第6話 魔法少女ユーチューバー
◆◆◆
「みんなー、オッハロー!☆ 今日も魔法少女・ミケにゃんの配信に来てくれてありがとー! 今日もたくさん楽しんでいってね♡」
猫耳、猫尻尾、猫の手足、愛くるしいスマイル。
それをドローンカメラに見せつけると、スマホのコメントが物凄い勢いで流れる。
『オッハロー!』
『オッハロー!』
『待ってたー!』
『ミケにゃん今日も可愛いよ!』
『キャーミケにゃーん!!』
『相変わらず可愛い』
『オッハロー!!!!』
コメントに対し、ミケにゃんは満面の笑みを見せる。
魔法少女の配信者は増加しているが、それでも数は少ない。その中でもミケにゃんは、魔法少女として先駆けて配信者になった始祖的存在だった。
魔法少女は可愛い・強い・戦うの三拍子が揃っている。そして普段は間近で見ることのできない異世界の魔物を、インターネットを通して世間に配信することができ、視聴者数や登録者数もうなぎ登りに獲得できる。
今もミケにゃんの配信は、同接数30万人越え。今も着々と増えており、普通の配信者の数十倍もの視聴者数を誇っていた。
「今日はこの付近に魔物が現れるそうだから、ちょちょいと倒しちゃうよ! 私頑張っちゃうから、応援よろしくね♡」
『ナゲゼニ5000円:頑張れ!!』
『ナゲゼニ3000円:前祝い』
『ナゲゼニ10000円:無理しないでー!』
『ナゲゼニ3000円:倒したら焼肉かな』
『ナゲゼニ1500円:今日はどんな魔物が出てくるか楽しみ!』
コメント欄がナゲゼニで埋め尽くされていく。
平均同接数数十万人。このナゲゼニ祭りも、もはや恒例となっていた。
毎配信ごとに行われるナゲゼニ祭りに、ミケにゃんも感謝して──
(にひひひひっ。今日もいっぱいナゲゼニが飛んでる〜っ♪ そう言えば、あのブランドの新作が明日から発売だっけ。やっぱ配信業はやめられませんなぁ)
ることはなく、可愛らしい顔の裏でゲスいことを考えていた。
──その時、ミケにゃんの耳がピクピクと反応する。
「おん? にししっ……キタキタキタ、来たァ!!」
ミケにゃんのアッシュグレーの髪が逆立ち、上空を見上げる。
はるか上空に浮かんでいる、青黒い物質……いや、穴があった。
空中にできた穴は歪み、一定の形を保っていない。
質量を持っていると錯覚するほど黒い穴は、青い光を放ち……巨大な狼が、こちら側へ飛び出してきた。
ホーンウルフ。体長3メートルの怪物……の、はずが。
「──ぇ……?」
巨大。余りにも、巨大。
明らかに巨大なそれは、太陽を遮り……辺りに、夜を作った。
「で……デカあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!?!?」
いつもの愛らしい表情とリアクションを忘れ、ミケにゃんは超高速で回避行動を取る。
直後、ミケにゃんのいた場所を、巨大な脚が踏み抜いた。
地面が陥没し、衝撃波が周囲の木々を薙ぎ払う。
「にゃああああああああっ!?」
衝撃波と風圧を、ミケにゃんは樹木にしがみついて踏ん張る。
コンマ数秒の風圧だったのにも関わらず、ミケにゃんには数秒……いや、数分にも感じられた。
「はぁ、はぁ、はぁっ……な、何、アレ……?」
体長3メートルどころではない。10……20……いや、もっとある。
6本脚と8つの目、2本の角は紛れもなくホーンウルフの特徴だが、余りにも巨大すぎた。
ホーンウルフの鼻がヒクヒクと動き……鋭い眼光がミケにゃんへと注がれた。
口が大きく開かれ、底なし沼のような喉が開かれる。
(あ、死ぬ)
恐怖も何もない。今彼女の心には、『死ぬ』という純然たる事実のみを受け取っていた。
覚悟を決める時間も、暇も、余裕もなく。
ホーンウルフから放たれたブレスは、瞬く間にミケにゃんを飲み込み──
「ミケ!!」
──寸前で割り込んできた光の帯がミケにゃんを包み込み、ブレスの勢いを相殺した。
「こ、この光の帯は……まさかっ」
ミケにゃんが上空を見上げる。
そこに……光の翼を羽ばたかせた、天使を視界に入れ、目をハートにして見開いた。
「り……リリーカ様ぁ!!♡♡♡♡」
『うおおおおおおおおお!!!!』
『!?!?』
『リリーカたん来たああああああ!!』
『天使! 天使!! 天使!!!』
『ナゲゼニ10000円:神回キタコレ!!』
リリーカはミケにゃんの前に立ち、ホーンウルフを睨みつける。
「ミケ、大丈夫か?」
「は、はいっ♡ 微塵も怪我はありません……!」
「よかった」
リリーカに笑いかけられたミケにゃんは、うっとりとした顔で両頬を手で覆う。
そう、何を隠そう魔法少女・ミケにゃんは……魔法少女・リリーカに憧れて魔法少女となった、重度のファンなのであった。
「それで、ミケ。アレは本当にホーンウルフなのか?」
リリーカの登場によって、ホーンウルフは警戒するようにこちらを睨んでいる。
が、動かない。リリーカの戦闘力を察知して、無闇に動かない方がいいと悟ったらしい。
「は、はい、恐らく。すみません、リリーカ様。ホーンウルフであれば私だけでも倒せると思っていたのですが……」
「謝る必要はない。私たちは魔法少女。魔物を倒して、地球の危機を守る存在だ。手伝ってくれるか?」
「は……はいっ! もちろんです、リリーカ様!♡♡」
リリーカオタクを自負しているミケにゃんだが、まさかリリーカと共に戦えとは思ってもみなかった。
死や、敵に対する恐怖はどこにもない。
ミケにゃんの体には、今までにない高揚感とやる気に満ち溢れていた。
「〜〜〜〜ッ! リスナーたちっ、注目!! 今から魔法少女・ミケにゃんと、魔法少女・リリーカ様のコラボ戦闘ッ、始まるよー!!!!☆」
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