第17話 見事な歓待だと関心するがこいつはおかしい

== 15 ==



「知らない天井だ」


 オレは意識を取り戻して、開口一番にそうつぶやいた。有名になりすぎて、元ネタがどこからだったかすら知らないほど引用されている一文だ。それを自分が言うことになるとは人生わからないものだ。


それは置いといて。


 こんな高い天井は、それほど見たことがない。見事な梁が打ってあって、どう考えても今世の実家ではない。多分、これ、お貴族様の部屋──そう思うと、一気に霞が掛かっていた思考が、はっきりとした。そうだ、あれからどうなったんだろう。


 僕は身体を起こす。如何いかにも質が高そうな毛布が肌を滑る。左右見回してみると、誰もいない。けれども、背が低い椅子が一脚、ベッドの傍らに置いてあった。

 十中八九、<ミモザ>伯爵様のお家であると想像できたが、なんで僕がここに寝かされているのかが解らない。騎士でも小間使つかいでもない、ただの平民なんだが……困惑の色が濃くなる。


「おや、目を覚まされましたか」


 涼しげな声が聞こえる。ぴしっとした燕尾服を着た執事が、扉からタイミングよく現れた。

 僕はぽりぽりと頬を掻いて、


「えっと、まずここはどこ、からでしょうか?」


 と、なんとも締まらない質問を投げかけるのだった。




== ○ ○ ○ ==



 やはりここは、ミモザ伯爵家で合っていたらしい。客間の一室を、伯爵様は僕に貸し与えてくださっていたようだ。


 僕は一週間もの間、眠り続けていたらしい。若執事のペッスさんによれば、運び込まれた当初の僕は虫の息どころか、ほぼ息が止まりかけていたそうだ。傷は深く、特に背中に受けた一太刀は致命的と言われてもおかしくなかった。それでも、ミモザ伯爵家の癒術師たちが総出で治療に当たり、奇跡的に命を取り留めたという。これが貴族の財力と人脈か、と感心するほかない。


「いや、ありがたい話なんですけどね」


 と、湯気の立つ浴槽で垢を落としながら、僕は内心でぶつぶつ言った。メイドさんたちは、僕の身体をこれでもかと磨き上げてくれていた。前世なら生メイドさんによるご奉仕!と興奮するところだが、生憎5歳児な上に、今世は推しが近くにいるんだ。脇目を振らず、全力で推し活に望みたい所存である。しかし……。


「ただの平民にここまでする理由、あるか?」


 おかげで、一週間分の垢は綺麗さっぱりなくなったが、代わりに自分の貧相な体格がはっきりとわかる。腕周りでいえば、5歳児とはいえ、今ごしごししてるメイドさんの腕より細いぞ。ペッスさんも「本当に付いてるんですねぇ」と、呑気に僕の股間を見て言っていた。ってなんだそれは。確かに今世の顔はちょっとしたもんだが、しっかりと性別は雄だぞ。割と失礼だぞこの執事。


 湯浴みが終わると、今度は着付けの時間だ。これまた立派な服──どう見ても貴族が着るようなもので、胸元には派手な装飾、袖には繊細な刺繍が施されている。僕には場違い感がすごい。


「まさか……伯爵様とお会いする段取りじゃないですよね?」


 嫌な予感が頭をよぎり、恐る恐るペッスさんに尋ねてみる。彼はメイドさんたちに指示を飛ばしつつ、にっこりと笑って答えた。


「おや、伺った通り、ヴィーシュくんは賢いですねぇ。そう、その通りです。伯爵様が直接、お話ししたいとおっしゃっていますよ」


 その穏やかな声に、僕は肩をがっくり落とした。やっぱりか。いや、考えてみれば当然だ。あれだけの大立ち回りをした上で、癒術師総動員で助けてもらった平民ばかが呼ばれないわけがない。当然の帰結である。


 でも、そんなことよりも今、もっと重要な問題がある。


「ご飯っていつ出ますか!!」

「腹の音やっば(笑)」


 やっぱ失礼だぞ、この執事。






───

今週いっぱいお仕事したからおちんぎんいっぱいください

あ、おちんぎんのぎを○にかえるとひわい!

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