第12話 変わりすぎた新生活
◆◆◆
「リリーカさん……あ、ここでは凜々夏さんって呼んだ方がいいですか?」
「ぁ、はぃ……いえ、なんでも大丈夫です。卑しい雌豚でも、愚鈍な牝犬でも……」
卑屈すぎて引くわ。
あの後、無事(?)自己紹介を終えた真城さんと俺は、案内という名目で一緒に校内を歩いていた。
どうやら学校側には、俺と従姉妹同士ということで話しているらしい。すんなりと2人になれたおかげで、質問することができる。
「凜々夏さん、なんでうちの学校に?」
「え、だって継武さんが、力のコントロールの仕方を教えてって……」
まあ、確かに言った。言ったさ。でもそれで、学校にまで転校してくるだなんて思わないだろう、普通。
見た目と性格に反して、フットワークが軽すぎる。いや、これはもうフッ軽なんて言葉でまとめちゃダメなレベル。
俺が愕然としていると、凛々夏さんは急激に顔を真っ赤にし、冷や汗をだらだら流した。
「しゅっ、しゅしゅしゅしゅみましぇん! わわわわ私なんかがあなたに何かを教えるなんておこがましいですよねっ! というか何いきなり転校して来てんだって話ですよね! ちょっと
「待って待って待って! そんなこと考えてないからっ。嬉しい、嬉しいので落ち着いて……!」
走り出しそうな凛々夏さんの手首を掴んで止める。
なんで臆病なのに、そういう方面に思い切りがいいんだ……。
手首を掴まれた凛々夏さんは、頭から湯気を出して俯いてしまった。落ち着いた……というより、ショートしてしまった感じだ。
「と、とにかく、俺は嬉しいんで。そこは覚えておいてください」
「は、はぃ……」
凛々夏さんの手首を離すと、再び二人で校内を歩きながら、気になったことを聞いていく。
「でも、驚きました。凛々夏さんって、同い年だったんですね」
「ぃぇ……実は私、中学三年生でして……」
「……え?」
ちゅ、中三……? てことは、一個下?
それにしてはいい体をして……って、何考えてんだ、俺は。今の時代、成長の早い子だっているだろう。
「なんで中三でうちの学校に……? まさか、飛び級とか?」
「ゎ、私たち魔法少女は、世界魔法少女協会というところに所属しているんです。決して表には出ないので、知らないとは思いますが……」
うん、知らない。そんな組合みたいなものがあるんだな、魔法少女って。俺も入った方がいいんだろうか。
やだなぁ、そういうの苦手なんだよ。部活っていうしがらみですら面倒なのに。
「協会は各国と繋がっていて、世界の平和を守っています。そのため、協会が決定したことは覆せません」
「つまり、協会が俺の力のコントロールの仕方を、凛々夏さんに依頼したんですね」
「正確には、私が協会に進言して、それが通った感じです」
なるほど。それで中三の凛々夏さんが、うちの高校に編入できたのか。
……それすらも可能にする魔法少女協会の権力って、いったいどれほどのものなんだろうか。薄ら寒さすら感じるな。
「わ、私程度のゴミ虫が教えられるとは思いませんけど、ががががが頑張りますので、よっ、よろしくお願いします……!」
「あ、うん。はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
でも凛々夏さん……いや、リリーカさんの力は、現代人なら誰もが知っている。テレビでも、ユーチューブでも何度も取り上げられているし、何より可愛くて綺麗。そしてカリスマ性もある。
そんな人に力のコントロールを教われるなんて、ツイてる。ラッキーだ。
……正直、年上だと思ってたことは、内緒にしておこう。
「ぁ。つ、継武さん。この間からずっと敬語ですけど、ゎ、私は年下ですし生物としても下等で劣等の分際なので、どうかタメ口で……さ、さん付けもいらないです」
「わ……わかった。改めてよろしく、凛々夏」
「~~~~ッ……!」
ぶんぶんぶんぶんと、何度もお辞儀をしてくる凛々夏。
この自分を卑下する癖、どうにかならないかなぁ……まあ、性格だとしたら仕方ない部分はあるか。
「そういや、凛々夏って北関東にいたんだよな? さすがに通える距離じゃないけど、引っ越してきたのか?」
「は、はい。きょきょきょ協会から補助金も出ていますし、近い方が何かと便利ですので……」
そりゃそうだ。俺に力のコントロールを教えるために転校してきたのに、通学時間が遠くちゃ意味ないもんな。
「でででででも安心してくださいっ。つ、継武さんの住んでいるアパートの隣のアパートを借りているので……!」
「え、そうなの? うちのアパート、今人は全然いないし、家賃も安くなってるから狙い目なんだけど」
「そ、そんなっ。私程度が継武さんと一つ屋根の下で暮らすなんて、心臓がいくつあっても……!」
確かにアパートだから、一つ屋根の下っていうのは間違ってないけどさ、聞く人が聞いたら誤解を生むからやめろ?
でも……正直、隣の部屋じゃなくてよかった。うちのアパート、部屋の壁がだいぶ薄いからな。生活音とか普通に聞こえてくるんだよ。前の住人だった外国人は、毎晩酒盛りして盛り上がってたし……あれはうるさかった。
周りに誰もいないことに安堵していると、丁度授業が始まる五分前の予鈴が鳴った。
「やべ、戻んないと。凛々夏、行くぞ」
「は、はぃ」
凛々夏と一緒に、来た道を引き返す。
いきなり魔物に襲われて、魔法少女になって、めっちゃ馬鹿力を手に入れて、可愛い女の子にいろいろ教えてもらうとか……新生活にしても変わりすぎだろう。
どうなってんだ、俺の人生。
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