第47話 勝敗の行方

 ──……ぅ……ぁ……? ここは……眩しい……何も見えない。どこだ、ここ……?

 全身、ふわふわのものに包まれてる。それに、ちょっとした薬品のにおい。もしかして……病院?

 ゆっくり光りに目を鳴らし、開く。まず目に飛び込んできたのは、大木をくりぬいたようなドーム状の天井。それから俺と点滴を繋いでいる管。

 体が、思うように動かない。重く、痛く、苦しい。なんで俺、こんな場所に……?



「気付いたか?」

「……り、りーか……さん……?」



 ベッドに寝ている俺を見下ろすリリーカさん。優しい笑みを浮かべていて、器用にリンゴを剥いていた。

 起き上がろうとするが、どうしても力が入らない。というか、手足が自由に動かない気がする。



「無理に動かすな。と言っても、当分動かないと思うが」

「え……うわっ」



 両手両足がギプスで固定されてる。しかも結構ガチガチに。どおりで動かないわけだ。

 首を動かして部屋を確認する。リリーカさんしかいないな……よかった、素の自分でいられる。

 小さく嘆息し、天井を見つめる。

 脳裏に浮かぶのは、バハムートとの激闘。最後にあいつの顔面を殴り、牙をへし折って……力を出し切り、気絶した。



「……俺、負けたんですね」



 クソ……。そっと呟いて、目を閉じた。



「確かに支部長はそう勝敗を下した」

「…………」

「しかし、それに異を唱えた人がいる。……ビリュウさんだ」

「……え?」



 び……ビリュウさんが? なんで? だって、キキョウさんがビリュウさんの勝ちを宣言して……?



「支部長の主張は、気絶した君に対して、生殺与奪の権利を持っているのはビリュウさんだからというものだ。だがビリュウさん曰く、攻撃の要であるバハムートを沈められたから、自分の負け……ということらしい」

「で、でも……!」



 そんなこと言ったら、ビリュウさんの負けが確定して、結婚させられるんじゃ……!



「龍神を従え、龍神と共に戦う彼女にとって、バハムートは武器であり、戦友であり、一心同体。それがやられたら、自分の負け……あの人なりに、プライドがあるのだろう」



 だ、だからって、自分のこれからの人生を決定づける戦いだったんだぞ! そんなプライド、捻じ曲げてでも自分の人生を優先しろよ……!!



「ダメだっ、あの決闘は俺が負けたんです! 今すぐ撤回してください!」

「無理だ」

「どうして……!」

「……決闘が終わり、半日過ぎている。ビリュウさんも既に魔法少女の村を発った」



 そ……んな……。

 体から力が抜け、呆然とする。勝った……いや、勝ちを譲られた。こんなの、納得するはずないだろ。

 何も喋らず、ただ虚空を見つめる。余りにも虚しすぎる。



「……私は行くぞ。怪我の方は医療系の魔法少女の力で治しているが、5日は安静にした方がいいらしい。学校には、私から言っておく」



 それだけ言い残し、リリーカさんは医務室を出ていく。

 ……気持ち悪い。こんな感情、初めてだ。

 学校行ったら、どんな顔してビリュウさんに会えばいいんだよ……くそ。



   ◆◆◆



「え、来てない?」



 怪我も治って学校に行くが、優里曰くビリュウさんは月曜日から学校を休んでいるらしかった。

 気まずいから、会いたくはなかったけど……学校に来てないとは思わなかった。



「ああ。先生が、家庭の事情でしばらく休むって言ってたぞ。って、それよりお前の方は大丈夫かよ。2トントラックが家に突っ込んだって聞いたけど」

「あ、ああ。俺は大丈夫だ。ピンピンしてる」



 どんな言い訳をしたんだ、凛々夏。

 苦笑いを浮かべつつ、横目でビリュウさんの席を見る。

 まさかこのまま、学校を辞めるとか言い出すんじゃないよな……?

 念の為、凛々夏に話を……って、あいつも来てないじゃん。しょうがねぇな。

 とりあえずメッセージを……ん? あ、スマホの充電が……そういや、決闘が終わってからずっと入院してたから、充電してなかったな。



「わり、優里。充電器あるか?」

「ん? ほらよ」

「さんきゅ」



 借りた充電器をスマホに繋ぎ、電源を入れる。

 うわ、なんか母さんからめっちゃ連絡来てる。なんかめんどそう……こっちは後でいいや。

 凛々夏にビリュウさんの件でメッセージを送り、かばんに突っ込む。



 だが、次の日も……その次の日も、ビリュウさんは学校に現れることはなかった。

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