第24話 魔法少女の村

   ◆◆◆



「あの、リリーカさん……本当にここが?」

「ああ、ここだ」



 ワンチャン間違ってるのかと思ってたけど、そうじゃないらしい。

 正直、未だに信じられない。

 場所は茨城県の更に郊外。町中にひっそりと佇む……駄菓子屋。

 ここが、魔法少女協会の日本支部だという。

 しかも繁盛しているわけでも、何か特別な外装ってわけではない。普通の駄菓子屋……いや、若干ボロさが際立っている。いつ倒壊してもおかしくないくらい古い。

 もしかして、よくアニメの世界である、この地下に秘密の基地があったり……?



「残念ながら、別に地下に巨大施設があるわけではないぞ」

「俺の考えを勝手に読まないでください」

「わかりやすいんだ、君は」



 行くぞ、と先導するリリーカさんのついて行く。

 因みにミケにゃんは失神したまま、リリーカさんの家に寝かせている。置き手紙をしてきたから、大丈夫だろう。

 駄菓子屋の中は、ごく普通の駄菓子屋だった。1個10円の駄菓子、昔はよくお世話になってたなぁ。

 店番には年老いたおばあちゃんが1人。いい陽気だからか、今にも寝落ちしそうだ。



「クルミさん。ご無沙汰しています」



 クルミと呼ばれたおばあちゃんが、ゆっくりと目を開けてリリーカさんを見る。



「おやおや。きりいかちゃん、いらっしゃい」

「リリーカです。ゲートの開放をお願いします」



 ふむ、ゲート?



「はぁ……カード? ごめんねぇ、今は売り切れちゃってて」

「違います、ゲートです」

「外道とは失礼なッ!」

「ゲートって言ってるでしょうが!」



 耳遠いのか、このおばあちゃん。

 と、おばあちゃんが俺の方に視線を向けてきた。

 じっと値踏みするかのような目に、思わず背筋が伸びる。



「おや。そっちの子は初めましてだね」

「ツグミです。新しく魔法少女になったので、協会に連れていきたいんです」

「協会? ……あぁ、ゲート、ゲートね。そうならそうと言いなさいな」

「言っているのですが……」



 げんなりしてるリリーカさん、珍しいな。

 おばあちゃんが立ち上がり、お店の奥に向かう。

 リリーカさんも続き、俺も後を追うと……襖の向こうの和室に、この駄菓子屋には似合わない無骨で巨大な機械があった。



「リリーカさん、これは?」

「転送装置だ。100年前の魔法少女が作ったもので、別の場所にある魔法少女協会に転送してくれる」

「どういう理屈で?」

「わからん。なんにせよ、魔法少女の強度がないと転送中にミンチになるため、一般人には使えんものだな」



 そんな恐ろしいものを普通に使おうとしないで……!?

 リリーカさんは慣れた様子で機械の中心に立つと、俺に手招きした。



「ツグミ、こっちに来い。大丈夫だから」

「……俺がミンチになったら、化けて出ますよ」

「君がミンチになったら、私は液状になるから安心しろ」



 むしろ安心できませんが!?

 恐る恐る機械に乗り、中心にいるリリーカさんに近づく。

 おばあちゃんがいろんなスイッチを押すと、ゴウン、ゴウンと機械が稼働し、緑色の光が部屋を覆っていった。



「ほいじゃ、行くぞーい。んーー……しょっ」



 気の抜けた掛け声と共にレバーを下ろした、次の瞬間。

 世界が緑色の光りに包まれ、思わず目を閉じてしまった。

 数秒か、十数秒かはわからない。

 しばらく待っていると、リリーカさんに肩を叩かれた。



「着いたぞ」

「え。……うぉっ」



 目を開くとそこは、さっきまでの和室ではない。見渡す限りの大自然だった。

 巨木をくり抜いたような建物が立ち並び、八百屋はもちろん魚屋、肉屋、雑貨屋がある。

 店員も、お客も、出歩いている人も……みんな女性。

 なんだ、これ。現代日本とは思えない光景だ。ファンタジー世界って言われても信じちゃうぞ。



「ここは日本のどこかにはあるが、詳しい場所は私にもわからない。結界によって現世とは隔絶されており、魔物の襲撃は受けないんだ」

「じゃあ、転送装置がないと来れないんですね」

「その通り。因みに、ここにいるのは全員魔法少女か、元魔法少女だ。クルミさんも、元魔法少女だぞ」

「マジすか」



 あのおばあちゃんが魔法少女……ダメだ、想像できない。いったいどんな人だったんだろう。

 リリーカさんに続いて転送装置から下りる。

 装置は他にも数台並んでいて、それぞれ『北海道』『沖縄』『山口』『茨城』『秋田』『佐賀』『新潟』『高知』と書かれていた。



「転送装置って地方に多いんですね」

「一般人の目につかず、統計的に魔物の被害が少ない場所に装置は置かれている。さあ、行くぞ」



 リリーカさんと共に、魔法少女の村を進む。

 宿屋、病院、本屋まであり、なんと映画館まである。



「凄いですね。ここで一生を過ごせそうです」

「事実店を開いている者は、ここからは二度と出られないからな。ここで死ぬ者も多いぞ」



 あ、そうか。転送装置は魔法少女じゃないと通れない。ここにいる元魔法少女は、外の世界には戻れないのか。



「いいんですかね、それで……」

「皆、納得してここに永住すると決めているからな。それに……」

「それに?」



 その時──そこら中から、黄色い歓声が湧き上がった。



「つっ……つつつつつつつツグミたん!?!?」

「うっそ、どこ!!」

「あそこよ、あそこ!」

「本物のツグミちゃんだああああああああああ!!」

「可愛すぎる」

「生きててよかった」

「寧ろ死んだ」

「この為に生きてきたのね、私……」

「あばっ、あばばばばばばばばっ……!」



 いやこれ黄色い歓声じゃなくて限界化してるだけだ!?



「彼女らは重度の魔法少女オタク。ここに残っている最大の理由は……合法的に、魔法少女を生で拝めるからだ」



 余りにも理由が下世話だった!

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