第23話 条件

 気絶してしまったミケにゃんをベッドに寝かせて、リリーカさんの対面に座る。

 こうして2人になることはあったけど、リリーカさんの部屋では初めてだ。

 女の子の部屋……緊張で吐き気がする! 俺も女の子だけど!

 しかもベッドには、無防備で寝てる(気絶してる)推しまで! 隣の部屋でここにはいないけど!

 女の子とのッ、沈黙がッ、怖い……!

 何か、何か話題を……!



「い……いい天気、ですね」

「む、そうだな」



 会話終了。

 あっれぇ……おかしいな。俺、こんなに話し下手だったっけ?



「そっ、それにしても、魔法少女協会ってすごいんですね。こんないいものまで支給してくれるなんて」



 カップを傾けて紅茶を飲む。俺のコントロールしきれてない力でも壊れないものをくれるなんて。俺にもくれないかな。



「あぁ、これは買ったんだ。さすがに支給品ではないぞ」

「え、そうなんですか? 因みにおいくら……?」

「協会会員価格で1つ5万円」

「ごまっ……!?」



 ミシッ。やべっ、ちょっと軋んだ。

 そっとソーサーに戻して、一息つく。マジか、これそんな高いの……?



「というか、協会の会員ってなれるんですね。俺も入れます?」

「ああ。だが……」



 何か問題があるのか、言い淀むリリーカさん。どうしたんだろうか?

 首を傾げてリリーカさんを見る。と……。



「協会には、素の自分と変身後の自分の写真を登録しなければならないんだ」



 致命的な問題を口にした。

 おい、マジか。それじゃあ俺、会員になれないじゃん。おのれ身分証明。



「ま、まあ、協会で発売されているものは、私経由で取り寄せよう。これがカタログだ」



 部屋の棚に差し込まれていたカタログを手渡された。今どき紙のカタログって。

 試しに中身を見てみると……おお、日用品ばかりだ。当たり前だけど。

 商品には耐久度と書かれており、5段階で分かれている。

 因みにこのカップとソーサーは、5段階中4。なかなか高い評価を受けていた。



「さすがに、協会の特注品なだけあって、全部高いですね」

「まだ安い方だぞ。こっちの評価5の皿なんて10万もする」

「たっっっっか」



 評価4でさえ、俺のパワーでも壊れないんだぞ、評価5とか誰が買うんだ。ゴリラの魔法少女か。

 ……あれ。そういや、この人たちってどこから金を貰ってるんだ?



「リリーカさん、魔法少女ってどこからお金が出るんですか? やっぱり協会?」

「そうだ。協会会員は、魔物を倒すと報奨金が出る。魔物のランクにもよるが、この間のホーンウルフは800万ほど貰った。君の入院治療費にすべて消えたが」

「ふぁっ!?」



 俺が向かう前に倒してたけど、ミケにゃんの配信で見た。あの化け物を倒して800万円か。

 …………いや、少なくね? 2人とも死にかけてたけど。あれで800万円は割に合わない気がする。



「因みにスライムは?」

「100万だ」



 ……ダメだ。高いのか安いのかわからない。

 まだ世間の感覚を持ってる俺からすると、めっちゃ高いけど、どうなんだろう。



「てことは、協会に入ってない俺ってタダ働き?」

「だな」

「がーん」

「それ、口に出す人初めて見た」



 言いたくもなる。だって俺、アレよりもやばいホーンウルフを倒したんだよ? ハード・テンタクルスも倒したんだよ? それなのにタダ働き……泣きたい。



「どうにかして協会に入れないですか? 俺、このまま週一で魔物を倒すっていうモチベを保てそうにないです」

「ふむ……わかった、支部長に連絡してみよう」



 リリーカさんはスマホを手に取ると、リビングを出て廊下に出た。

 それにしてもこのアパート、でっかいな。1LDKなのだろうか。リビング、キッチン、寝室がしっかり分かれている。

 これが金持ちとの違い(ギリィッ)。

 紅茶をすすって待っていると、やっとリリーカさんが戻ってきた。



「支部長に相談してみた。こちらの条件を飲めば、特例で変身後の姿のみで登録ができるそうだ」

「本当ですか!?」



 これで俺も金持ち美少女に……!






「メディアへの露出を増やして、魔法少女の人気を更に世界的なものにすること、ということらしい」






 ちきしょう人の足元を見やがって!!

 目立ちたくないんだよ! 人知れず美少女を楽しみたいんだよ! それをメディアにって……きえええええええええっ!!

 ブリッジしてワシャワシャ動いていると、リリーカさんに胸ぐらを掴まれた。



「座れ」

「うす」



 怖い。ごめんなさい。

 大人しく座ると、リリーカさんが呆れ顔で首を横に振った。



「話は最後まで聞け。誰も映像媒体とは言っていない」

「……つまり?」

「魔法少女モデルとして、だそうだ。いわゆる読モだな」



 ほほう……なるほど。それなら話は別だ。

 テレビやユーチューブは言葉が載る。俺、喋るのは苦手だし、元は男だから絶対いつかボロが出る。

 でも写真なら何も問題ない。……はずだ。うん、大丈夫。



「詳しい話は、支部長から聞くといい。さあ、行くぞ」

「……どこに?」

「決まってるだろう。──魔法少女協会だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る