第10話 可愛すぎる魔法少女、爆誕

   ◆◆◆



「ミケだが、医者によると命に別状はないそうだ」

「ほっ……よかった」



 俺の入院している病院に戻ると、俺の病室でリリーカさんがミケにゃんの容態を説明してくれた。

 肋骨と右腕が粉砕骨折していたみたいだけど、リリーカさんの応急処置でほぼほぼ治ったらしい。リリーカさんの治癒能力もそうだけど、魔法少女の頑丈さと自己治癒力もすごいな。

 今ミケにゃんは、俺の病室の隣に入院しているらしい。推しが隣に寝てるとか、興奮してどうにかなりそう。

 因みに今の俺は、まだ魔法少女の姿だ。

 実際動いてみてわかったけど、まだこっちの姿に慣れていないからか、動きがぎこちない。とにかく、この体に慣れることが先決だ。

 あと、純粋に可愛い俺の方がテンション上がる。

 肩をぐるぐる回したり、ベッドの上でストレッチしていると、リリーカさんがぐいっと前のめりになった。



「それより継武くん。いくつか聞きたいことがある」

「え。は、はい?」



 う、近っ。顔良すぎっ。それにめっちゃいい匂い……!

 心臓が変に跳ねて、少しだけ後退る。



「き、聞きたいことってなんですか?」

「まず初めに、なんで上から降ってきたんだ? 見るからに、君には飛行能力はないだろう」

「え? あぁ、あれは……」



 先に行ったリリーカさんに追いつきたくて全速力で走ろうとしたら、いつの間にかめちゃめちゃ飛んでたんだよな。……いや、飛ぶというより跳ぶって感じか。はるか上空を飛んでいる鳥と同じ目線になった時は、おしっこちびりそうになったよ。

 掻い摘んでざっくり説明すると、リリーカさんは愕然と口を開いていた。



「じゃ……ジャンプ? 飛行能力ではなく……?」

「はい、ジャンプです」

「馬鹿な……見るからに、私の飛べる限界高度を超えていたぞ……? それをジャンプで、って……」



 信じられないのか、ぶつぶつと何かを呟いているリリーカさん。

 まあ、気持ちはわからないでもない。俺だって、自分で体験していないと信じられないほどのジャンプ力だった。



「で、ではあのくしゃみはなんだ? さっきはただのくしゃみとはぐらかされたが、そんなわけないだろう。なんなのだ、あの威力の技は」

「そんなこと言われましても」



 本当に、あれはただのくしゃみだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 だけどリリーカさんは信じられないらしい。ずっと、ずーっと、俺の目を見つめてくる。

 嘘はついていない。だから真正面から見つめ返すのだが……リリーカさんのご尊顔と美しすぎる瞳に圧され、つい顔を逸らしてしまった。



「ほら顔逸らした! やっぱり嘘だ!」

「う、嘘じゃないですって! あれは正真正銘、ただのくしゃみです!」

「でも顔を逸らしたじゃないか! 何かやましいことがある証拠だろう!」

「しつこいですねっ。それはリリーカさんの顔が綺麗すぎたから逸らしただけで、他意はないんですって!」



 若干イラッと来て本音をぶつけた。本当、この人は自分の顔の良さを自覚した方がいい。どれだけ俺の男心をくすぐるつもりだ。



「き、きれっ……!? そ、そそそそそそそそうやって誤魔化しても、むっ無駄だじょっ。つ、通常の時の私にも、かかかかかかか可愛いとか言っていたが、私が可愛いとか綺麗とかっ、そんにゃ……!」



 チッ。これだから自覚のない美人は。

 顔を真っ赤にしてうろたえているリリーカさんの頭を左右から掴んで、無理矢理俺の方を向かせる。



「いいですかリリーカさん。あなたは可愛いし美人だし綺麗なんです。もっと自分に自信を持ってください。いいですね」

「ひゃ……ひゃぃ……」

「よろしい」



 やれやれ。どうして俺が、美人のメンタルケアをしなきゃならないんだ。

 腕を組んでベッドにあぐらをかくと、リリーカさんは惚けた様子で俺を見つめて来た。

 な、なんか気まずい……もしかして、ちょっとキザすぎた? 俺も可愛い魔法少女だからって、強気に出すぎた?

 小さく咳ばらいをして、話を戻す。



「と、とにかく、俺にはまだ技という技はありません。ものっすごい高くジャンプして、くしゃみでホーンウルフの破壊光線を押し返しただけです。おーけー?」

「お、オーケーだ」



 それでよし。

 ようやく納得してくれたことに安堵して息を吐くと、リリーカさんは腕を組んで唸った。



「しかしそれが本当だとすると、継武くんの身体能力は常軌を逸している。さっきの話からして、戦闘方法は恐らく近接格闘……だが、まるで力のコントロールができていないな」

「あ……力のコントロールで思い出しましたけど、モモチがコントロールに関してはリリーカさんに頼るようにって」

「モモチが?」



 口元を手で覆い、何かを考えているリリーカさん。

 考えてる姿も、絵になる人だ。

 窓から射し込む陽光で光る髪と、揺れるカーテンも相まって、まるでここだけ絵画の世界みたいだった。



「……わかった。そちらに関しては、考えがある。ひとまず、週明けまで待ってくれ」

「え? はい。わかりました」



 リリーカさんは立ち上がると、開いている窓の外に身を乗り出した。



「準備があるから、私はもう行く。養生しろよ、継武くん」

「はい。ありがとうございました、リリーカさん」

「こちらこそだ。あんな化け物を倒してくれたんだ。継武くんには感謝してもしきれな……あ」



 リリーカさんは何かを思い出したかのように、ビシッと俺を指さした。



「そうだ、継武くん。その姿で街に出るなよ。大変なことになるからな」

「え? 可愛すぎて?」

「……当たらずとも遠からず、かな。ネットニュースを見ればわかるさ」



 ではな。と言い残し、リリーカさんは去っていった。

 ネットニュース? なんで?

 首を捻って、スマホでニュースサイトを開くと……一番上のトップニュースに、でかでかと俺(魔法少女)の写真が載っていた。



「……は??」



 え、嘘。なんで? だってあそこにカメラとか、第三者とかいなかったよな? なんで……バレるの早すぎないか?

 慌ててトップニュースの記事を開き、見出しを見る。



「【速報】可愛すぎる魔法少女、爆誕……?」



 記事の内容をざっくりまとめると……どうやらホーンウルフとの戦闘中を、ミケにゃんが全世界配信していたらしい。

 瞬間最高同接数1200万人。魔法少女ユーチューバー史上、最も多い同接数を叩き出した、と。

 その配信に映ったのが、なんと俺(魔法少女)だったらしい。



「配信はノイズが多くて聞き取れなかったが彼女の名前はツグミというらしく、可憐で美しすぎる容姿とは裏腹に豪快過ぎる戦いを見せた。これからの活動に再注目の一人と言える……って!?」



 え、ちょ、マジ!? そんなに注目浴びちゃってんの!?

 手から力が抜け、スマホが床に落ちる。

 お、俺は……自分が可愛ければいいんだ。この可愛さは、自分だけが愛でればいいと思ってたんだ……それなのにっ、なんでこんなに目立って……!

 あと、もう一つ!!



「俺、男なんですが……!?」

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