第25話 魔法少女協会

 限界オタク元魔法少女たちから逃げ出した俺たちは、その足で魔法少女協会の本部へ向かった。

 どうやら本部は、魔法少女の村でも更に奥まったところにあるらしい。

 畑や田んぼを横目に木々を抜け、魔法少女たちの憩いの場となっている広場を通り過ぎる。

 そのまま歩くこと十数分。不意に、リリーカさんが足を止めた。



「着いたぞ。ここが日本支部の本部だ」

「……ここが……?」



 他の建物と同じ、大きな木をくり抜いて作られたような家。

 木々にはリンゴはもちろん、梨やブドウ、更にはイチゴ、レモン、スイカまで木に成っている。

 いやおかしいだろう。木に成ってちゃおかしいものまで実ってるし。

 けど……なぜだろう。ここだけ不思議な陽光に包まれているというか……暖かい。心のざわつきや疲れが一気に取れる感じがする。

 ファンタジー世界に出て来そうな可愛い外観に見とれていると、リリーカさんが扉をノックした。



「支部長、リリーカです」

「……どうぞ」



 中から女性の声が聞こえてくる。

 凛とした声というか、圧を感じる冷たい声というか……。

 リリーカが扉を開け、俺も続く。

 最初に感じたのは、コーヒーのいい香り。それと、甘いバニラっぽい匂い。

 内装は、なんだかオシャレなカフェみたいな雰囲気だ。

 というか、まんまカフェ。カウンターがあり、その奥で1人の女性が、マグカップを拭いて佇んでいた。

 水色のショートヘアが特徴的で、スラリと手足が長く、スタイルもスレンダー。

 パッと見男性かと思うくらい中性的だけど、胸の僅かな膨らみで女性だとわかる。

 この人が、魔法少女協会日本支部の支部長……そこはかとなく、凄まじいオーラを感じる。



「ご無沙汰しています、ビリュウさん」

「久しぶりね、リリーカ。御家族はお元気?」

「お陰様で、何不自由なく」



 ……普通に、話し始めたな。まるで俺のことなんて見えていないというように。

 どうすればいいかわからず棒立ちになっていると、ビリュウさんと呼ばれた女性の目が、いきなり俺を射抜いた。

 冷たい。人はこんなにも冷たい目で、人を見れるのか。



「それで、彼女が?」

「はい。新しく協会に入りたいという、ツグミです」

「は、初めまして、ツグミです……!」



 リリーカさんに紹介され、とりあえず頭を下げた。

 顔を伏せても、値踏みするような視線を感じる。ダメだ、頭を上げられない。



「顔をお上げなさい」

「ひゃっ、ひゃい……!」



 まるで命令されたように、直立不動に戻る。

 今の俺よりはでかいけど、継武の俺よりは小さい。そんな人にただ見られているだけなのに、例の巨大ホーンウルフに見つめられるよりも圧を感じる。

 しばらく俺を見つめるビリュウさん。

 カフェに流れている心地いいBGMが、やけに大きく聞こえた。



「……なるほど。噂通りの美人さんね」



 値踏みが終わったのか、彼女は微笑んで口を開いた。

 その拍子に、空気が弛緩するのがわかる。

 俺も緊張の糸が解け、なぜか笑いが込み上げてきた。人間、緊張が解けたら笑い出すって言うのは本当らしい。

 ほっと一息つき、肩を落とす。あー、緊張した。






「うっわ、パンツえっろ」

「……は?」






 真後ろから聞こえる声に振り向く。

 と、そこに……しゃがみこんで俺のスカートを捲っている、1人の幼女がいた。

 え……誰??



「お久しぶりです、支部長」

「お待ちしておりました」



 リリーカさんとビリュウさんが、幼女に頭を下げる。

 え……はっ!? 支部長!? この幼女が!?

 じゃあビリュウさんってなんなの!? めっちゃ支部長感出てたけど!

 幼女はスカートを捲ったまま、にははっと快活に笑った。



「めんごめんご。ガッコ抜け出せなくてさ〜。私立女子中だと、どよーでも授業があんのがめんどっち〜よねぇ」



 ようやくスカートから手を離し、俺の前に回ってきた幼女。

 身長が低い。今の俺の身長が158センチだけど、20近く小さかった。……いや、これが魔法少女の姿なら、この身長も偽りのものかもしれないけど。

 私立の女子中と言うだけあって、制服姿。

 いろんなところが全く成長しておらず、なだらかな体躯。

 桃のような薄いピンク色の髪はツインテールにされていて、人を小馬鹿にしたような目つきと八重歯は、メスガキ感を思わせる。

 こ、この人が、魔法少女協会日本支部の支部長……?

 さすがに信じられず幼女を見下ろすと、同じくピンク色の目を吊り上げ、ムッとした顔をした。



「なんだなんだっ? なんだその目は」

「あ、いや……すみません。ちょっと信じられなくて……」

「むきゃー! それはぼくがちっこいからか! 小さいからかー!」



 ダンダンッ、と地団駄を踏む。こんなところも幼女っぽいというか……可愛いぞ、この子。

 ほんわかと彼女を見ていると、リリーカさんが慌てたように小声で話しかけてきた。



「ツグミあまりこの方を怒らせるなよ。怒らせたら最後、お前でも勝てない」

「え……そんなに?」



 申し訳ないけど、強そうには見えない。それなら、ビリュウさんの方がよっぽど強そうだ。



「とにかくこの方の機嫌を損ねるな。いいな?」

「わ、わかった」



 リリーカさんがビビっている。

 そんなに強いのか、この人……?

 幼女はぷりぷりと怒ってテーブル席に座ると、ビリュウが出したイチゴのショートケーキを前にして一気に表情が華やいだ。



「ケーキ! びりゅー、いいの!?」

「はい。キョウ様のために用意致しましたから」

「いえいっ! びりゅー大好き!」



 …………。本当に強いの??

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