第8話 光の斬撃

   ◆◆◆



(リリーカ様に頼られたリリーカ様に頼られたリリーカ様に頼られたリリーカ様に頼られたリリーカ様に頼られたリリーカ様に頼られたリリーカ様に頼られたリリーカ様に頼られたリリーカ様に頼られたリリーカ様に頼られた……!!)



 人生最大の幸福を味わっているミケにゃんは、限界を超えた超高速の動きでホーンウルフへ接近する。

 光が後ろへ流れ、木々の間を縫うように走る姿は、まるでアッシュグレーの流星。

 今までに見たことのないスピードに、コメント欄も大盛り上がりをみせていた。



『はっっっっっっや!?』

『行けー!!』

『ナゲゼニ50000円:ミケにゃんすご!!』

『これがミケにゃんの本気……!?』

『ガチでスピードだけならリリーカたんといい勝負なのでは』

『ナゲゼニ10000円:うおおおおおおお! 頑張れミケにゃん!!』



 同時視聴数過去最多の900万人。世界中からも、ミケにゃんとリリーカへの応援のコメントが届く。

 しかし、戦闘中のミケにゃんはコメントも、視聴者数を見ることもできず、目の前の敵に集中していた。



(硬すぎる体毛のせいで、体の表面からは攻撃が通じない。多分攻撃が通じるとしたら、咆哮を放つ時に開く口の中だけ……)


「それがどーしたあァッ!!」



 木の枝を掴み、勢いのままぐるりと回って急遽方向転換。

 ホーンウルフの脇から飛び出すと、腹部に向け蹴りを叩き込んだ。

 めり込んだ蹴りにより、ホーンウルフの体が大きく傾いた。



「■■■■■■■■■■■ッッッ──!!」

「うッ……!?」



 が、しかし。ホーンウルフは高速でミケにゃんの方を向き、牙を剥き出しにして噛みついてきた。

 寸前の所で回避するも、膨らみのあるスカートが食いちぎられてしまう。



「にゃあーーーー!? 私の衣装がーーーー!?」



 実際は、再度変身したら元に戻るのだが……それでも一張羅を破かれたことには変わりない。

 瞬間湯沸かし器のように激怒したミケにゃんは、瞳に怒りの光を灯らせる。



「こんのっ……犬っころの分際で調子に乗るな!!」



 両手両足から、鎌のように鋭利な爪を生やす。

 その時、ホーンウルフが前足を持ち上げ、ミケにゃんの爪よりも凶悪な形の爪を見せた。



(あ、まずっ──!)



 直感で何かを察したミケにゃんが、その場から大きく回避する。

 次の瞬間。クイッと曲げた前足から、5つの漆黒の斬撃が放たれ、地面を深く抉った。



「うっそ……!?」



 今のはホーンウルフの技の1つ、ヴォルフ・メッサー。

 通常サイズでは木を斬り裂く程度、、の威力だ。魔法少女の耐久力を持ってすれば、避けずに受けきれるが……これはそんなものではない。数倍……いや、十数倍もの威力がある。

 もし避けていなかったら、真っ二つだっただろう。



「っぶなぁ〜」



 が、ここで惚けている場合ではない。

 ミケにゃんはしゃがみこみ、脚に力を溜め……地面を蹴った。

 地面が陥没し、そのままの力が推進力となって、最初からトップスピードを叩き出し、ホーンウルフの眼前に迫った。



「うにゃにゃにゃにゃーーーー!!」



 ホーンウルフに負けず劣らずの威力で、顔面に爪を立てる。

 だがしかし、やはり剛毛で覆われた肌には傷一つ付けられず、ホーンウルフは鬱陶しそうに頭を大きく振った。



「ぐっ……!?」



 1本の角が鞭のようにしなって迫り、腕をクロスしてガードするが、横っ腹を思い切り殴られる。

 まるで無防備なところをバットでフルスイングされたかのような威力に、ミケにゃんの肋骨から変な音が聞こえ……意識混濁のまま、吹き飛ばされた。

 木々を十数本も薙ぎ倒し、ようやく止まる。

 ぶつかった衝撃のおかげで意識を落とさなかったが、正直これ以上は戦えなかった。



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ──!!!!」



 勝利の雄叫びを上げるホーンウルフ。

 だが、直ぐに別の気配を感じ取ったのか、ある咆哮に目を向けた。

 天空に向かって伸びる、光の柱。

 その中に、大剣を大きく振り上げて構えているリリーカの姿があり……。



「ありがとう、ミケ。──ルミナス・イラディケイトッ!!」



 大剣を、振り下ろした。

 放たれた光の斬撃は余りにも巨大で、それでいて慈悲を感じさせる暖かさを秘めていて……ホーンウルフは逃げることも、抵抗することもなく、光の斬撃に飲み込まれた。

 時間にして数秒。辺りを照らしていた乳白色の光は収まり、後には真っ二つに切断されたホーンウルフの亡骸と、100メートル弱に渡って切断された森が残されていた。



「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」



 さすがのリリーカも力を出し切ったのか、全身から汗を流して肩で息をしている。

 大剣が光の粒子となって消え、急いでミケにゃんの元に向かう。



「ミケっ、大丈夫か?」

「は、はい……ギリギリですけどね、はは……ぅっ」

「喋るな、傷に響く」



 倒れているミケに寄り添い、治癒の光で包み込んだ。

 かなりの重症だ。急いで病院に連れていかないといけない。



「でゅふ……今私、リリーカ様に包まれてりゅ。でゅふふ」

「冗談を言える元気があるなら、何よりだ」


『いや、これは冗談じゃない』

『ミケにゃんはリリーカたそリアコだから』

『ミケにゃんの顔気持ち悪い』

『これはファンもドン引き』

『さっきまではカッコよかったのになぁ』



 とにかく、あとは修復専門の魔法少女たちに任せて、ここを離れよう。

 もう変身を維持するだけの力もない。いつ変身が解けてもおかしくないだろう。

 ミケにゃんをお姫様抱っこで持ち上げ、光の翼を開こうとした──その時だった。



『リリーカ、ミケ! まだだよ!!』

「「ッ!?」」



 頭の中に、モモチの声が響いた。

 声に反応し、上空を見上げると……さっきホーンウルフが通ってきた穴が、塞がっていない。

 いや、それどころか……何か別の生物が、顔を覗かせていた。

 形だけ見ればホーンウルフだが……顔だけしか見せていないのに、さっきのホーンウルフを丸呑みにするほど巨大だった。

 いや、巨大なんて言葉では形容できない。

 あれが地球に出て来たら……間違いなく、人類の破滅だ。



「ぁ……ぁ……ぁ……」

「くっ……!」



 絶望の表情を浮かべるミケにゃんと、再び大剣を作り出し、上空のホーンウルフを睨みつけるリリーカ。



(さっきの戦闘で力は使い果たした。いったい、どれ程抵抗できるか……!)



 ホーンウルフの目が2人に注がれる。

 その目は、獲物を見つけた獣の目ではない。

 路傍の石ころを見つめる、虚無の目だった。



「ミケはここにいろっ。あいつは私が……ん?」



 魔法少女となって強化されたリリーカの目が、穴の更に上空にある何かを捉えた。



「──………………ぁぁぁぁ……」

「……なんだ……?」



 何か、声が聞こえる。

 ミケにゃんも気付いたのか、呆然とそれを見つめていた。



「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああ……!」

「り、リリーカ様、空から女の子が」

「あ、あれは……」



 漆黒の洋装。漆黒の髪。紫色の瞳。そして、同性の自分から見ても見惚れるほど、美しすぎる容姿。


 ──神楽井継武が、そこにいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る