第13話 魔法少女・ツグミ、コスプレ大会

「それでは本日より、正式に力のコントロール訓練に入る。よろしく頼む、継武くん」

「う、うん。よろしく、リリーカさん」



 あの後、何事もなく放課後になり……俺の部屋には、変身したリリーカさんがいた。

 生まれてこの方、彼女どころか女友達すらいない男の俺の部屋に……だ。

 しかもその相手が、あの魔法少女・リリーカ。今日本中で知らない人はいないほど超有名魔法少女。

 正直に言おう。俺は今、激烈に緊張している。

 年下? 関係あるか。美人なもんは美人なんだ。年齢は一歳差だから、そこまで年下ってほどじゃないし。

 今リリーカさんは鎧ドレス姿ではなく、普通のワンピースを着ている。胸の下で結ばれたベルトのせいで、デカすぎるお胸様が更に強調されていた。

 因みにリリーカさん……真城凛々夏は、俺の住んでいるアパートの隣のアパートに住んでいて、なんと部屋は真隣。手を伸ばせば窓枠に触れられるくらい近い。

 窓もあるし、なんならカーテンを閉めていなかったら生活すら覗けてしまう。

 そんなことはしないが……これなら、まだ隣の部屋に住んでくれてた方がましだった。



「ではまず、変身してもらおう。服装は変えず、姿だけ変えられるか?」

「リリーカさんみたいにか?」

「そうだ。変身時の服は、各個人のイメージによって変わる。試しに、制服はそのままで体だけ変身してみるんだ」

「わ、わかった」



 確かに、今まで変身する時は、服とセットで変身していた気がする。

 ということは、リリーカさんが光の粒子で武器を作るのも、イメージの力ってことか。

 ベッドに座り、目を閉じる。

 イメージ、イメージ、イメージ……服はそのままで、体だけ変える……こんな感じか?

 俺の体が強く発光すると、体が徐々に小さくなっていき、ある部分は大きくなっていく。

 時間にして、コンマ数秒。俺の体は、制服を残してツグミのものへと変化した。



「おぉ、できた」



 ちゃんと、ぶかぶかのワイシャツと学ランに身を包んでいる。自分のものだってわかってるのに、彼シャツを着た美少女みたいでドキドキするな。



「いい感じだ。だが一つだけ難点があるのは、契約時にイメージしない限り、武器は作り出せないということだ。私は元から料理が趣味だったから、無意識のうちに刃物を武器にできたんだが……」

「え……つまり?」

「『美少女』しかイメージしていない継武くんは、武器を作り出すことはできない、ということだ」



 そんなバナナ。

 試しに、自分の手の平にナイフがある姿をイメージしてみるが……何も出てこない。素手のままだ。



「だ、大丈夫だ。魔法少女の中には元々空手を習っている者もいるから、素手の戦闘がダメってことはないぞ」

「でも俺、生まれてこの方格闘技とか一切してこなかったんですけど」

「……ファイトっ」

「オゥ……」



 マジかよ、なんてこった。モモチの奴、そんなこと一言も言ってなかったじゃないか。

 けど、くしゃみだけで魔物をぶっ飛ばすほどの膂力があるんだから、技術とか持ってなくても戦えるんだろうが……果てしなく、心配ではある。



「ま、まあ、そこの問題は後でクリアするとして、今は力のコントロールだな。まずはどの程度、継武くんが強いのか確認するために、私と手合わせを……」

「あ、待った。その前に試したいことがある」

「……試したいこと?」



 リリーカさんが訝しむように、顔をしかめる。

 さっきの話を要約すると、今の俺は、イメージの力でどんな格好にも変身することができるということ。つまり……。



「美少女のコスプレ拝み放題、し放題ということなのでは!?」

「…………」



 ドン引きされた。仕方ないじゃん、男の子なんだもの。

 さて、そうと決まれば早速試してみよう。

 ネットで適当に『コスプレ』と検索すると、出るわ出るわ、コスプレ美女の数々。

 まずはお試しに……これだっ。

 イメージした瞬間、制服が発光し、形が変化していく。


 まずはコスプレの王道……ミニスカメイド服である。

 胸元が大胆に開き、スカートも膝上何センチなのかわからないほど短い。いわゆるフレンチメイドと呼ばれるメイド服。

 腰やお腹周りは編み上げコルセットが巻かれていて、胸とお尻周りを大胆に主張している。

 頭にもカチューシャが付いていて、全体的にひらひら多め。だがしかし、足元は締りのあるニーハイソックスを履いていて、エロチックと可愛さと綺麗さをバランスよく押し出していた。



「どうだ、リリーカさん。可愛かろ?」

「う、うむ。確かに……悔しいが、可愛いな」

「にしし。あ、そうだ。どうせだったら、記念撮影してほしいかも。リリーカさん、俺のスマホで撮影お願い」

「あ、ああ。わかった」



 リリーカさんにスマホを渡して、白い壁の前で何枚か写真を撮ってもらう。

 おぉ……ちょっと快感。男姿俺はイケメンでもなかったから、撮影されるの苦手だったけど……美少女になると、どの角度から撮っても絵になるから楽しいな。

 この調子で、次々に写真に撮ってもらうぞ。

 チャイナドレス、ミニスカポリス、ナース、バニーガール、巫女さん、チアガール、花魁。そして最後に、旧スク。

 今俺のスマホの中には、魔法少女・ツグミが際どいコスプレをした姿が、大量に詰め込まれている。

 いやぁ……エッチすぎる。こんな姿、誰にも見せられませんな。優里に見られた日には、もう学校には行けなくなるぞ。



「継武くん、もういいか? じゃあ、早速訓練を……」

「待った。お願いリリーカさん。もう少しだけ俺の浅ましい欲求に付き合ってくれ……!」

「自分で浅ましいって理解しているんだな……やれやれ。もう少しだけだぞ」

「ほんとっ? ありがとう、リリーカさんっ」



 自然と笑みがこぼれ、無意識のうちにリリーカさんの手を握ってしまった。

 と――その時。リリーカさんは目を見開き、一瞬で振り解いて手を引いた。

 さっきまで血色の良かった顔色が青白くなり、ひたいに脂汗を垂らしている。



「あ……ご、ごめん、リリーカさん。さすがにいきなり手を握るのは違うよな」

「ち、違っ。……はっきり言って、今されるがままに握手をしていたら……恐らく私の手は、握り潰されていた」

「……え?」



 そ、そんな馬鹿な。だってリリーカさんって、パワー特化の魔法少女で……。

 自分の手を見つめて、試しに握って開く。

 と……窓やカーテンが閉められた部屋の中を、手の平を中心に風が吹き荒れる。

 カーテンが暴れ、机の上に置いてあるノートや教科書が吹き飛び、窓がガタガタと揺れた。

 リリーカさんは揺れるブロンドヘアーを押さえ、小さく頷いた。



「ただ握っただけで、これだけの風を引き起こす。それが、今の継武くんの力だ」

「ま、マジか……」

「だから言っただろう。ちゃんと訓練をしようと……もうわかったか? 君は力をコントロールしないと、生きているだけで危ないんだ」



 こくこくこくこく。高速で何度も頷く。

 こ、怖い。確かにこれじゃあ、おちおち美少女姿で遊ぶこともできない。

 リリーカさんの言うことを聞いて、ちゃんと力をコントロールしよ……気合い入れ直さないと。

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