第9話 変な空間になったので僕はミステリーを残す為勝ちの場面になったと同時に訓練に戻った

== 謙虚だから9でいい ==



 ……。


 はーーーー???(クソでかため息)

 何言ってんだこの<モニカ>バカは???


 こんな気軽に「ちょっと盗賊はんざいしゃ見に行こうぜ!」とか言う馬鹿、初めて見たわ。渋谷のハロウィン珍走団見に行くのと理由ワケが違うんだぞ、わかってんのか???


「も、モニカ様!さすがにそれは!」


 <アレク>まで泡食ってるじゃないか。ほら、もっと言ってやれ。


「ちょっと見るだけですの!我が領を困らせるお馬鹿さんが懲らしめられる様、見たいと思いませんこと?」

「馬鹿はきみ──」


 ぶわっ、と風と共にオレの前髪がちょっとだけ切れた。

 こいつ──魔法を使えない5歳児に魔法かぜを使いやがったな。


「ふふふ、わたくしはもう魔法を使えましてよ?自分を護ることぐらい、ワケありませんですこと!」


 モニカがほーっほっほっほと高らかに笑う。


「そう。でも君が大丈夫でも、ぼくらは魔法どころか剣も振れない5歳児なこと、忘れてない?」


「あら、自信がなくて?」


「焚きつけようとしたって無駄なの。僕らはまだ訓練はじめて数ヶ月なんだから。従騎士みならいが騎士になるまで、何年掛かると思ってるの。それに、どうやって馬に乗った騎士たちに追いつけるっていうのさ」


「あら残念。場合によっては、褒賞が期待出来るクエストになりそうなのに。でも、<ドウェイン>ドゥーネはすぐに騎士になっていましたわよ?私の乗馬用ポニーちゃんで行こうと思ってましたの!」


 あ、あほか……!剣聖と言われるドウェインですら数年の下積みがあったんだぞ?たかが数ヶ月の、それも5歳児に何が出来るって言うんだアホチン!それに、仔馬で追いつけるほど、軍馬の脚は貧弱じゃあないぞ。

 呆れて物も言えない僕に、モニカは完璧な理論だと言わんばかりに鼻高々に胸を張っている。

 だが、モニカの追撃は留まることを知らない!


「冒険してこそ栄光はつかめますの!挑戦こそ──」

「蛮勇は勇気じゃない」


 あまりにも馬鹿らしいことを言うモニカに、僕は思わず言葉をかぶせてしまった。でも、止まらない。間違っていないのだから、止まっちゃ駄目だ。


「モニカ様。あなたは僕らを誘いましたね?確かに僕は騎士を目指していますが、まだ僕らはひ弱ないち領民でしかありません。領民らぼくらを危険にさらすことが、貴女の意志なのでしょうか?」


 僕は睨むようにモニカを見つめた。

 さすがに今までのいい加減な空気とは違う事を察したのか、モニカは言葉に詰まったようだ。


「やってはいけないことの分別を付けてください。ただ好奇心にき動かされて、誤ったことを取ってはいけません。遊びや訓練と違うということを御理解してください。それとも、貴女の親は、危地へ飛び込むことを良しとする人なのですか?」


「そ、そんなこと──」


「そんなことないと言うのならば、理解して学んでください。貴女がしようとしている行動の意味をすこしは考えて。不測の事態というものを想定してください。ありえないことは往々にして起こります。騎士でさえ対応しきれないことだってあるでしょう。なのに、賊を見に行く?馬鹿か!足元に落ちている石を、わざわざ踏みに行く人がいますか?常識を、良識を持って行動してください!」


 ──あれ、勢いに任せてるとはいえ、驚くほどスラスラと言葉が出てくるな。どうした、僕の社内評価コミュ力C。こんなに滑らかに舌が回るなんて……いや、これは感情に引っ張られているのか?


 言葉を吐ききった後で、僕ははっとなった。感情が、制御出来ない……?考えたことが、そのまま口に出てしまう。

 慌てて口元を抑えて、これ以上の雑言が出ないように自制したが……もう遅かった。


 うつむき、肩を震わせるモニカが、そこにいた。


「……こまでぃわなくても、いいのに」

<ヴィーシュ>ヴィー、さすがに言い過ぎだと思うよ」


 絞り出すようなモニカの言葉は聞き取れず。そしてアレクが責めるとまでは言わないけど、すこし声を荒らげながら僕の方を掴んだ。


「ヴィーシュのわからずや!」


 きっとこちらを睨むモニカの目には涙がこぼれていて。先ほどまでの自信に満ち溢れた姿は既に消え、彼女は目元を抑えながらきびすを返して駆け出した。

 彼女に僕は手を伸ばそうとしたが、何も掴めずに引っ込める。どこか痛むような間隔が残るだけだった。


 果てしなく気まずい空気が僕らの間に流れる。

 アレクはそれ以上言わずにひとつ溜息を吐き、棒振りに戻った。

 僕は伸ばしかけた手で頬を掻くと、口をへの字に曲げながら訓練を続けることにする。



 ──モニカが愛馬ポニーといっしょに姿をくらませたという報が、その日の夕方に流れた。


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