第41話 条件

「こんにちは、ツグミ。ご機嫌いかが?」

「は、はは……こ、こんにちは、ビリュウさん。は、はい。もうバッチリですよ」



 余裕の表情のビリュウさんを前に、少し怖気づいてしまう。

 き、聞かれてないよな、さっきの失敗作がどうのって話。リリーカさんだって、いなかったからあの話を振ったんだろうし。



「い、いついらしたんですか?」

「ついさっきよ。私と戦うとか、なんとかって言っていたところから」



 ほ……よかった。やっぱり聞かれてなかった。

 ……って、いやいやいや、そうじゃないよ。なんでこの部屋にいるんだよ、この人。どっから入って来たんだ。

 俺の疑問が解決しないまま、ビリュウさんはいつの間にか手にしていた紅茶をすする。良家のお嬢さんだからだろうか。こういった何気ない仕草が、すごく様になっているな。



「さっきも言ったけど、私、あなたのことが気になっていたの。戦えるなら、それに越したことはないわ」

「ま、待ってください。気になるならお話すればいいじゃないですか。どうして戦いなんか……!」

「……勘違いしているようだけど、別に私は、あなたの内面が気になるわけではないわ。何が好きで、何を食べていて、どんな過去があって……そういうの、微塵も興味がないの」



 ……なんだって? じゃあ、気になるっていうのは……?

 ビリュウさんはカップをソーサーに置いてそっと嘆息し、俺を見下ろしてきた。



「私が気になっているのは、あなたの力。魔法少女としてのあなたの能力のことよ」

「……私の力?」

「ええ」



 はて。なんでそんなものが気になっているんだろうか?

 正直なことを言うと、俺の能力は俺が一番理解していない。願ったのは、自分が想像する理想的な美少女だったから、能力とかそういうのはまったくと言っていいほどノータッチなんだ。

 わかるのは、めっちゃくちゃ頑丈ってことと、パワーだけは誰にも負けないということ。キキョウさんっていうチート能力以外には、今のところ負けていない。

 後は、アシュラ・エンペラーの時に放った謎の高出力エネルギー。モモチもわからないとか言っていたし、いったいなんなんだ、あれは……?

 俺が一人、内心でいろいろと考えていると、ビリュウさんが立ち上がり、俺の両頬を手で包んで上に持ち上げた。

 相変わらずのクールビューティーな美貌を近くで見て、喉の奥が絞まる。系統としてはゆ~ゆ~さんみたいな美人だけど、纏っているオーラが違いすぎて、思わず萎縮してしまう。



「キョウ様が、ずっとずっとあなたのことを話しているの……どうしてあの方が、あなたのことを話しているのか。傾倒しているのか……気になって仕方ないわ」



 鼻と鼻が触れそうなほど至近距離まで顔を近付け、ビリュウさんはより眼光を鋭くさせる。

 普段ならこんな美人と見つめあえてラッキーとか思うんだけど、今はまったく思えない。むしろ逃げたい。誰か助けて。おいコラリリーカさん。なに我関せずみたいに紅茶飲んでんだよ。



「日取りは、リリーカ経由で連絡させてもらうわ。逃げられると思わないことね」



 言いたいことを言って満足したのか、ビリュウさんは部屋を出ていこうとする。

 けど、ここまでいろいろ嗅ぎ回られて、いきなり戦う約束をさせられて……ちょっと、いやだいぶ……むかっ腹が立って仕方ない。



「待ってください、ビリュウさん」

「……どうかした?」



 玄関で振り返ったビリュウさんが、こちらを振り返る。

 ただならぬ圧に萎縮しそうになるが……怯むな、俺。



「その戦い……もし私が勝ったら、もう付きまとうのやめてください」



 立ち上がり、彼女の目を見つめて条件を提示する。

 こちとら、いきなり転校してきたと思ったら、いきなり戦うハメになったんだ。これくらいの条件がないとな。

 ビリュウさんは一瞬考えるようなそぶりを見せると、無表情でこくりと頷いた。



「ええ、わかったわ。でもそれじゃあフェアじゃないから、私が勝った時の条件も提示してもいいかしら」

「……どうぞ」



 まあ、そうなるよな。それくらいなら――



「では私が勝ったら、変身を解いて素のあなたを私に見せなさい」



 ――と、思っていた俺を今すぐぶん殴りたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る