第26話 会員登録

「ほらほら、そんな所に立ってないで座って座って」

「失礼します、支部長」

「し、失礼します」



 支部長さんに促されて、対面に座る俺たち。

 ビリュウさんは俺たちの前にコーヒーを置き、支部長さんの後ろに待機した。



「改めて、アタシは魔法少女・キキョウ。皆からはキョウ様って呼ばれてるから、ツグミも遠慮なくキョウ様って呼んでね」



 図々しいにも程があるだろ。なんだよ、遠慮なくって。日本語間違えてんぞ。



「で、こっちがびりゅー。元支部長で、今はアタシの秘書兼教育係よ」



 ……ん? 元支部長?

 首を傾げていると、隣に座っているリリーカさんが説明してくれた。



「支部長というのは、日本で最も強い者がモモチに選ばれるんだ。日本中にいる魔法少女を統率するには、力がいるからな。つまり支部長……キキョウは、現日本最強と言える」

「……マ?」



 改めてキキョウさんに目を向ける。

 ちびっこい背丈に、なだらかな体。ケーキを頬張っている姿は、普通の女児のようで……本当にこの人が、日本最強?

 さすがに訝しんでいると、ビリュウさんが鋭い眼光で睨みつけてきた。



「ツグミさん。キョウ様の力を疑っているの?」

「い、いえっ。決してそういう訳では……! 疑うというか、驚いただけで……!」



 嘘じゃない、本当だ。キキョウさんやビリュウさんがどんな能力を持っているかは知らないけど、モモチが認める程の強さを持つって、どれだけ強いんだろうか。

 ……でも裏を返せば、俺はこの人たちよりも弱いということになる。

 これでも、パワーに関しては誰にも負けないと自負している。

 やっぱり、パワーで戦うには限界があるってことなんだろうか……。

 どうにか弁明しようとすると、キキョウさんがビリュウさんにジト目を向けた。



「も~。あなた、すぐそーやって喧嘩腰になる……アタシを立ててくれるのは感謝してるけど、信じられないのは仕方ないわよ」

「しかしキョウ様」

「とにかくいーの! アタシだって、自分みたいなちんちくりんが突然、『現日本最強です☆』って言ってきたら、疑いたくもなるもん」



 どうやら自分のことは客観的にわかっているらしい。

 ビリュウさんもそれは否定しないのか、そっと目を閉じて無言で頭を下げた。

 さっきの話が本当なら、ビリュウさんはキキョウさんが現れるまでの日本最強……プライドも高そうだし、そんな人が、こんなに従順に誰かの下に付くんだろうか?

 それくらいキキョウさんのカリスマ性が高いのか、それとも……。

 いろんな可能性を頭の中で考えていると、キキョウさんが手を叩いた。



「じゃー、早速いろいろと聞いていきたいんだけど、よい?」

「あ、はい。なんでもどうぞ」



 俺の正体以外、聞かれて困ることはない。何を聞かれても、なんでも答える心の準備はしてきている。

 さあ、どんとこい!






「生理周期は?」

「いきなりぶっこんで来た!?」






 なっ、何を言ってんだ、この人!? 生理周期!? はっ!? 知らねーよ!!

 が、キキョウさんは至って真面目らしく、きょとんとした顔をしていた。



「だって生理中は、無理に戦わせられないでしょ? モモチはばかだから、そこんとこなんも考えずに魔物と戦わせようとするけど、アタシは大反対。こっちが把握していれば、協会から別の魔法少女に応援要請を出すこともできるからね」



 思ったよりまともな理由だった……!?

 しかし困った。さすがに生理周期は知らない。というかそもそも、俺に生理とかあるんだろうか?

 リリーカさんの方を横目で見ると、我関せずを貫いてコーヒーをすすっていた。チクショウ、少しは助け舟を出せよ。



「え、えっと……さ、30日くらい……かな」



 保健体育の教科書に、平均的な周期の日数が載ってたはずだ。確かこのくらいだったはず……だと思う。



「最後に生理が来たのは?」



 この質問まだ続けんの!?



「……1週間前、とか」

「ふむふむ。なるほど」



 ……何、この羞恥プレイ。てか嘘に嘘を重ねて、罪悪感が……。

 そのあとは、プロフィール用紙に俺の身長、体重、スリーサイズ、趣味、好きなもの・嫌いな等々を書いていく。

 これを協会に登録しておけば世界中の魔法少女協会でも閲覧でき、突発的に他国に行くことになっても協会が支援してくれるらしい。こういう体制が整っているのは、ありがたいな。

 で、最後に能力欄。ここには、俺がどんな能力を持っているかを書くのだが……とりあえず、正直に書くか。

『パワー特化』『美少女』っと。



「はい、書けました」



 俺の書いた用紙をビリュウさんが回収して、書き漏れがないか確認すると……1つの項目に目が留まって、眉をぴくりと動かした。



「ツグミさん、ふざけているの? 何、この能力。『美少女』って」

「ふざけてないんですが……」



 俺が魔法少女に覚醒する時に願ったことと言えば、『理想の美少女』だ。覚醒時の願いが能力になるのだとしたら、『美少女』は立派な能力と言える。

 俺が男だということは抜きにして丁寧に説明をすると、ビリュウさんは頭を抱えて、キキョウさんは大爆笑した。



「あっはっはっはっは! 確かに! こーんなキレーでかわいー人、能力で作られたって言われた方が納得するわ! あっはっはっはっは!!」

「キョウ様、笑いすぎですよ」



 めっちゃ笑ってくるじゃん。目に涙を浮かべちゃってるじゃん。



「ご、ごめんごめん。でも、なんでアンタがこんなに完璧な美少女なのか納得いった。うん、面白いから能力もこれでいいよ」



 と、キキョウさんがどこからか取り出した承認印を、俺のプロフィール用紙に押印した。

 意外と事務的なんだなぁ、協会に入るのって。



「あとは登録用の写真と……実際に、ツグミの能力を見せてもらおうかな」

「……能力?」



 キキョウさんは立ち上がると、腰に手を当て……。



「『馬鹿力』の方よ。相手は、アタシ直々にしてあげるわっ!」



 現日本最強が、牙を剥くように笑った。

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