第38話 名推理
◆◆◆
なんとか部屋の掃除を終えると、タイミング良くチャイムが鳴った。
もう見られて困るものは何もない……よな? 大丈夫のはずだ。
急いで玄関に向かい、ドアスコープから外を見ると、凛々夏と龍安さんが待っていた。
「急に申し訳ないわね、神楽井くん」
「継武さん、こんにちは」
「い、いらっしゃい、2人とも」
とりあえず2人を部屋に上げる。
き……緊張がやばい。今まで部屋に来たことがある女の子って、リリーカさんだけだ。しかも遊びに来た訳じゃなく、力のコントロールを教えに来てくれているだけ。
魔法少女ではない、普通の女の子(しかも美少女)が2人も部屋に来るなんて……!
客用座布団に2人を座らせ、お茶を入れる。と言っても、ペットボトルの麦茶だけど。
「まあ、何もない所だけど、寛いでくれ」
「ありがとう。そうだ、これ手土産よ。お茶請けにと思って」
「あらま、ご丁寧にどう……もっ!?」
こっ、これ、俺でも知ってる高級和菓子店のどら焼きじゃねーか……!?
さ、さすが魔法少女協会日本支部の元支部長……いいチョイスじゃないか。
貰ったどら焼きをつまみつつ、お茶を飲むと、龍安さんが「ところで」と凛々夏を見た。
「なぜ、凛々夏もここにいるの?」
「ゎ、私も彼と隣人ですので……ちょっとは親しい仲ですし、美月さんとのお話を円滑にできるかな、と……」
目を泳がせて、もじもじと答える凛々夏。
申し出はありがたいけど、リリーカではなく凛々夏だから、望み薄ではある。
だが、龍安さんは凛々夏の言葉を別の意味で受け取ったらしく、ギョッとした顔をした。
「し、親しい仲って……え、神楽井くんと凛々夏、そういう関係ないなの……!?」
「ふぇっ!? ちちちちちちがっ! り、りんじっ、隣人として……! お隣さんとして、です……!!」
凛々夏が顔を真っ赤にして否定する。
確かにその通りだけど、そこまで全力で否定されると悲しいものがある。
「そ、そう。なんだ、あなたはそっちの道に進むのかと思ったわ」
「いえ……私は、最後まで私でいますよ」
……なんだ? なんの話だ?
2人の会話に首を傾げていると、龍安さんが肩を竦めた。
「ごめんなさいね、神楽井くん。こちらの話しよ」
「は、はぁ、そう……?」
ということは、魔法少女関連の話か。
俺にはまだ知らない、未知の条件みたいのがあるんだな……今度、それとなくリリーカさんに聞いてみよう。
龍安さんはお茶を飲むと、一息ついてから口を開いた。
「神楽井くん。一つ聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
「なんだ? 因みに彼女はいないぞ」
「興味ないわ」
さいですか。
まあ、ここに来て聞きたいことって言うと、アレしかないよな。
「私が知りたいのは──ツグミについてよ」
ほら、やっぱり。
俺はキョトンとした顔をして、如何にも初耳ですといったリアクションを見せる。
「ツグミ? それって、最近話題の魔法少女の?」
「そうよ。今私は、その子を追っているの。今の学校にいることは突き止めたのだけど、居場所はわからなくてね。名前がツグミという発音に近い子とか、頻繁に学校を休み子とか、心当たりないかしら?」
いやホントいきなり話して来やがったな。それ想定部外者の俺に話しちゃダメな内容だろう。
「さ、さあ、俺には心当たりは……本当にうちの学校にいるのか?」
「それは間違いないわ」
どこからそんな情報を仕入れて……?
……あ、そうか。凛々夏は元々、俺に魔法少女のいろはや、力のコントロールの仕方を教えに来てるんだ。龍安さんがそのことを知らないはずがない。
とにかく誤魔化さなくては。徹底的に知らないフリを続けるしかない。
「さっきも言ったが、俺に心当たりはない。どうして俺に聞くんだ?」
「あなたの名前が、継武だからよ。継武とツグミ。似ているでしょう?」
……しまった、そういうことか。だから俺に接触してきたのか。
「名前の雰囲気からして、ツグミは君の親しい人……親族か彼女だと思ったの。でもさっき、彼女はいないと言った。なら姉妹か、幼なじみか……何にせよ、あなたの身近な人だと思うの。どうかしら?」
どうかしらじゃないよ。はいそうですとは言えないよ。大正解だよ。というか俺だよ。
「いや、どうでしょ。俺には妹はいますけど、小学六年生で12歳だし……」
「ふむ……なら、該当はしないわね。なら、本当に無関係……?」
腕を組み、ブツブツと独り言を呟く龍安さん。
彼女を横目に、凛々夏に近付いて小声で話しかけた。
「おい凛々夏、これ本格的にまずいぞっ。いつかばれるって……!」
「だだだ、大丈夫ですよっ。……多分、恐らく、メイビー……」
全然大丈夫そうに見えないけど!? むしろ不安が勝つんだけど!?
「何をこそこそ話しているの?」
「ッ! い、いや、なんでもない。なんで龍安さんが、そこまでツグミに固執してるのかなって……な、凛々夏?」
凛々夏に話を振ると、こくこくこくと何度も頷いた。
「残念ながら、それは話せないわ。ごめんなさいね」
ま、そりゃそうだ。それを話したら、魔法少女についても話さなきゃならないからな。それに理由は、昼間にキキョウさんが関係していることは聞いている。
龍安さんはお茶を飲み干すと、立ち上がってスカートの裾を叩いた。
「私はこれでお暇するわ。また明日、学校で。神楽井くん、凛々夏」
「あ、ああ。またな」
「さ、さようなら、美月さん」
玄関を出て扉が完全に閉まったのを見届け、二人揃って深く息を吐く。あぁ、しんど……。
「なんでこんなことに……」
「ま、まあまあ。正体を隠せるよう、私も協力しますからっ。ね?」
こっちはそれが心配なんだよ。……ん?
『緊急――神奈川県三浦半島沖に魔物の出現を感知』
「魔物か……沖ってことは、ハード・テンタクルスか?」
「そうとは限りませんが……あ」
凛々夏が窓の外を見ると、龍安さんがビリュウの姿で空を飛んでいるのが見えた。
さすが、動き出しが早いな。
「丁度いいですね。ビリュウさんの戦いを見学に行きましょう」
「え、いいのか?」
「前日本最強の力を肌で感じるのも、いい勉強になりますよ」
凛々夏がすぐ様リリーカの姿になり、窓から飛び出す。
俺は正直、ツグミの姿で鉢合わせたくないから、行きたくないんだが……仕方ない、行くか。
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