第9話 初戦闘

   ◆◆◆



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



 死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! 死ぬッ!!!! ありがとう今世!! こんにちは来世!! 愛しの妹鈴香の、元気に過ごすんだぞーーーー!!!!



『継武ッ! 着地! 着地しなきゃ!』



 餅のぬいぐるみのモモチが、俺の耳元で必死に叫んでいる。

 ちゃ、着地と言っても……!



「どうやってだよおおおおおおおおおおおおお!?」



 もう早く落ちすぎて意味がわからない。てか、もう地面目の前! 目の前!!



『なんか脚とかで踏ん張って!』



 雑! 雑い! もっと的確なアドバイスとかないんですか異世界の神様!?

 ええいっ、こなくそ! 男は度胸! 今は女だけど!!



「スーーーーパーーーーーー! ヒーーーーローーーーーーーー!! 着地ッッッ!!!!」



 ドンッ──ゴオオオォッッッ!!!!


 タイミングよく着地した瞬間、地面が深く陥没してクレーターを作り、衝撃波が周りの木々を大きく揺らした。



「〜〜〜〜ッッッ……!! ぷはぁあ〜……い、生きてる……」

『ナイス着地』

「テメこらモモチおら。ぶちのめすぞ」



 てか、よく生きてたな、俺……あ、ちょ、待って。脚痺れてきた!



「継武くんっ……!」

「え? あ、リリーカさん!」



 よかった、ここであってたみたいだ。変な場所に落ちたらどうしようかと……ん?

 よく見ると、リリーカさんはかなり疲弊している。

 それに……もしやその腕に抱かれているのは、魔法少女ユーチューバー、ミケにゃんでは? うっそ、俺大ファンなんだけど。

 2人とも、かなりボロボロだ。相当手強い相手だったのかな。

 周りに魔物はいないし、もしや俺、遅かった?



『まだだよ継武っ。上を見て!』

「上? ……ォウ……」



 でっっっっっっっ………………か……。何あれ、魔物?



『先にいたホーンウルフは、リリーカとミケが倒した。その後に、あれが現れたんだ』

「マジか」



 あんなの、どうやって倒せっちゅーねん。無理だろ、どう考えても。



「これ、逃げちゃダメ?」

『ダメだよ。今、近隣の魔法少女たちに緊急招集をかけてる。それまでに、3人で持ち堪えて……!』



 3人でって……うち2人は既にボロボロ。俺は今日が初戦闘なんですが。

 自分の戦い方も確立してないし、何よりどれだけ戦えるかも未知数だ。そんな状況で持ち堪えるなんて、できっこない。

 もう一度、上空の穴から顔を見せているホーンウルフに目を向ける。

 こっち側に来ようとしているけど、どうやら穴が小さくて、顔だけしか外に出せないみたいだ。



「コロロロロロロロロ……!!」



 腹の底に響くような唸り声が響き、苛立ちが伝わってくる。

 でも、こっちに来れないならこのまま無視しても……。

 その時、蛇腹に生えた牙を見せつけるよう、ホーンウルフの口が大きく開き……口の奥で、仄暗い光が灯ったのが見えた。



「何あれ」

『ヴォルフ・シュトラールだ! ここら一帯を吹き飛ばすつもりだよ!』

「ヴォル……何?」

『破壊光線だ!』

「カッコいい名前だけど物騒!?」



 待って待って待って! あの大きさでそんなの撃たれたら、本当にここら辺消し飛ぶんじゃないの!?



「継武くん、逃げろ! あれは受けてはダメだ!」



 リリーカさんも危険を感じたのか、光の翼を広げてミケにゃんを連れて飛び立つ。

 に、逃げろっていっても、どこに逃げればいいんだ……!

 仄暗い光が凝縮していき、ドス紫色の球体となる。

 紫電を帯びた光が徐々に大きくなっていき、辺りに暴風が吹き荒れた。



『継武! リリーカの言う通り、ここは逃げるしかないよ!』

「わ、わかっ……あ、ちょっと待ってくしゃみ出そう」

『今!?』



 だってこの衣装、結構露出が多いんだもの。その上こんな暴風が吹き荒れてたら、肌寒くてくしゃみの1つや2つ出したくなるって。



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ──!!!!!!」



 ──ズオオオオオオオオォッッッ!!!!!!


 ホーンウルフから放たれた、超巨大なヴォルフ・シュトラール。

 周辺の空間が歪むほどの高密度エネルギーが、地上に向けて落ちてくる。

 そんな危険な状況でも、生理現象には逆らえず……俺は思い切り、くしゃみをした。



「ふぁっっっくしょおおいっ!!」



 ──ドッッッッッッッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!


 くしゃみをした瞬間、俺の口から何かが放たれ、落ちてくるヴォルフ・シュトラールと激突。

 何かは破壊光線を貫き、砕き、押し返し……ホーンウルフの口の中へ、光線を押し返した。



「ッッッッッッッ!?!?!?」



 押し返しされたヴォルフ・シュトラールを飲み込むと、ホーンウルフの顔が歪に膨らみ……爆散。

 紫色の花火となって、空間の穴ごと消滅した。



「はふ……すっきり」



 あ、やべ。鼻水垂れてきた。

 ハンカチで鼻水をかむと、俺の肩に乗っていたモモチが愕然としていた。



『えぇ……ただのくしゃみで、アレを押し返した……?』

「ただのくしゃみじゃなくて、何か口から出てたぞ。そんな感じするし」

『ううん。僕が見た限り、あれはただのくしゃみだよ』



 はっはっは、そんな馬鹿な。……え、本当に言ってる? ただのくしゃみで、あの高密度エネルギーを押し返したの?

 ……魔法少女、やべぇ……。



「継武くんっ」

「あ、リリーカさん」



 あいつが消し飛んだことで脅威はなくなったからか、リリーカさんが俺のところに戻ってきた。

 やっぱり疲労困憊みたいで、今にも倒れそうだ。



「継武くん、今のはいったい……? 君の必殺技か?」

「……なんか、ただのくしゃみみたいです」

「…………」



 やめて。その「何言ってんのこいつ?」みたいな目で見てこないで。



「そ、それより、まずミケにゃんを病院に連れていった方が……」

「……それもそうだな。ミケ、少し揺れるが辛抱しろよ。……ミケ?」



 リリーカさんに抱かれているミケにゃんは、呆然とした様子で俺を見つめている。

 え、何? なんか俺の顔についてる?



「ミケ、大丈夫か?」

「ふぁいっ? あ、はい、大丈夫れす」



 もう呂律すら回っていない。かなり重症みたいだ。



「継武くん、詳しいことは後で聞く。いろいろ聞きたいこともあるからな」

「わかりました」



 リリーカさんは再び飛び上がると、ミケにゃんを連れて行ってしまった。

 あぁ。ミケにゃん、心配だ……早く良くなるといいけど。



『やれやれ。継武の潜在能力は凄まじいものだとは思っていたけど、まさかここまでだなんてね』

「え、みんなくしゃみがあんな威力になるんじゃないの?」

『なるわけないでしょ? 馬鹿なの?』



 ド直球にディスられた。



『とにかく、継武は力のコントロールを覚えなきゃ。コントロールの仕方は、リリーカに教えてもらうといいよ。あの子はその辺、得意だからさ』

「モモチは教えてくれないの?」

『あ、電波が』



 え、おい。

 ……モモチの奴、逃げやがった。もうただの餅のぬいぐるみに戻ってる。

 はぁ……初戦闘の決まり手がくしゃみとか、締まらねぇなぁ……俺も、病院に帰ろ。



   ◆◆◆



 ミケにゃんチャンネル・コメント欄


『かわいい』

『え、かわ……』

『かわいいな、この子』

『てか可愛すぎないか』

『こんな子がリアルでいるなんね思えない』

『さすがに可愛すぎて惚れた』

『すげーでかいくしゃみしてたけど』

『くしゃみ助かる』

『くしゃみでヴォルフ・シュトラールを押し返してたぞ』

『命助かる』

『バケモン強いやん』

『でも見たことないな』

『リリーカたん、なんて言ってた?』

『ノイズが凄くて聞き取れなかった』

『つぐ……?』

『ツグミだったような』

『魔法少女・ツグミか』

『可愛すぎる魔法少女』

『推そう』

『俺も推す』

『ツグミン可愛いよツグミン』

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