第43話 勝たなければならない

   ◆◆◆



 ついに、この日が来た。……いや、来てしまった。約束の土曜日が。

 俺は今、魔法少女の村に仮設で作られたテントの中にいる。待機所兼控え室で、外からは野次馬たちの楽しそうな声が聞こえてくる。

 やっぱりあのメールで、見学者が増えたらしい。余計なお世話すぎる。個人的な決闘なんだから、静かにやらせてくれよ……。



「ああぁ〜、緊張する……!」



 無駄に広いテントの中、1人であっちこっちに歩き回る。

 今か今かと待っていると、テントが揺れてリリーカさんが顔を覗かせた。



「ツグミ、大丈夫か?」

「今朝食ったもの吐きそうっす」

「大丈夫そうだな」



 どこが? ねえ、どこを見てそう思ったの??

 だけどまあ、リリーカさんが来てくれたおかげで、少し心に余裕ができた。マジで少しだけど。ミリくらい。



「そんなに緊張するな。ツグミはツグミらしく、自由に戦えばいい」

「俺らしくってなんですか」

「決まっている。拳とパワーだ」



 そんな、人を脳筋みたいにいわないでください。……間違ってないですけど。



「まあ、やれるだけやりますよ。本性を見せたくはないんで」

「うむ、その意気だ。……と言いたいところだが、少々まずいことになってな。恐らくビリュウさんは、殺す気で君に勝ちに来るぞ」



 ……え、殺す気? はは、そんな馬鹿な。

 物騒な言葉に引き気味で笑うが、リリーカさんは真剣な顔で腕を組む。



「さっき、ビリュウさんのテントにも顔を出してきた。そこで聞いたことなんだが……」



 リリーカさんは言葉を選んでゆっくりと説明する。事情を知らない俺にも、わかりやすく伝えるように。

 まさかの事情に唖然とする。言葉が出ない。そんなことがまかり通っていいのか?



「それ、ビリュウさんは……」

「納得はしていないようだが、覚悟は決めているようだ」



 だろうな。そんなこと、生半可な気持ちで決められることじゃない。

 今彼女は、どんな気持ちで待っているんだ……?



「……ま、だからと言って勝ちを譲るような真似はしないけどな」

「正体を隠し通したいからか?」

「それもあるけど、それだけじゃないです」



 その時。外からキキョウさんのアナウンスと、野次馬たちの歓声が聞こえてきた。そろそろ時間らしいな。

 リリーカさんの脇を通り、外に出る。

 まだ少し緊張はしてるけど……大丈夫、大丈夫だ。

 少し深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせながら決闘場へ向かう。

 決闘場には100人近い魔法少女たちがいて、俺の姿を見るや否や黄色い歓声を上げた。中にはミケにゃんや、ゆ〜ゆ〜さんもいる。



「キャーーーーーーーッッッ!!♡♡♡♡ 生ツグミンかわええええええええええーーーーッッッ!!!!♡♡♡♡♡♡」

「くうぅっ……くそっ、くそっ……! ツグミかわっ……いやわたくしの方がかわいいのにっ。くそっ、くそっ……♡」



 あは、あはは……気まず。

 とりあえずみんなに笑顔で手を振って応える。当然、会場は大盛り上がりだ。決闘というかイベントだな、これ。

 ビリュウさんは先に会場入りしていて、腕を組んで俺を待ち構えている。圧倒的強者の風格。惚れ惚れしちゃうね。



「ビリュウさん、お待たせしました」

「いえ、大丈夫よ。遅かろうが早かろうが、私が勝つことには変わりないから」



 ビリュウさんからのプレッシャーが跳ね上がる。

 獲物を狙う捕食者……確実に仕留めるという強い意志を感じる圧だ。



「それは、ご家庭の関係で?」

「……リリーカから聞いたのね。まったく、お喋りなんだから」



 否定はしない、か。それもそうか。あんな条件を家から提示されたら。

 俺たちの中央に、キキョウさんが仁王立ちでマイクを構える。

 交互に、ノリノリで俺たちのことを紹介すると、会場の熱が上がって行った。

 キキョウさん紹介を流しながら、さっにのリリーカさんの言葉を思い出す。



『そこで聞いたことなんだが……彼女は今回の決闘で負けたら、魔法少女を引退してお見合い結婚をさせられるらしい。一刻でも早く、次世代の最強を作る、、為に』

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