第33話 母

『──あ、どうやら他の地域の魔物も、魔法少女たちが倒してくれたみたいだね。被害はここ以外、最小限だよ』



 他の状況も確認してたのか、モモチが各地の現状を教えてくれた。

 てか、ここが最大の被害かよ。くそっ、もっと早く来ていたら……!



『仕方ないよ。アシュラ・エンペラーは異世界でも国一つ滅ぼせるほど強いんだ。むしろ、これだけの被害で済んだことの方が奇跡だよ』

「……本当に?」

『うん。他の魔法少女だったら、きっとこうは行かなかった。君のおかげだよ、ツグミ』



 そう言ってくれると、救われる。

 でも町がこうなったのは、俺の責任だ。それは変えられない。

 瓦礫と化した町を見つめていると、遠くからリリーカさんが飛んで来た。



「ツグミ、大丈夫か……!?」

「リリーカさん……はい、魔物は倒しましたよ」



 まあ、かなり無茶なことはしちゃったけど。モモチの知らない力も使ったし、まだまだ俺自身のことを知らないと──。



「馬鹿っ」

「……ぇ……?」



 急に飛びついて、抱き締められた。

 いきなりすぎて訳がわからない。なんで俺、リリーカさんに抱き締められて……?



「そんな辛そうな顔して、大丈夫なわけないだろう……!」

「ぇ……ぁ……?」



 地面に倒れ、割れたカーブミラーを見る。

 そこには、顔面蒼白で今にもぶっ倒れそうな美少女(俺)が映っていた。

 なんて顔してんだ、俺は……そりゃあ、これだけリリーカさんにも心配掛けちまうって。



「我々は助け合って生きていかねばならないからな。抱え込むな、頼れ」

「……すみません……ありがとうございます、リリーカさん」



 本当、この人と出会って良かった。

 感極まってリリーカさんの体に腕を回し、抱き返して……。



「お前は抱き締めるな。私が死ぬ」

「あ、はい」



 そっすね、それはその通りです。

 でもこのヤキモキする手の行方はどうしたら……。

 無言で抱き締められていると、脳内にモモチの呆れた声が聞こえてきた。



『やれやれ……それじゃ、僕は行くよ。今回の魔物の多発的発生について、調査しなくちゃならないし』



 じゃあね、と言い残し、モモチの気配が消えた。

 それと同時に、遠くから無数の人の気配が向かってきた。

 瓦礫の向こうから、助かったみんなが近付いてくる。

 みんな俺を見ると、満面の笑みを浮かべていた。



「おーい! ツグミーン!!」

「ツグミン、助けてくれてありがとう!」

「すごかったよツグミン!」

「見ろっ、リリーカたんもいるぞ!」

「美少女の夢の共演コラボ!?」

「礼を言わせてくれ、ツグミさん!」

「助かったよ!」

「ありがとうね!」



 え、あ……こ、これは……?

 まさかこんなに感謝されるとは思わず、困惑する。

 みんなの笑顔にうろたえていると、一人の女性が不思議そうに首を傾げた。



「ツグミさん、どうしたの?」

「あ、いや、お……私のせいで、町がこんなになっちゃって……本当に、ごめんなさい」



 周囲からの視線から逃れるように。自分の罪悪感を少しでも和らげるように、頭を下げる。

 周りからも何も言われない……この無言が辛い。

 と、その時。一人の少女が、下から俺を見上げてきた。

 誰でもない……鈴香だった。



「なんでツグミンが謝ってるの? 町を壊したのって、魔物のせいでしょ?」



 鈴香の疑問に、母さんが笑顔で頷く。



「ええ、そうね。そして倒してくれたのも、ツグミちゃんよ」

「だよねー」



 ニカッと笑った鈴香が、そのまま抱き着いてきた。

 ……やば、泣きそう。すごく、救われる。

 溜まった涙がこぼれ落ちそうになっていると、遠くからいろんな魔法少女が飛んできてくれた。

 俺も知っている有名な人や、知らない人まで。ビリュウさんも含めて、十数人も来てくれた。



「ツグミさん、ご苦労様でした。あとの修復と被災者の救助は、我々が引き受けます」

「……はい。よろしくお願いします」



 ビリュウさんが、魔法少女たちに的確に指示を出す。

 復興・救助に特化した人たちなだけあり、魔法で瓦礫を浮かばせ、怪我をした人たちを助けて治療まで行う。

 驚きなのは、建物すら元通りに戻すことができる魔法少女がいることだ。

 確認したところ、奇跡的に死亡者は無し。重傷者、重体者は出たが、後遺症なく回復できる見通しらしい。

 邪魔にならない所にあぐらをかいて座り、その光景を眺める。



「……魔法少女って、本当に奇跡みたいな存在だな……」

「そうよね」

「え?」



 あ、母さん。やべっ、あぐら……!

 慌てて立ち上がって、スカートについた埃を払う。

 支給されたタオルケットをまとっている母さんは、俺に優しい笑みを見せた。



「改めて、本当にありがとう。旦那と娘を失わずに済んだわ」

「そ、それは良かったです、はは……」



 ……なんて話せばいいのかわからない。実の親だけど、今俺はツグミだからな……困った。



「ところで継武、、。先生から最近たるんでるって連絡来たわよ」

「げっ、マジ?」



 一人暮らしを許してもらう為に、魔法少女になってからもちゃんと宿題とかやってるはずなんだけどなぁ。

 …………。

 ………………。

 ……………………ん? 継武??

 慌てて母さんに目を向けると、やっぱりと言った笑顔を見せた。



「な、なんで……!?」

「わかるわよ。何年お母さんやって来てると思ってるの」

「うぐっ……」



 まさかバレるとは思わなかった。しかも相手が母さんだなんて……。

 恥ずかしさで顔を覆っていると、母さんは俺の頭を撫でた。



「なんで継武が魔法少女の才能を持ってるのか知らないけど……何があってもあなたは、お母さんたちの息子だからね」

「母さん……うん、ありがとう」



 やっぱり、母さんには敵わないな。

 母さんにバレたのは予想外だったけど、一人で秘密を抱えるよりよっぽど楽だ。母さんなら、誰よりも信用できる。



「そういえば、モモチが母さんも魔法少女だって言ってたけど、マジで?」

「……あんのお喋り餅、まだ覚えてたのね……」



 ワォ、母さんが暴言。なんか新鮮だ。

 母さんは恥ずかしそうに頬を染めて、俺を睨みつけてきた。



「そのこと、お父さんと鈴香には言わないでよ」

「わ、わかってるって。その代わり、俺のことも内緒で頼む」

「ええ、もちろん」



 母さんと指切りをして、約束を交わす。

 こんなこと、幼稚園の頃以来だ。別の意味で泣きそうになる。

 母さんと笑いあっていると、「ところで」と呟いた。



「魔法少女になったってことは、何かを願ったんでしょ? 継武は何を願ったの?」

「美少女」

「…………」



 息子にそんなゴミを見るような目を向けるな! 涙引っ込んだわ!?

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