第27話 VS支部長

 ……どうしてこうなった。

 カフェ(本部)から出た俺たちは、場所を移動して魔法少女の村の中にある草原にやってきていた。

 この草原は魔法少女同士の腕試しをする場所として作られたらしく、どれだけ暴れても外には影響はないらしい。

 草の絨毯の他に木々や岩なんかも置かれていて、まさに大自然って感じの場所だった。

 因みにここでの戦闘は、村中に配信されているらしい。一種のエンタメだな、これは。

 十数メートル先にはキキョウさんとビリュウさんがおり、入念にストレッチをしている。

 俺も念の為に屈伸やアキレス腱を伸ばしていると、リリーカさん深いため息をついた。



「そんなに心配しなくても大丈夫ですって。いくらキキョウさんが最強って言っても、俺にはパワーがありますから。ゴリ押しで決めます」

「それができれば苦労はしないのだが……まあ、やってみればわかるさ」



 そんなに俺の事を信用してないのか? ちょっとカチンと来たぞ。

 いいだろう。そんなに言うなら、やってやろうじゃないか。



「おーーーーい、準備できたー?」



 向かい側から、キキョウさんが大きく手を振ってくる。

 俺も手を挙げると、ビリュウさんが離れていく。



「それじゃあツグミ。武運を祈る」

「ありがとう」



 リリーカさんも俺から離れると、俺とキキョウさんのちょうど中央に数字が書かれた立方体が現れる。

 立方体が回転するごとに、数字がカウントダウンしていく。

 緊張感が高まって拳を構えるが、キキョウさんは腰に手を当てたままの仁王立ちで、構えない。


 5……4……3……2……1──



『START』



 先手必勝……!

 地面を踏み締め……蹴るッ。


 ──ゴオッッッッッッッ!!!!


 土が捲れ上がり、初速からトップスピード。音速を越え、キキョウさんにタックル──!!


 ──トンッ……。


 ……あ、れ……? 止まっ……え?



「んおー、すっご。パワーだけで10センチも押されたの、初めてかも」

「……は?」



 地面を見ると、確かに10センチほど下がっている。

 ……それだけ。それ以外の影響がない。

 まるで衝撃そのものを無かったことにされたみたいな感覚に、全身が総毛立った。

 な、何が起こった……? 何をされた、俺? こんなこと起こりうるのか……!?



「それじゃあ、次はアタシの番ね」



 キキョウさんは片手を振り上げると、まるでビンタをするように俺の肩を叩き──ドゴシャアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!



「がっ……はッ……!?」



 やっ……ば……い、息がっ……!

 けど、ギリギリ動ける。ほんと、ギリッギリだけど。

 何とか立ち上がり、呼吸を整える。この体になって痛みを覚えたの、初めてなんだけど……!

 土煙の向こうで、キキョウさんは驚いたように目を瞬かせていた。



「あり? アタシの攻撃を受けて、動けるの?」

「ま、まだまだですよ」



 嘘です、強がりです。何だこの人の力。意味がわからん。



「……へぇ……」



 嬉しそうに破顔するキキョウさん。ちょっと怖い。女児がそんな顔しないで。

 肩を回して、外れてないことを確認する。魔法少女の体質なのか、ありがたいことに時間が経つとダメージも和らいできた。

 これ、至近距離はダメだ。遠くから地道に攻撃しないと。

 一番近場の岩に近付き、指を食い込ませて持ち上げる。

 思いの外でかい。直径5メートルくらいありそう。

 そしてこいつを……投げる!



「おぉぉぉぉぉっ……りゃッ!!」



 俺のタックルでもダメージが無かったんだ。こんな大岩程度じゃ、ダメージなんてないに決まってる。

 でもキキョウさんの視界は塞げた。

 近くの巨木を蹴り倒し、鷲掴む。

 同時に、大岩がキキョウさんに当たって粉々に砕け散った。

 やっぱり無傷だけど、俺の攻撃は止まらない。



「せいッ!!」



 振り上げた巨木を、思っきり叩きつける。

 またもや砕け散ったが、それを目眩しにキキョウさんの背後に回り込み、背中に蹴りを叩き込んだ。

 が、当然動かない。それどころか、ちょっと俺が跳ね返された。



「あり? いつの間に後ろに……速すぎて見えなかったよ」

「そいつはどうも……!」



 相手が女児とか、見掛けに騙されちゃダメだ。殺す気で──



「じゃ、これで終わりね」

「──ぇ」



 顔面に迫る小さい手の平。

 それが俺の顔を叩いた瞬間──世界が暗転した。

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