第40話 失敗作

 ビリュウさんにバレないうちに家に帰ってきた俺とリリーカさんは、魔法少女の姿のままリリーカさんの部屋に集まっていた。

 お茶を飲んで一息つくと、とりあえず俺から話しを切り出す。



「にしても、驚きました。まさかビリュウさんが、龍……ドラゴンを召喚するなんて」

「基本、表には出てこない人だからな。知らないのも無理はない」



 確かに、あんなにすごい能力なら、噂くらい聞いてもいいと思う。

 けど、それをまったく聞かないってことは、相当うまく隠していたのか、一瞬で魔物を倒すから認識すらされなかったのか……どちらにせよ、あれは元日本最強と言われても納得の強さだった。



「でもこう考えると、魔法少女って結構自由なんですね。契約時に願えば、ドラゴンまで召喚できるだなんて」

「そうだな。そこに至るまでに、幼い頃からの修行と英才教育がかなり厳しいらしい。加えてドラゴンを召喚できたとしても、それを完璧に使役できるのかどうかは別問題で、本人の素養に関わるらしいな」

「ビリュウさんは、使役できているんですか?」



 まあ、あれを見せられたら、恐らく完璧なんだろうけど。

 と、思っている俺をよそに、リリーカさんは渋い顔をした。



「……今から話すこと、誰にも言うな。もちろん、ビリュウさん本人にもだ」

「は、はい……?」



 な、なんだろう。そんなに真剣に……?

 俺も思わず身を正して、真正面からリリーカさんを見つめる。彼女は一回お茶で唇を濡らすと、ため息混じりの息を吐いた。



「以前、龍安家に招待されたことがあり、行ったことがあるのだが……そこにいた女中たちが言っていた」



 待って。サラッと言ってるけど、ビリュウさんの家って女中さんがいるの? もしや想像以上にお金持ち?

 と、いろいろな考えが脳裏に浮かんだが……。



「――彼女は失敗作だ、と」



 リリーカさんの言葉に、全て吹き飛んだ。



「……え……?」



 失敗、作……? あのビリュウさんが……?

 ……いや、今日の戦いを思い返してみても、そうは思えない。

 確かにビリュウさんの力と言うより、ドラゴン単体の力しか見てないけど、それを使役しているってだけですごいことだ。

 いったい、何を見て失敗作だなんて……。



「リリーカさん、理由って……?」

「そこまでは聞いていない。私も耳を疑ったが、とても聞ける感じではなかったからな」



 そりゃそうだ。いきなり家の人には聞けないし、こんなセンシティブな問題、本人になんかもっと聞けない。

 龍神を使役できているのに、失敗作だなんて……龍安家の歴代の魔法少女たちは、いったいどうやって戦っていたんだ……?



「でも、そう考えると、ビリュウさんってすごいですよね」

「なぜだ?」

「だってそうでしょう。まだ龍神の力を完璧に使いこなせていないのに、一時は日本最強の座に君臨していたんですよ? どんだけずば抜けた才能なんですか」



 ま、まあ? 俺だってまだ力を完璧に使いこなせているわけじゃないし? もしちゃんと使えたら、ぱぱーっと日本一に! ……いや無理だな。キキョウさんの無敵モードを破れる気がしない。ありゃチートだ。

 つーか、別に日本最強とか興味はない。ツグミモードの俺が可愛ければなんでもいいんだ。ツグミしか勝たん。

 お茶をすすってほっと一息つく。と……リリーカさんが、目を丸くして俺を見つめていた。



「な、なんですか?」

「いや……確かに、その通りだと思ってな。私もビリュウさんと手合わせしたことがあるが、本当に強かった。戦って勝てないと思った魔法少女は、あの人が初めてだったよ」



 戦った当時のことを思い出しているのか、リリーカさんは懐かしむように遠くを見つめる。

 リリーカさんも強い。そんな彼女が勝てないと思うって……やっぱりビリュウさんが失敗作だなんて、どうしても思えない。



「ツグミ、もしビリュウさんのことが気になるなら、一度戦ってみるか? お膳立てくらいならしてやるぞ」

「いや、無理ですって。リリーカさんが勝てないんでしょう?」



 それに、魔物との戦闘は慣れてきたとは言え、あの強さの敵と戦ったことがない。下手すると、手合わせしてる最中に殺されるぞ、マジで。



「ふむ、ツグミなら大丈夫だろう」

「どうしてそう言い切れるんですか」



 そういうの、根拠もない自信って言うんですよ。本当に死んじゃったらどうするつもりで……。



「私が勝てないと思ったのは、君で三人目だからだ」

「っ……」



 ……ずるいだろう、その言い方。



「と、とにかく、やりませんよ。確かにビリュウさんのことは気になりますけど、拳で語り合うだなんて少年漫画じゃあるまいし」

「そうか? 本人は、やる気満々みたいだが」

「え?」



 本人? ……まさか。

 ゆっくり、錆びついたロボットのように、本当にゆっくり振り返る、と……。



「丁度よかったわ。私も、あなたのことが気になっていたのよ……ツグミ」



 いつの間にかビリュウさんが、俺の背後で脚を組んで座っていた。

 いや本当、いつ入って来たんだよ!?

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