決したらしく、母さんは顔を上げた。



「継武。あなたに──結婚のお話が来ています」



 …………。



「は?」

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