第18話 領地持ってるのに謙虚なお貴族様はすごいなー あこがれちゃうなー(棒読み)
軽食のホットサンドを胃袋へ詰め込み、ひと息つく間もなく、
<ミモザ>伯爵といえば、領民想いで知られる名君であり、同時に溺愛する娘への過保護ぶりが噂される人物だ。その執務室はというと、これ見よがしな豪華さではなく、どこか落ち着いた品格が漂っていた。調度品はどれも実用性を重視したものばかり。ただ一点、壁に掛けられた家族の肖像画だけが、その空間に温かみを添えている。
「来たか」
執務机の向こうから響いた声に、僕は背筋を伸ばした。
声の主、<ジェイムズ=フォン=ミモザ>は、撫でつけた白髪交じりの
口元に僅かに髭を
齢三十にして、伯爵領の
正直、かなり居心地が悪い。表情筋が乏しいのか、ピクリとも表情を動かさない。
今回、モニカ救出で切った張ったの現場で大立ち回りした訳だが、元々の原因は僕がモニカを激しく叱責したことが原因だと認識している。僕は、内心で冷や汗を滲ませた。
「ありがとう、ペッスくん。彼をここに連れてきてくれて」
「はっ。しかし、伯爵様。我ら使用人に礼は不要と何度も御伝えしております」
「いや、それでもだ。君たちが手間をかけてくれることに、感謝を忘れては人の品格が問われる」
「伯爵様は貴族で御座います。伯爵様のお手が
伯爵の穏やかな言葉に対し、ペッスさんは
──いや、誰よ。君。人を珍獣扱いしていた、あの無礼な君は何処へ行った。それに、その
対する伯爵様は、どこか居心地悪そうにしている。腰が低い方であるとは思っていたが、使用人にもそういった態度を崩さないのは貴族としてどうなのだろうか。
貴族というのは、偉そうにしてなんぼの地位なのである。何故なら、彼が領地の顔だから。御しやすいと思われるような態度など、領地に悪徳を呼び込むようなものだ。なら、
そんな思いが顔に出ていたのか、伯爵様は咳払いをひとつすると、僕に座るよう促してきた。
執務机の脇に、応接用のソファーに腰を掛ける。ソファーは大人用らしく、僕が座っても足が着かない。五歳児なんだ、しょうがないだろう。なので、あまり行儀がよろしく無いが足は着けず、代わりに、足を遊ばせないようにぴしっと膝を前に揃えている。
伯爵も執務机から離れて、応接用のソファーに腰を掛けると、僕をまっすぐ見据えて口を開いた。
「この前すこし話したね。この地を預かっている、ジェイムズ=フォン=ミモザだ。そして──まず、娘のモニカを救ってくれてありがとう。君がいなければ、娘がどうなっていたか、考えるだけでも恐ろしい……。本当に、本当に感謝している」
伯爵はそう言うと、深々と頭を下げた。その行為に、僕の頭は真っ白だ。
ちょ、やめてくれ。お貴族様に頭下げられるとかあとが怖いわ!!現に、ペッスさんがすごい目でこちらを見ている。
声が裏返るのも気にせず、僕は叫ぶようにしてジェイムズの
「い、いえ!その、お、恐れ多い!ジェイムズ閣下、どうか頭をお上げください!私めのような平民に
「そうか……。確かに、平民にとって貴族の礼なぞ、負担でしか無いかもしれないな。だが、どうしても、一度だけ、君に感謝伝えたかった」
けじめだから。そう言って、伯爵様は静かに顔を上げる。表情の変化は乏しいが、すこし険しさが取れたようにも感じた。その冷えた瞳の奥にほんのわずかな柔らかさを見せた。
「しかし、私の部下――領主の家に仕える騎士が、このような不祥事を起こしたことは、誠に汗顔の至りだ。綱紀粛正は避けられぬだろう」
「はい……。ですが、どうして騎士が、野党紛いの事をしたのでしょうか」
そうだ。僕としても、そこが気になった。僕は思わず問い返した。
何故かって?そりゃ、こんな五歳児の時期に攫われるなんて
事件解決した僕(中身合計アラフォー)が、トンデモ存在なだけで普通の五歳児にゃ荷が重すぎる。
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