第46話 力こそパワー
「コロロロロロロロッ……!」
明らかに警戒の色を示しているバハムート。空中から俺を睨み、降りてこようとしない。そりゃそうか。誰だって、あんなことされたら近付こうなんて思わないだろう。
ビリュウさんも本当に驚いているのか、唖然とした顔で俺を見つめる。
「バハムートに力で勝てるなんて……あなた本当に人間?」
「……多分?」
さすがに今のは俺も驚いた。ドラゴンとパワー勝負で勝てるなんて思わなかったわ。
けど……そのせいで、近付いて来なくなったな。どうしよう。
「こら、卑怯だぞ。降りてきなさい」
「グルルルルルッ」
……まあ、そう素直に降りてこないよな。ってことは、遠距離での戦いになるってことだけど……遠距離系の攻撃って、アレしかないんだよなぁ。衆人環視の中でアレをやるの、嫌すぎる。できれば使いたくない。
ビリュウさんはバハムートを見上げ、そっと嘆息する。
「同じ魔法少女相手に、これを使うのは憚られるけど……そうも言っていられないみたいね」
片手を挙げたその時。ビリュウさんの体から青いオーラが溢れ、上空にいるバハムートにオーラが吸収される。
バハムートは翼や四肢を広げ、口を大きく開ける。開いた口の奥が仄暗い青色に光り出し、周囲の大気が震動し始めた。
2人からのプレッシャーが跳ね上がる。圧と存在感で、2人に引きずり込まれるようだ。実際にスカートがたなびき、2人の方に持っていかれそうになる。
多分、あの海で見せたあれをやろうとしているんだろう。海坊主を仕留めた、必殺の一撃だ。
キキョウさんも察したのか、慌てた様子でマイクを手に取った。
「こらー! びりゅー、まほーしょーじょ相手にそれを使っちゃダメでしょう! ……あれ、聞いてる? おーい、びりゅーちゃん、無視しないで?」
明らかに聞こえているだろうに、ビリュウさんはキキョウさんの言葉を無視している。キキョウさんを崇拝しているはずなのに、そうするってことは……。
「この一撃に賭けているんですね」
「ええ。私だって、今すぐキョウ様の命令を聞いて、従順にしたいわ。けど……それ以上に、譲れないものっていうのがあるのよ」
……覚悟を決めてるんだな、ビリュウさん。なら俺も、相応の覚悟を持ってそれに応えよう。
やり方は覚えている。というか、アレを思い出すと嫌でも詠唱とポーズが脳裏に浮かぶ。
胸の前で拳を握り、目を閉じる。
「ラブリーミラクル」
横目ピース、ウインク、ステップ。
あの時の感覚と、脳裏に浮かぶイメージと共にポーズを取る。
──トクン
熱い。体が熱い。
これだ、この感覚だ。
「メテオスター・ホーリーパワー」
──トクン……ドクン……ドクンッ……ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ!!
鼓動が早まる。強く、熱く、ビートを奏でる。
ボッ──!! ピンク色のオーラが噴き出し、渦を巻いて右腕に集中。金属を切る金切り音と共に、莫大なエネルギーが凝縮していく。
「ッ!? バハムート!!」
「────ッッッ!!!!」
俺の変化を感じ取ったのか、バハムートの周囲が、陽炎のように揺らぐ。
圧縮されたエネルギーが口内をより強く輝かせ、小さな恒星となって周囲を照らした。
はは……ありがたい。俺のこの訳分からん力が、元日本最強……そして龍神としてのプライドに、火を付けたらしい。
地面にヒビが入り、抉れた地面が宙に浮かぶ。
エネルギー、気力、精神力、緊張感が高まり、空間を満たす。
……ダメだ、足りない。このまま放てば、僅かにバハムートが勝つ。エネルギー総量や練度が違いすぎる。
なら、どうするか。
(近付くッ──!)
地面を蹴り、バハムートに向けて跳躍。30メートル以上あった距離を、一気に5メートル近くまで詰めた。今だ!!
「クイーン・オブ・ハート──ストライクッ!!」
「ワーテゥル・アングリフッ!!」
突き出した拳から放たれる、輝かしいピンク色の閃光。
同時にバハムートが放つ、青白い高圧縮のレーザー。
2つが空中で激突し、大気を揺るがす轟音が響き渡る。
拮抗するパワーとパワー。だがそれも一瞬で……数秒もしないうちに、超高エネルギーが爆散した。
「キャーーーーーッ!?」
「うぉっ!?」
「な、なんて戦い……!」
「爆発で何も見えないわ!」
「圧倒的すぎる……!」
「うぅっ、ビリュウ様がんばって……!」
「うおー! ツグミン、ツグミン! L・O・V・E・ツ・グ・ミン!! がんばれがんばれツ・グ・ミン!!」
熱い、熱い、熱い。熱すぎて呼吸ができない。肌が全部焼かれる。
くそっ……やば……い、意識が……飛ぶ……。
………………。
…………。
……。
そんなの、関係ないよなァ!!
思い切り腕を振るい、爆風、爆炎、爆熱を吹き飛ばす。開けた視界の先に、驚愕に口を開けているバハムートがいた。
まだ、微かに謎エネルギーが手元に残ってる。だけど、それを使ってバハムートを倒せる威力まではない。
なら、使い方を変える!
バハムートではない。反対側に向けて、謎エネルギーを発射。それを推進力に、一気にバハムートへ肉薄する。
硬めろ、拳を。捻り出せ、根性を。振り絞れ、力を──!!
「おおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
「ッ!?!?」
気合い一閃。推進力をそのままパワーに変換し……バハムートの横っ面を、思い切りぶん殴った。
「だあああああああああああああああッ、りゃああああああああああああ!!!!」
「────!!!!!」
めり込んだ拳を、勢いを殺さず思い切り振り抜く!
メキィッ──!! めり込んだ拳が、何かを折った感触があった。
吹き飛ぶバハムートの巨躯と、口から吐き出される青い鮮血と巨大な牙。
あぁ……ドラゴンの牙を折ったのか。はは、やるじゃん、俺。
……あ、やば……今度こそマジで……意識、跳ぶ……。
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