第22話 想像を絶する哀しみが僕を襲ったとか襲わなかったとか

== 17 ==



 オレの能力がつまびらかになるまで、結局のところ四日間をついやすことになった。

 どうしてそんなに時間がかかったのかと言えば──はっきりと言おう、僕の能力の燃費が恐ろしく悪いからだ。


 能力検証初日。

 僕はドウェインの監視下で、選ばれた騎士達と対峙することとなった。最初に、公平性を保つため無作為ランダムに選出された相手に命令オーダーを試みたのだが、盗賊騎士バドラークこころみた通り、必要な魔力量が莫大であるらしい。


 簡単な命令オーダーを唱えた瞬間、僕の魔力はあっさりと枯渇して気絶。しかも、「指を曲げろ」と言った簡単な命令オーダーであるにも関わらず、あっけなく抵抗レジストされた。

 どうやら、命令に必要な魔力量は相手の魔力量によって変動するらしく、相手が格上の場合は簡単に抵抗される仕組みらしい。相手に命令を強制する過程で、従わせる"圧力"みたいなものを僕の魔力を使って身体に掛けていくものらしく、相手の魔力が多ければ多いほどその消費がデカイ。それこそ、一度の命令で魔力量が枯渇するくらいに。燃費が悪いどころの話じゃない。


 ……バドラークなにがしの魔力量が少なくて本当に良かったと、伯爵家の医務室で、心の底から思った。


 魔力が尽きた際の頭痛と吐き気、そして全身を襲う倦怠けんたい感に耐えながら、その日二回目の実験に挑んだ僕だったが、今度はもっと魔力量が少ない騎士を相手に命令オーダーを試みた。結果は、即座に気絶はしなかったものの、やはり魔力が枯渇。頭痛と気持ち悪さがピークを迎え、その場で胃の内容物を吐き出すという惨状さんじょうに終わる。

 その日、二度目の医務室急行により、医務官から滅茶苦茶怒られました。


 初日の結論は、『魔力量が多い相手ほど命令が通らない』というシンプルなものだった。


 検証二日目。

 今回は相手をさらに下げ、小型の魔物で試すことになった。ドウェインの配慮で、森から捕まえられてきた草狼バータントウルフが実験台になった。しかし……結果は惨敗ざんぱい


 どうやら僕の能力は、「命令を理解できる知能を持つ相手にしか効果がない」らしい。草狼バータントウルフが僕の命令オーダーを理解することはなく、仕方なく犬の吠え真似をしてみると、ようやく「吠える」という命令が通じた。


 恥ずかしいったらありゃしない。


 吠え真似の成果を得るまでに無駄に時間を費やしてしまい、この日の実験はそれで終了となった。


 検証三日目。

 また魔力量が一番すくない騎士を相手に、命令オーダーすることになった。また倒れるかもしれないという、嫌な予感しかしなかった。

 今度の実験内容は、「命令を細かくしてみたらどうか」という事だ。結果は……成功。

 どうやら、初日の「指を曲げろ」という命令オーダーは手足二十の指に、負荷を掛けるものだったらしい。負荷を掛ける部位を絞れば、魔力消耗の軽減と抵抗率減少レジストしにくいという事が判明した。

 と言う訳で、どれぐらいの大きさの部位までなら、今の魔力量で命令オーダーを通す事が出来るか検証実験。魔力枯渇の反動に、顔を蒼褪あおざめながら命令する様子は、どこか前世の残業限界職場デスマーチを思い起こすものだった。

 医務室に運ばれること、三回。


 検証四日目。

 「他者がダメなら、自分に命令したらどうだろう?」と考え、自分自身を対象に実験してみた。試しに「力を振り絞れ」という命令オーダーを下したところ──これが効果抜群だった。


 命令オーダーに応じて発揮された力は、バドラークと戦った時をもはるかに凌駕りょうがしていた。魔力もそれほど減っていない。どうやら自分に掛ける分には、抵抗がない分だけ魔力が軽減されるらしい。付き合ってくれた騎士達も「ようやく成果らしい成果だ」と、ほっと胸を撫でおろしていたが……その代償は大きかった。


 命令オーダーの効力が切れると同時に、腕の筋繊維がブチブチと千切れるような感覚と激痛が僕を襲った。どうやらこれは、脳が本来かけているリミッターを外す力であるらしく、その反動が体に深刻なダメージをもたらしたのだ。


 結果──またしても医務室送りである。


 医務官の人に「またか」と、目を吊り上げて説教されてしまった。合計、六回も医務室のベッド占領してれば、そりゃ怒られるわ。

 僕の能力の検証に立ち会ってたドウェインも、思わず苦笑い。ジェイムズ伯爵様も「流石にもうすこし……手心を加えたらどうか……」と、ドウェインに掛け合った事もあったと、後で聞いた。

 まあ、そのドウェインは「必要な事ですよぉ、御屋形様」とニッコリと意見を斬り落としていたそうだが。あいつ、こえーよ。僕何かしちゃいました?


 さて、四日間にわたる検証を経て得られた結論は、『実に使いづらい能力』というものだった。当然だよね。使うたびに倒れてるんだから。


 ただ、一つの副産物として、僕の声が耳に心地よく、何かしら人を惹きつける性質があることが分かった。

 喉が魔触部位となった影響なのか、聞いた人の心にするりと入り込むような『天使の声』に聞こえるらしい。いや、それは悪魔じゃ……?


 待ってほしい。それって──どう考えても、敵地に潜って民意を扇動する、工作員向けの能力じゃないか……?


 僕は騎士になりたいだけであって、間者スパイの才能を開花させたいわけではないんだけど!?


 頭を抱える僕に、心なしか周囲の騎士たちの好感度が上がっている気がしたのは、そういう事だったようだ。まあ、ドウェインの鬼畜待遇実験も加味してのことだと思うが……あの不良騎士、やっぱ怖いわ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る