第2章 魔法少女の闇

第35話 二人目の転校生

 魔物の大襲来から、早一週間。既に世間は、日常を取り戻していた。

 魔法少女や魔物が現れてから、日常が破壊されることもたまにあるが、復興するスピードも上がっているのはいいことだよな。昨日も地元の様子を見に行ったら、もう破壊された後はどこにも残っていなかったし。

 俺にも、誰かを守ったり、何かを治したりする力があればなぁ……。

 いや、その前に、アシュラ・エンペラーを倒した時に出た、あの謎の力を解明しないと。

 一難去ってまた一難。考えることが多すぎる。

 そっと嘆息して、学校に向かう準備をする。

 と、その時。急にアパートの外が騒がしくなった。なんだ?

 学校に行く準備を終えて、外に出る。

 階下の道路にはトラックが止まっていて、同じ服を着た数人があちこち動き回っていた。もしかして、引っ越し業者か?

 業者は俺の隣の部屋にシートを敷いて、次々に物を運び込んでいる。え、まさか、俺の隣に来るの?

 前にも言ったが、魔物に破壊された建物や地域は縁起が悪いとして、そこに住んでいた人が引っ越して行ってしまう。因みに母さん曰く、実家周辺でも数十世帯が引っ越して行ってしまったらしい。

 メリットと言えば、魔法少女が直すときに新品同様にしてくれることと、家賃が相場の半分以下になることくらい。

 俺も、そのメリットは享受させてもらっている。

 逆に言えばそれ以外のメリットはないので、世間からは忌避されるから、引っ越してくる人は少ないんだけど……これだけ空いている部屋があるのに、なんでわざわざ俺の隣に来るんだよ。

 朝から若干げんなりしつつ、俺は学校へと向かっていった。



   ◆◆◆



 歩いて十分弱。いつも通り、代わり映えのない学校に到着。

 今日も今日とて、今流行りのものや、美味いラーメン屋の話し、魔法少女談義に花を咲かせている生徒たちを横目に、教室に向かう。



「おっすおっす。継武、おっはー」



 席に着くと、先に来ていたらしい優里が、俺の元にやって来た。



「おー、優里。おはよ。今日も相変わらず逆立ってんな」

「おう。親父もじいさんも禿げてるからな。今の内に遊んどかないと」



 そんな悲しい理由聞きたくなかった。

 今日もいつも通り、優里が魔法少女やツグミの話を持ち掛けてくる。ほんっと、飽きずに話せるよなぁ、こいつ。そろそろ飽きてもいいんじゃないか? 主にツグミに関しては。



「にしても、ほんっとツグミンって謎が多いよな」

「魔法少女なんて、誰でも似たようなもんだろ。私生活とかまったくわからないって言うし」

「そうだけど、ツグミンは群を抜いてるぜ? 他の魔法少女は、多かれ少なかれメディアやユーチューブに顔を出してたり、声を乗っけてる。質問にも答えてるから、それを繋ぎ合わせて人となりを分析している人もいるくらいだ」



 待って待って怖い怖い。そんなことしてる奴いるの? え、こわっ。

 俺、絶対ユーチューブにもメディアにも出ない。改めて誓ったわ。



「この非公式情報サイトだって、他の魔法少女は平均して五ページくらいあるのに、ツグミンは一ページだけ。いや、一ページの半分にも満たないんだ。こんなこと、今まで初めてらしいぞ」

「そ、そんなに詮索するなよ。魔法少女って言っても、向こうは女の子なんだぞ」



 嘘です。男の子です。



「そんな子の情報を探し回ったり、裏を取ったりだなんて、俺はどうかと思うね」

「でも気にならん? 世界一可愛い魔法少女の私生活」

「ならん」

「食い気味で否定するじゃん」



 だってそれ、俺だもの。俺の私生活を世間に知られるとか、嫌すぎて気が狂いそうになる。

 頭を抑えて首を横に振っていると、優里が不思議そうに首を傾げた。

 まあ、お前らは一生見つからない魔法少女・ツグミの幻影でも追ってるといいさ。絶対尻尾は掴ませないけどな。

 と、目の端に凛々夏が登校してきたのが見えた。

 今日もいつも通り、暗くて陰気な空気をまとっている。本当、リリーカさんの時とは大違いだ。

 優里も気付いたのか、凛々夏を見て「お」と声を上げた。



「真城さんだ。やっぱ可愛いよなぁ、あの子」

「え、お前、リアルに興味あったの?」

「あるわい! 俺をなんだと思ってんだ!」



 ヤンキー系魔法少女オタクだが?

 へぇ、優里が凛々夏をねぇ〜……なんか意外だ。優里のことだから、もっと元気な子が好みだと思ってたのに。

 凛々夏が自分の席の周りにいるクラスメイトに挨拶をする。

 凛々夏も、転校してから随分とクラスに馴染んでいる。まだおどおどしてるけど、そこが可愛いとクラスの女子たちに妹のように可愛がられていた。

 まあ、事実年下だもんな。みんなは知らないだろうけど。

 凛々夏の様子を見ていると、俺たちの方に近付いてきた。



「ぉ、おはようございます、継武くん。四ツ谷くんも……」

「おはよう、凛々夏」

「おっ、おはようっす、真城さん……!」



 優里が緊張した様子で挨拶をする。お前、意外と小心者なんだな。

 凛々夏は律儀に、他のクラスメイトにも挨拶をして回る。それが小動物っぽくて、クラスの雰囲気はほっこりしたものになった。



「いいなぁ、継武。あんな可愛い子が従姉妹だなんて、人生勝ち確じゃん」

「こんなんで勝てるようなら、人生はもっとイージーモードだって。ほれ、そろそろ狐蜜先生が来るぞ」

「へいへい」



 優里が席を立った瞬間、丁度チャイムが鳴り、立っていたクラスメイトたちも自分の席に座る。

 クラスに入ってきた狐蜜先生は、ぐるりと教室を見渡し、そっと息を吐いた。はて、いったいどうしたんだろうか?



「えー。突然ですが、ホームルームの前に転校生を紹介します」



 ……転校生?

 まさかの言葉に、クラスがザワつく。この間、凛々夏が来たばかりなのに……?

 狐蜜先生が教室の外に声を掛ける。



「失礼します」



 と、教室に入ってきたのは一人の女の子。

 染めているのか地毛なのかはわからない、薄い水色がかった銀髪のショートヘアに、同じく薄い水色の瞳。

 スラリとした手足と、スレンダーな体躯。そして、目を見張るほどの美人。

 はて、どこかで見た事あるようなないような。

 首を傾げて女の子を見ていると、チョークで黒板に名前を書いた。


龍安美月りゅうあんみつき


 龍安美月……りゅうあん、みつき……?



「龍安美月です。父の仕事の都合で、この時期に引っ越して来ました。よろしくお願いします」



 龍安さんは綺麗にお辞儀をすると、クラスから拍手が上がった。

 この感じ、どっかで感じたことがあるような……。

 と、その時。俺のスマホが震え、メッセージを受け取った。

 優里か……? と思ったが、画面に映ったのは意外にも凛々夏の名前だった。

 その内容は端的なものであったが……。



『凛々夏:ビリュウさんです』



 俺を驚かせるには、十分すぎるメッセージだった。

 …………えっ!?!?

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