第4話 美少女の理由
短い髪が、驚くほど長く。
ゴツゴツとした指が、しなやかなものに。
なだらかな胸は、瞬く間に膨らみ。
身長に合わせ手足が縮み、全体的にバランスのいいプロポーションへと変化する。
そして、服装。
魔法少女然としたヒラヒラの服装だが、ミニスカートではなくロングスカート。
靴はロングブーツで、高いヒール。
胸の下はきつく締め付けられているが、そのせいで胸のデカさが際立つ。
頭には大きなツバ広の帽子。これも、可愛らしいデザインが施されている。
胸元のリボンと、腰の大きなリボンの色は、瞳と同じくヴァイオレット。
部屋に備え付けてある鏡に写る俺は、まさに理想の美少女となっていた。
「おぉ……おぉっ……! 俺、可愛い!」
声も可愛い! なんだこれ! マジで自分の声なの!?
『やれやれ……僕もいろんな魔法少女を覚醒させて来たけど、「美少女になりたい」が願いの子は初めてだよ』
「いいだろ、別に。俺は男なんだからさ。理想の美少女になれるチャンスがあるなら飛びつくさ」
だからそんな呆れた顔をするな。
『まあ、君が気に入ったならいいけど……それより、これからは魔法少女として、バンバン活躍しないと!』
「え、活躍?」
『もちろんさ。地球の平和を守るために、魔法少女として覚醒させたんだからね』
…………。
「あのぉ〜、それって強制だったりします……?」
『え? 強制というより、一週間に一回は魔物を倒さないと、魔法少女としての力は失われるけど……』
げっ、マジかよ……!
ちきしょう。せっかくいつでも可愛い女の子に変身できる能力を手に入れたんだから、自分を愛でるだけの生活をしていきたかった……!
『……まさかとは思うけど、戦わくて済むなら戦わない、とか思ってたんじゃ……』
「や、やだなぁ。確認だよ、確認」
『本当かなぁ……?』
はい。思い切り思ってました。
はぁ〜……まあ、一週間に一回のノルマを達成すれば良いみたいだし、そこは我慢するかぁ。
『それじゃ、僕はもう行くよ。継武くんは魔法少女になったばかりだから、しばらくは近くに魔物が現れた時にだけテレパシーを送るね。慣れてきたら、もう少し遠くの魔物も対応してもらうよ』
よろしくね、と言い残し、餅のぬいぐるみは動かなくなった。
ふぅむ……まさか、こんなことが現実に起こるとは思わなかったな。というか、男の俺が魔法少女って……。
そっとため息をつくと、不意に体に力が入らなくなった。
あぁ、そうか。今は深夜……いや、もう早朝になり掛けの時間だ。緊張の糸が切れて、一気に眠気が来たんだろう。
今の俺は、入院の身。まずはゆっくり寝て、回復に努めないと。
そのままベッドに横なると、体が脱力し、発光と共に元の男の体に戻った。
自分の意思一つで女に変身でき、男にも戻れる、か。……癖になったらどうしよう。
魔法少女は18歳まで。俺は16歳。あと2年……あんまり女に慣れないようにしないと、後が大変そうだなぁ。
◆◆◆
「えっ!? もう変身しちゃったんですか!?」
翌日もお見舞いに来たリリーカさんは、驚いたように前のめりになった。
まあ、昨日の今日だもんな。そりゃ驚くか。
因みにリリーカさんは今、変身していない。普通の真城凜々夏さんとしてここにいる。
「まあ、はい。モモチと話してたら、深夜テンションでなんやかんや」
「そんな深夜テンションでラーメン食べちゃった、みたいなノリで変身した魔法少女、初めて聞きましたよ……」
普通状態のリリーカさんも、さすかに呆れているみたいだ。うん、俺も若干自己嫌悪中。もう少し考えてから行動しようのいい例だ。
「……ぁっ。すっ、すすすすすみませんっ。私なんかが、人様のことに口出しを……! 舌噛んで詫びます! もしくは割腹を……!」
「しなくていい、しなくていい」
あ、いつものリリーカさんだ。てか割腹なんて日本語、リアルで初めて聞いた。
今にも切腹しそうなリリーカさんを止めて椅子に座らせると、ようやく落ち着いたのか、お茶を飲んでほっと息を吐いた。
「しょっ、それで……継武しゃんは、どんなことを願ったんですか……?」
気になるのか、リリーカさんはチラチラと上目遣いでこっちを見てくる。
そりゃそうだ。新しい魔法少女……つまり仲間ができたんだ。気にならないという方が無理がある。
まあ、隠すようなことでもないし、正直に伝えるか。
「美少女です」
「…………」
いや、そんな宇宙にゃんこみたいな顔をされても。
「……ごめんなさい。一瞬難聴になったみたいで……もう一度教えてくれませんか?」
「美少女です」
「聞き間違いじゃなかった!?」
愕然とした顔でドン引くリリーカさん。そんなに引くことか?
「な、なんて勿体ないことを……! 継武さんは、男の子にして魔法少女の才能に選ばれるほどの逸材なんですよ!? それなのに、美少女を願うなんて……!」
「いや、それは違います。俺は俺なりに考えて、この結論に至りました。俺が美少女を願った理由は、大きく分けて二つあります」
「な、なんですか……?」
大仰な態度の俺に、リリーカさんは喉を鳴らす。
「一つ目……魔法少女に変身できるからと言って、美少女とは限らない!」
「…………」
「やめて、そんな目で俺を見ないで」
長い前髪の向こうからでもわかる。リリーカさんは今、虫を見るような目で俺を見ていた。
「い、いや、これは中々に合理的だと思いますが。リリーカさん……いや、真城凜々夏さんは、元々が可愛いから、変身しても可愛いじゃないですか」
「かわっ!?!? そっ、そそそそそそんなっ! 私なんてその辺のナメクジにも劣る芋女オブ芋女だし、学校ではいじめられてるし、かかかかかか可愛いだなんておこがましすぎてててててててて……!!」
顔を真っ赤にして、髪の毛を握ってもしゃもしゃするリリーカさん。え、可愛い。自覚ないのか、この人。
あぁ、そうか。こういう性格だから、自己評価が恐ろしく低いんだな……はっきり言って、今まで見てきた女の子の中でダントツで可愛いのに。あ、変身後の俺を除いて。あれは俺の理想だから。俺、可愛い。
「こほん。いいですか?」
「ぁ……しゅみましぇん」
まだ恥ずかしいのか、モジモジしながら俺の話に耳を傾ける。
うーん、やっぱり可愛いな……自覚のない可愛い子って、なんかそそられる。
「話を戻すと……俺は元が男なので、魔法少女に変身しても可愛い女の子になれるとは限りません。これが、一つ目の理由です」
「な、なるほど……? ゎ、私にはわかりませんけど、何か崇高な理由が隠されているんですね」
いや、ただ純粋に、変身するなら可愛い女の子がいいってだけです。
「次に二つ目なんですが、俺としては、こっちが本命の理由です」
「そ、それは、いったい……?」
…………。
「俺が、変身しても男のまま……という可能性です」
「…………」
今度は生ゴミを見るような目で見てきた。
「いやいやいやいや! 大事でしょうこれは!? 男の俺が、魔法少女みたいなキラッキラでふりっふりの服を着てメディアに映った日には、明日からどんな顔して学校に行けばいいんですか!?」
もし学校の奴らにそんなところを見られた日には、俺はもう学校に行けない! というか、世界中の笑いものにされて生きていけない!
「俺は! 俺の幸せのために美少女を願ったんです! 何よりも大事でしょう!?」
「まぁ……はい。もう好きにすればいいと思います」
あれ、おかしいな。こんなに近くにいるのに、すごく距離が遠くなった気がする。気のせいかな??
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