第39話 ビリュウの能力

 ツグミに変身し、リリーカさんと共にビリュウさんを追いかける。

 てか、なんでビリュウさん普通に飛んでんの? リリーカさんは光の翼があるからわかるけどさ。

 かく言う俺は、地上を走って追い掛けている。誰も彼も飛べると思うなよ。

 上空を飛んでいたリリーカさんが高度を落とし、並んで飛ぶ。



「ツグミ、大丈夫か?」

「はい。俺に構わず先に行ってください。俺は陰から見ていますから」

「わかった。ビリュウさんには見つからないようにな」



 再び高度を上げ、ビリュウさんを追いかけるリリーカさん。

 そのまま進むことしばし。超スピードで、あっという間に三浦海岸までやってきた。

 ビリュウさんはそのまま沖に向かって飛んでいき、リリーカさんは浜辺に降り立った。

 タッチの差で俺も追いつき、リリーカさんの隣に立つ。

 海岸には誰もいない。みんな、魔物が現れて逃げたみたいだ。



「リリーカさん、魔物は?」

「あそこだ」



 リリーカさんが指さした先を見ると……海面から、巨大な何かが突き出ていた。

 形としては、円柱に近い。頭らしき部分は見事な球体で、例えるならポケ〇ンのディ〇ダみたいな形をしている。

 色は黒く、白く丸い目が2つあるが、口がない。

 パッと見はマスコットみたいで可愛いが……如何せんデカすぎる。海面に出ているだけで、数十メートルもありそうだ。



「奴の名前はシーマン。通称、海坊主とも呼ばれる海の魔物だ」

「強いんですか?」

「強い。海水を吸い上げ、360度から放つ水の光線は、生半可な防御を貫く。油断すると、私でも危ない」



 マジか。リリーカさんも相当強いのに。



「ビリュウさんは、大丈夫ですかね?」

「心配ないだろう。地上でのビリュウさんも強いが……海での彼女は、もっと強いからな」



 リリーカさんはまったく心配していないというように、飛んでいるビリュウさんを見る。

 これから、日本で2番目に強い人の戦いが見れるのか。ちょっと緊張してきた。

 唾を飲み込み、ビリュウさんを見上げる。

 と、その時。ビリュウさんに気付いた海坊主が、急激に体を戦慄かせ……水の塊を超高速で放った。


 ──ドッッッッパァァァアアアンッ!!



「直撃しましたが!?」

「落ち着け。アレを見ればわかるだろう」

「え?」



 爆ぜた水飛沫の中に、影が見える。

 球体? いや、違う。もっとごつごつしている。岩? それとも鉱石?

 すると……ドクンッ。影が一瞬脈動し、腹の底から響くような唸り声のようなものが聞こえてきた。

 音の出処は、あの球体。

 ドクンッ……ドクンッ……ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ!

 脈動するリズムが早く、そして激しくなり、刻一刻と形を変えていくと……。



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ──!!!!」



 咆哮と共に水飛沫を消し去り、姿を表した。

 すべての物質を斬り裂くと思えるほど、鋭利で巨大な爪。

 太陽光を反射し、白く輝く硬質な牙。

 巨大な体を浮かばせる、より巨大な翼。

 全身は黒曜石を思わせる漆黒の鱗で覆われ、丸太のように太い尻尾はしなりながら無尽に動く。

 畏怖の象徴とも感じられる紅い瞳がぎょろりと動き、縦長の瞳孔が獲物を探して細められる。

 この形。この圧。この異様……間違いない。



「どっ……ドラゴン……!?」



 突如現れたドラゴンが、ビリュウさんを守るようにして宙に浮いている。

 初めて見るドラゴンに圧倒されていると、リリーカさんが説明を始めた。



「ビリュウさんの能力は、龍神召喚。龍安家は代々魔法少女の家系で、あのドラゴンは代々龍安家が使役している龍神なんだ」

「龍神……」



 そう言えば、噂に聞いたことがある。龍神に愛されていたり、護られている人は、雨男・雨女になるという。

 なるほど、だからビリュウさんは雨女だったのか。

 再び見上げると、ビリュウさんが手の平を海坊主へと向け……。



「蹴散らしなさい」

「────ッッッ!!!!」



 龍神の口が大きく開くと、海水が渦を巻いて口の前に集まってくる。

 海坊主が龍神に向けて無数の海水を放つも、それすら吸収してしまう。

 小さな国なら滅ぼしてしまう程に巨大になった水の塊は、渦を巻いて凝縮していき……龍神の口内に収まるほどとなる。

 そして、次の瞬間──



「ワーテゥル・アングリフ」



 ──超圧縮された水が、レーザーのように放たれた。

 レーザーは海坊主を貫通すると、体の大半を奪う程の大穴を開ける。

 しかし威力は衰えず、海に着水した直後、超轟音と超爆風を伴って海の水を爆散させた。

 海に空いた、巨大な穴。そこに向かい海水がなだれ込むと、渦を巻いて大津波が発生する。

 大津波は意思を持っているかのように海坊主を飲み込み、大海に引きずり込んで行った。



「周囲への被害、近海の船への被害はゼロ。いつ見ても圧巻だな。さすがはビリュウさんだ」



 リリーカさんが手放しでビリュウさんを褒める。

 これが元日本支部支部長の力……余りにも、圧倒的すぎるだろ……。

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