第28話 最強の秘密

   ◆◆◆



「──ッ!? うごっ……!?」



 あ、あったまいてぇ……なんだぁ……?



「気が付いたか、ツグミ」

「……リリーカさん?」



 周りを見渡すと、見慣れない部屋だった。

 木を丸ごとくり抜いたような部屋に、ガラスの戸棚にある薬瓶や包帯。並べられたベッドから見るに、恐らく魔法少女の村にある病院……いや、保健室みたいな場所なんだろう。

 頭を抑えて起き上がると、ちょうどキキョウさんとビリュウさんが部屋に入ってきた。



「おっ? もう起きたんだ。さすが、早いね!」

「あぁ、はい。なんとか……」



 この部屋には時計がないけど、そろそろ日没だ。



「お……私、どれくらい眠ってましたか?」

「3時間くらいよ。私の見立てでは、丸一日寝ていると思ったのに……さすがの耐久力ね。ゴ〇ブリみたい」



 ひでぇ誹謗中傷だ。俺が黒髪ロングで黒い衣装だからって、それはないんじゃないですかね、ビリュウさん。

 リリーカさんが座っていた席をキキョウさんに譲ると、「はい」っとお茶のペットボトルを投げ渡してきた。



「ごめんね、痛かったでしょ?」

「いや、痛みも感じる間もなく意識が飛んだんで、痛みは差程……」



 本当、何をされたのかわからない。はっきり言って、人生で一番の衝撃を受けた。頭が吹っ飛んだかと思ったわ。



「えっと……これ聞いてもいいかわからないんですけど、いいですか?」

「アタシの能力について、でしょ?」



 お見通しと言うように、口角を上げて笑うキキョウさん。

 押し黙っていると、腕を組んで何度も頷く。



「わかる、わかるよ。アタシの能力って意味わかんないもんね。攻撃の無力化と、意味不明な攻撃力。混乱するのもわかるよ」



 自覚はあるんだな、この人にも。



「いいよ、教えてあげても。別に隠してあるものでもないし」



 思わず身を正して、キキョウさんを見つめる。

 魔法少女の能力は、覚醒時の想いが色濃く反映される。

 料理好きで、弱い自分から強い自分になりたいと願ったリリーカさん。

 恐らく猫が大好きで、自身も猫になりたいと願ったミケにゃん。

 魔法に憧れて、魔法を使いたいと願ったであろうゆ〜ゆ〜さん。

 果たして、キキョウさんはどんな能力なのだろうか──






「アタシね、マ〇オが好きなの」






 …………??



「は????」



 マ〇オ? 何言ってんのこの子?



「あれ、知らない? あの配管工のゲームのやつ。お姫様を救う、世界的に有名なアレ」

「知ってるけどさ……その能力とマ〇オがなんの関係が?」



 俺だってゲームはやったことがある。が、あれにキキョウさんが望んだ能力があるなんて……ん?



「まさか……無敵状態!?」

「いっえーす! 今のアタシは無敵人間! 触れた攻撃を無力化し、アタシが触れた相手は問答無用で吹き飛ばすんだぜ!」



 横目ピースでウインク。

 軽く言ってるけど……それ、とんでもない能力なんじゃ……?

 無敵状態とか、勝てる方法がない。ありえないだろう、そんなのチートだ。



「ま、と言っても制限はあるけどね」

「制限?」

「無敵状態は、1日1分だけ。使っちゃったら、24時間は使用不可。反動として、魔法少女に変身していても耐久力は普通の人と同じになっちゃうんだよ」



 あ……そうか。そういえばリリーカさんも、強すぎる力には制限が付くって言ってたっけ。

 俺の場合、身体能力特化。化け物のようなパワーの代わりに、武器を使うことができない。まあ、武器なんて必要ないくらい圧倒的なんだけど。



「ま、無敵状態はオンとオフが可能で分割して使えるから、まだまだ使えるんだけどさ」

「因みにあの攻防で、あとどのくらい使えるんですか?」

「45秒くらいかな」



 マジか。俺、かなり全力で攻撃を仕掛けたつもりだったんだけど……まだ半分も残ってるのかよ。



「どう? 少しはやるもんでしょ、アタシも」

「あぁ、はい。やべぇっすね」



 でも、話を聞いてて思ったことがある。



「その能力、かなり危なくないですか? 戦ってる最中に能力が切れたりしたら……」

「あーだいじょーぶだいじょーぶ。その前に相手は死んでるから」



 あ、そっか。戦うのは魔法少女じゃない、魔物だ。魔物相手なら、手加減する必要がない。

 今回は手加減してくれてたみたいだし、もし本気で無敵能力を使ってたら、俺なんて最初の一撃で潰されてただろう。



「いやぁ……けど正直、ツグミの潜在能力には恐れ入ったよ。最初のタックル、ちょっと冷や汗かいたもん」

「その割には余裕そうでしたけど」

「だって、アタシの能力は無敵状態だよ? 相手の攻撃を無力化するの。そんなアタシが10センチも後ろに下がるなんて、普通じゃないって」



 ……そうなのかな。負けた後に言われても、励ましにしか聞こえないんだけど……。



「それに、リリーカの話によれば、魔法少女になったのも数日前なんでしょ? 力を制御しきれてないのにこれだけ強いってことは、もっともっと強くなるってことだからね」



 キキョウさんは椅子から立ち上がり、ビリュウさんを連れて扉に手をかける。

 彼女は少しだけこっちを振り返ると、また快活な笑みを見せた。



「ここは魔法少女にとって自由の楽園だからさ。ま、存分にやってみなさいな」



 そう言い残し、去っていく2人。

 なんか……でっけぇな、支部長。みんなにキョウ様って敬われるのもわかる。



「良かったな、ツグミ。支部長に気に入られたぞ」

「嬉しいやら、嬉しくないやら」



 俺が男だと知ったら、傷付くだろうなぁ……絶対に正体は明かさないようにしよう。

 リリーカが椅子に座り直し、ナイフで近くに置いていたリンゴを剥く。



「何にせよ、これでツグミも、晴れて魔法少女協会の一員だな。仕事の方も頑張れよ」

「仕事?」

「言っただろう。魔法少女モデルの仕事だ」



 …………………………わっすれてた……。

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