第34話 遠くない未来
母さんにジト目を向けていると、向こうから鈴香がこっちに走って来るのが見えた。
でも緊張からか、近付くにつれて脚が重くなり、結局数メートル先で止まってしまった。もじもじと服を握り、俺をチラ見してくる。
どうしたんだろうか。俺に何か用かな?
首を傾げていると、母さんが俺の耳元で囁いてきた。
「そういえば鈴香、あんたの大ファンみたいよ」
「そうなの?」
意外だった。確か鈴香の推しは、リリーカさんだったはず。推し変ってやつか?
「ええ。夢、壊さないであげてね、ツグミちゃん」
「その名前で呼ばないでくれ……」
他の人に呼ばれるのはいいけど、身内に呼ばれると恥ずかしくて死にたくなる。
母さんから鈴香に目を向けて、近付いていく。
近付くにつれて鈴香は緊張が高まって、口をあわあわし始めた。
手を伸ばせば触れられる距離まで来て、地面に膝をつく。でも、俺からは触らない。万が一力の加減をミスったら、一生後悔しちゃうからな。
「初めまして、鈴香ちゃん。私はツグミ。よろしくね」
「!? は、は、はっ、はじっ、はじめま……!」
声を掛けると、一瞬で顔を真っ赤にして俯いた。我が妹ながら、可愛い反応をするなぁ。
「さっきも会ったよね。改めて、お母さんとお父さんを守っていた姿……かっこよかったよ」
「そ、そんな……! わ、わ、私、あれくらいしかできなくて……! つ、ツグミンみたいに、戦えないし……」
言葉尻がすぼまり、目に涙が溜まっていく。
鈴香は魔法少女じゃない。ただの少女なんだ。そんなに気にすることはないのに……責任感が強い子だな。
「それでも、鈴香ちゃんは鈴香ちゃんらしく、せいいっぱい戦った。自分のできることを、一生懸命頑張った。それは誇らしいことだし、何より尊いものだよ」
「……ほんと……? そう思う……?」
「もちろん。あなたは、誰よりも勇気がある。その気持ちと心を、忘れないでね」
俺の言葉に、鈴香は顔を真っ赤にして何度も頷く。
恥ずかしい感じではない。興奮と高揚感で、心が奮い立っている感じがした。
「それじゃあ、私はもう行くね。また会おう、鈴香ちゃん」
「ぁ……!」
鈴香が何かを言おうとしたけど、その前に超ジャンプを見せて、その場を離れる。
人気の無い場所に降り立ち、魔法少女モードを解除。服も、いつも通りの制服姿に戻った。
と、丁度そこに、リリーカさんが空から舞い降りて、俺の前に立った。
「継武くん、お疲れ様。よく頑張ったな」
「リリーカさん。はい、ありがとうございます」
リリーカさんとハイタッチをかわす。彼女も別の場所に現れた魔物を倒した後なのに、全然疲れているようには見えなかった。これが年季の差か。
その時。リリーカさんが、訝しげな顔をして、俺のつま先から頭の先まで値踏みするように見てきた。
「な、なんですか?」
「いや……なんか継武くん、力が充実してないか? 全身からパワーがみなぎっているみたいな……」
「いや……普通ですけど」
そんなことを言われても、特に変わったとは思はない。
まあ、強いて言うなら、肩こりが若干よくなったような気がする。それ以上でもそれ以下でもない。
「本当か? 私の勘違いか……?」
腕を組み、じっくりと顔を近付けてくる。ちょ、近い。近いっす。
一歩後退り、リリーカさんから離れる。男子高校生にこの至近距離は、精神衛生上よろしくないからやめてほしい。凛々夏のときはもう少し距離感を意識してくれてるのになぁ。
「お、俺、家族の所に行きます。さすがにあんなことがあったから、元の姿を見せて安心させてやりたいので」
「わかった。復興や、協会への事後報告は、私の方に任せてくれ」
「頼みます」
リリーカさんに手を振り、鈴香たちの元に向かっていく。
その間、リリーカさんが俺の背中に意味深な目を向けていることに、気付くことはなかった。
◆◆◆
『というわけで、魔物の大量発生についてだけど、あることがわかったよ』
魔法少女協会日本支部・本部。
そこに集まっていたのは、キキョウ、ビリュウ、リリーカを含めた七人の魔法少女たち。
円卓の中央には光る水晶玉があり、そこからモモチの声が聞こえていた。
テーブルに肘をつき、キキョウが苛立ったような声を発する。
「もったいぶらずに教えてよ、モモチ。理由によってはこっちも対策しないといけないしさ」
『オーケー。まずはこれを見て』
水晶の光りが増すと、二つの星が現れた。
一つは地球。しかしもう一つは、地球と似ているが見たことのない星だった。
『知っている通り、地球と僕が管理している異世界の間に歪みが生じ、魔物が歪みに迷い込んだ結果、こっちの世界に魔物がやって来る。これが、地球に魔物が現れる原理だよ』
「知っています。それで?」
ビリュウが急かすように続きを促す。
モモチは一瞬だけ間を置くと、ゆっくり話し始めた。
『……どうやら、その歪みが最近大きくなっているみたいなんだ』
「それって……まさか」
リリーカが眉をひそめて呟くと、モモチが『うん』と肯定した。
『歪みが大きくなった結果、全世界的に魔物の数が激増している。このままじゃ遠くない未来……地球と異世界の次元が一体化して、もっと多くの魔物がこっちの世界に来ちゃうかも』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます