第32話 必殺技

   ◆◆◆



「「「■■■■■■■■■■ッッッ!!!!」」」

「お?」



 急に雄叫びを上げたアシュラ・エンペラー。

 空気が振動し、地響きが引き起こされ、体を衝撃が叩く。

 こんな衝撃、今更俺には効かない。

 ただ……アシュラ・エンペラーの様相が、変わった。

 赤かった肌に黒みが増し、全身に血管が走る。

 白目が黒くなり、赤い瞳はドス黒い光を灯す。

 奴の変化に、モモチが慌てた声を出す。



『き、鬼神モードだ!』

「何それカッコイイ」

『バカ! そんな呑気なこと言ってる場合じゃない! あれによってレーザー攻撃は出来なくなったけど、理性がトんで強さはさっきの十倍にも膨れ上がったんだ!』



 そんな昭和の少年アニメみたいなレベルアップ、昨今見ませんが!?

 しっかし、身体能力が十倍……十倍か。



「勝負はここからだ……ってか?」

「「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!!」」」



 雄叫びとは似て非なる咆哮と共に、アシュラ・エンペラーの全身から赤いオーラが迸る。

 なりふり構わずぶっ殺してやる、っていう気概を感じるな。



「オーケー、わかった、俺も男だ。……拳でやってやるよ」



 動きづらいロングブーツを脱ぎ捨て素足になり、軽く屈伸をする。

 奴は六本の腕を大きく広げ、開手で構える。

 構えから防ごう、避けようという意思は感じられない。ただ攻撃にのみ特化した構えだ。

 いいね、そっちの方がわかりやすい。

 俺は自然体で腕を下げ、拳を握る。



「まあ──拳以外の攻撃方法、ないんだけどね!!」

「「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!!」」」



 地面を蹴り、接近。

 だがアシュラ・エンペラーのパワーアップは伊達じゃないようで、俺のスピードに合わせて拳を振り下ろしてきた。

 俺も振り下ろされた拳に向かい……タイミングを合わせて、パンチを繰り出すッ!



「覇ッ!!」



 ──ズゴッッッッッッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!


 拳と拳が衝突したとは思えない轟音が瓦礫と化した町に響き渡る。

 次の瞬間。アシュラ・エンペラーの腕が破裂し、紫色の鮮血を撒き散らした。



「「「ッ!?!?」」」

「パワー特化なら勝てると思ったか? 残念だったな、パワー勝負は俺の十八番だ!」



 地面に降り立ち、再度跳躍。

 腹部に向けて迫るが、腕をクロスさせてガードしてくる。

 さすがに防がないとまずいと思ったみたいだが……。



「フッ──!!」

「「「ガッ……!?」」」



 躊躇なく、クロスしていた両腕ごと体を殴り飛ばす。

 体長10メートルの巨体が浮き上がり、三つの口からヨダレを吐き出した。

 そのまま地面に倒れ伏し、アシュラ・エンペラーは痙攣し始めた。鬼神モードとか言うやつも切れ、普通の状態に戻っている。



「よし、仕留めるか」

『待ってツグミ』



 拳の関節を鳴らしてアシュラ・エンペラーに近付こうとすると、モモチに止められた。



「何?」

『これ、ものすごく言いにくいんだけど……君の戦い方、魔法少女とは思えない。エグすぎ』

「えぇ……そんなこと言われても」

『君の戦ってるところ、妹さんも見てるんだよ?』

「うぐっ」



 た、確かに……今、かなりグロい映像が流れてるかも。でも俺、これしか戦う方法ないんだけど。

 武器を作ることも、使うこともできない。魔法を放つこともできなければ、女の子みたいに華麗に戦うとかもできない。

 無骨に、真正面から、拳で倒す。それ以外俺にできることなんて……。

 すると、突然モモチがウキウキ声を上げた。



『だからね、僕にいい考えがあるんだっ』

「伺いましょう」



 ごにょごにょ、ひそひそ、うんたらかんたら。



「え……むっ、無理無理無理! 絶対無理!」



 そんなことできるかァ! 恥ずかしすぎるわ!!



『でもやらないと、画面の向こうのみんなにはヤベー奴認定されちゃうよ。もう遅いかもしれないけど』

「ぐ……!」



 く、くそぅ……俺に選択肢はないのか……!

 顔が真っ赤になっているのを自覚しつつ、モモチの言う通りにポーズを取る。

 胸の前で拳を握り、目をギュッと閉じて……。



『はい、復唱! ラブリーミラクル!』

「らっ、ラブリーミラクル!」



 横目ピース、ウインク、ステップ。

 流れるように、澱みなくポーズを変えて、モモチと一緒に詠唱を続ける。

 もう恥ずかしいとか関係ない。なるようになれだ。



『「メテオスター・ホーリーパワー!」』



 詠唱を続けるうちに、羞恥心が消えていく。

 その代わり……内側から、燃えるように熱い何かが湧き上がってきた。

 謎のエネルギーが心臓部から溢れ、全身に熱が行き渡り、ピンク色の光が迸る。

 光が渦を巻き、右手に凝縮。

 金属を切り刻む超高音が周囲に響き、暴風が吹き荒れ──



『「クイーン・オブ・ハート──ストライクッ!!」』



 ──放つ。

 放たれた拳はアシュラ・エンペラーの体を穿ち、勢いのままに超高速で上空に向かって吹き飛ばす。



「「「────ッッッ!!!!」」」



 アシュラ・エンペラーの体はピンク色の光に包まれ、渦を巻き……大気を揺るがす轟音と共に、爆発。ハート型の爆炎と衝撃波を見せ、粉々に吹き飛んだ。

 真顔でそれを見上げる俺。同じく無言のモモチ。

 ……えーっと……?



「……モモチ、今の何?」

『知らない。こわっ』



 お前がやらせたんだが!?

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